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第113話 仮住まいに行こう

 連れ去られた村の住人たちを助け出し、ルーキスたちは残っていた馬車に村人たちを乗せると、馬を引いて盗賊たちの根城であった砦跡を去った。

 

 近隣の村の住人もいたので、捕まっていた土地勘のある地元民から村の場所を聞き、経由して帰った結果、ダリルとルルアが待つ村に到着したのは日が沈んだ直後になる。


 そんな夕暮れ時にも関わらず、ルーキスたちが村人たちを救助して帰還したことで村はお祭り騒ぎの様相となった。


 住人救出の報告を受け、村長や騒ぎを聞きつけたダリルとルルアも村の出入り口にやって来る。


「父さん? 母さん!」

 

 馬車から降りてきた両親を見つけ、ダリルとルルアが駆け寄っていった。

 ルルアなどは涙を流して母親に抱きついている。


 そんな光景を眺めながら肩を寄せ合い笑うルーキスとフィリスの後ろから、村長のジガンが近付き、その気配を感じて振り返ったルーキスたちに深々と頭を下げた。


「こんなに早く救出してくるとは思わなかった。凄いな最近の若い冒険者は」


「首魁の魔法使い以外が馬鹿だったんですよ。騎士崩れや元冒険者が複数いれば苦戦もしたでしょう」


「苦戦で済むのか、三人だというのに」


「まあ、鍛えてますから」


「ありがとう。村を代表して礼は尽くそう。なんでもはやれんが、出来る限りの事はさせてもらうつもりだ」


「それなら、改めてこの村に寒冷期が過ぎるまで滞在する許可と、空き家かなにか三人一緒に住める場所をしばらく貸してほしいかな」


 ジガンの言葉に、ルーキスは今一番望んでいるものを願い出た。

 その願いに疑問を持ったのはフィリスとイロハで「住む場所ならダリルたちの家で寝泊まりすることになっているのでは?」と、ルーキスに聞くが、ルーキスはダリルが家族と抱き合っているのを見て首を振った。


「家族の団欒を邪魔できるものかよ。ダリルの母親は少し体調も悪いようだし、よそ者が入り浸るわけにはいかんさ」


「まあ、確かに。それはそうね」


「そうだな。滞在にはもとより許可を出していたからまったく構わないが、空き家か。おおそうだ、随分昔に街に引っ越した一家の家があるな。三人で暮らすには十分な広さだ。案内しよう」


「ありがとうございます。これで安全に寒冷期を越せます」


「ありがとうはこちらの方だよ。掃除と補修も村で行うとしよう。だがその前に」


「その前に?」


「宴だ。寒冷期前だから派手にはやれんがね」


 という事で、この日の晩はささやかながら村の広場で宴が行われた。

 各家庭から出された食事、飲み物を置いたテーブルを囲み、しばしの歓談の後、ジガンの声にて解散し、ルーキスたちはダリルたちの家に荷物を取りに向かう。


 その場でダリルとルルア、二人の両親に別れを告げてルーキスたちは村長宅に向かおうと思っていたのだが、それをダリルたちが「今日くらいは泊まっていってくれよ」と、止めた。


「まあ確かに掃除やら補修やらするって言ってからなあ」


「今からするわけでもないだろ。だからいいじゃねえか」


「いいのかダリル。せっかくの家族の再会だってのに」


「気にするなよルーキス。友達じゃねえか」


 ダリルのこの言葉に、ルルアと二人の両親も続けて「泊まっていって」との事だったので、村長にその旨を伝え、結局ルーキスたちはその日の晩をダリルたちの家に泊まる事になった。


 そして一夜明けた翌朝から、ルーキスたちは村長の案内で仮住まいになる一軒の家に向かうことになる。


「ここを使うといい。直ぐに補修に取り掛からせるから」


「中見るついでに掃除は俺たちがしますよ。掃除道具だけ貸してくれますか?」


「掃除道具か。それなら」


 ルーキスの言葉に村長が頭の鱗を掻きながら掃除道具を探そうと、ルーキスたちを案内した家に入ろうとしたところで、後ろから「持ってきましたよ村長」と、ルーキスにも聞き覚えがある声が聞こえてきた。


 振り返って見てみればそこにはダリルとルルア、二人の父の姿があった。

 母親はどうやら体調が優れないようで休んでいるらしい。

 三人ともホウキやハタキ、手拭いや雑巾、木のバケツを持って掃除する気満々といった様子だ。


 それだけではない、三人に続くように村人たちが集まり「さあ恩人のために一働きだ」と補修用の木材や工具片手に意気揚々としていた。


「これなら今日中に終わるな」


「ありがたい事ですね」


「そりゃあ君らは村の、いや、この辺りに住む我々全員の恩人だからな」


 村長の言葉に恥ずかしそうに笑うルーキスたち。


 三人はダリルたちから掃除道具を受け取ると、まず荷物を置ける場所を玄関から入って直ぐの小部屋に確保して、みんなで掃除に取り掛かるのだった。

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