第112話 盗賊掃討戦
ルーキスたちが連れて来られた場所は森の中に佇む砦の廃墟だった。
ちょっとした城にすら見えるその砦の中、フィリスとイロハが暴れ回っているうちに、ルーキスは魔力感知を使用して、最も大きな魔力を感じた場所へ向かっていた。
ルーキスが狭い階段を登っていると、階下から爆発音が響く。
その爆発音の直前に感じたフィリスの魔力に、ルーキスは苦笑いを浮かべた。
「派手にやってるねえ〜」
そんなことを呟きながら階段を上りきり、ルーキスは木で作られた両扉を蹴り開けた。
その先、これより上の階全てをぶち抜いて作り変えられているのであろうフロアには黒いローブを着た男と、巨大な体躯に三ツ頭の獅子の頭を生やした魔物が待ち構えていた。
「やはり貴様か冒険者」
「俺はお前なんぞ知らんがね」
「昨晩森に入ったパーティだろ。見ていたよ。馬鹿な部下はまんまと騙されたようだが、まあ問題はない。貴様も私が創り出したトリスレオーネの餌にしてくれるわ」
言いながら、黒いローブの男がルーキスに向かって手をかざした。
しかし、ルーキスに驚いたり焦ったりする様子はない。
「殺す前に一応聞いておくが、なんで盗賊に堕ちた? 出来損ないだがキメラを創り出すことができるくらいには頑張ってたんだろ? 毒の結界もそこそこ厄介だったし、真っ当に働くこともできたはずだが?」
「私の最高傑作の素晴らしさが分からんとは、所詮凡人か。私の創り出したコイツは最強だ。それを理解出来ないやつらに、私を役立たずと罵った連中に復讐するのさ」
「っはあ。しょうもな」
ルーキスはローブの男に言いながら、肩をすくめると古びた剣を構えもせずにだらりと下げて無防備で三ツ頭の獅子に向かって歩き出した。
それを見て盗賊の頭領であるローブの男は三ツ頭の獅子に「迎え撃て!」と声を上げる。
すると、三ツ頭の獅子はそれぞれの口から炎、雷、水の三属性の魔法を放つ。
それを見てもルーキスは焦らず騒がず、むしろため息を吐いて落胆した様子のまま剣を照準にするかのように三ツ頭の獅子に剣先を向けた。
「やっぱり中途半端だな」
ルーキスはそう言って魔法を発動。
三ツ頭の獅子が放った魔法と同じ魔法を放ち、撃たれた魔法を相殺するどころか完全に封殺、貫通して三ツ頭の獅子の頭を消し飛ばす。
しかし、三ツ頭の獅子は失った頭部を再生するとルーキスに向かって咆哮を浴びせた。
「クックック。ハァーハッハッハ! どうだ! これが私が創り出したトリスレオーネだ! この超速再生を持つ我が創造物にいつまで持ち堪えられるかな?」
勝ち誇ったように笑うローブの男。
そんな男にルーキスは「一撃だな」と呟いて手をかざす。
「やらせん!」
再生持ちとはいえ、黙って見ているだけでもない。
ローブの男は三ツ頭の獅子と共に魔法を発動。
ルーキスを四方から毒の霧で囲み、身動きがとれないと見て、三ツ頭の獅子が今度は同一の炎の魔法を放った。
「それは前見た」
ルーキスは毒の霧をまとめるために風の魔法を発動すると毒の霧ごと炎すら受け止めてそれをそのまま三ツ頭の獅子にまとわりつかせた。
「馬鹿な。どんな威力だというのだ。一介の冒険者程度がなぜこんな」
「そりゃあお前さん、鍛練の賜物だよ。やったことあるか? 血の滲むような鍛練ってやつ。師匠に半殺しにされたり、瀕死にされたりしたことないだろう?」
毒の霧と風の魔法、三ツ頭の獅子が放った炎が反応し合い、大爆発が起こった。
その爆発をローブの男とルーキスは結界を張り、難を逃れるが、直撃を受けた三ツ頭の獅子はその巨躯を吹き飛ばされ、体内の魔石が露わになっている。
その魔石に向かって、ルーキスは古びた剣を投げ付けた。
ローブの男は剣を迎撃するが、その魔力を固めて放った熱線はルーキスが放った同じ魔法がかき消した。
「一撃、とはいかなかったか。やるじゃないか」
「なんだ。なにが貴様をその域にまで高めたのだ。私とて研鑽は積んできた。それこそ錬金術も学び、魔法生物を創造出来るほどに」
「そうだな。その力、その才能。良い事に使ってりゃあ潰すこともなかったんだがな」
「教えろ少年。どうやってその若さでその領域に辿りついたのだ。その力で何をしようというのだ」
「ふむ。冥界への土産に教えてやるよ。一つ目の質問の答えは死ぬ気になって人生一回終わるまで鍛えるこった。二つ目の質問への答えだが、そうだな、お前らみたいなやつから大事な人、知り合った気の良い人たちを守る。俺の力はそのためにあると思ってる」
そう言いながら、ルーキスはゆっくりと歩きながらローブの男に向かって歩いていく。
そんなルーキスに向かって、ローブの男は何度も何度も魔法を放つが、ルーキスはそれを同じ魔法で相殺しながら歩みを進めた。
「ふざけた存在だ。なんだというのだ。私は、何のために、こんな」
「さてね。向こうでゆっくり考えな」
魔力の使用限界によりふらつくローブの男。
そのローブの胸元を掴むと、ルーキスは氷の魔法で一気に男を冷凍するとその体をバラバラに砕いた。
「勿体無いねえ。道を違えなきゃそこそこ名の知れた魔法使いになったろうになあ」
呆れたように眉をひそめ、肩をすくめるとルーキスは吹き飛んだフロアを背に階下へ向かっていく。
その後、フィリスとイロハに合流すると三人は盗賊の残党を一掃。
地下牢の村人たちを救い出して帰路を探すのだった。




