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第110話 敵地潜入

 薬草摘みのため森に入った村娘を装って、バスケット片手に昨日盗賊たちを追い詰めた地点よりやや離れた位置の森の中を、ルーキスたちは歩いていた。


「武具も置いてきたけど、攫われた先で戦闘になったらどうするの?」


「そりゃあ奪うのさ。敵は盗賊、根城には盗んできたお宝もあるだろうし、その中に十中八九、武器もあるさ」


「ガントレットもあるでしょうか」


「打突用のは無いかもなあ」


「う〜。ちょっと不安なのです」


「しばらく我慢だな。手甲やらはあるだろうから、それを強化して使うようにすれば良い」


「最悪素手で頑張るのです」


「頼もしいわねえイロハちゃん」


「俺からすればフィリスも十分頼もしいがね」


 薬草摘みをするフリをして、地面に座って話していると、ルーキスの耳にカサッと小さく藪を掻き分ける音が聞こえてきた。

 

 その音に対して、ルーキスはフィリスとイロハに向かって人差し指を口元に当てる仕草で警戒を促す。


「釣れた?」


「さてね」


 その音からしばらく薬草を摘んでいるフリをしていると、ルーキスが聞いた藪を掻き分ける音はフィリスとイロハにも聞こえてきた。

 加えて落ちた枯れ枝を踏む音や、落ち葉を踏む乾いた音が響いて聞こえてきた。


 そしてついには「お! 本当にいやがったぜ! お頭の言う通りだったなあ!」とお宝でも見つけたような盗賊たちの下卑た声が聞こえ、近くの藪から五人ほど人族や獣人族、ドワーフたちが姿を現した。


「はい釣れた〜」


 盗賊たちに聞こえないように、小声で呟くルーキスに、フィリスとイロハは俯いて肩を震わせ苦笑する。

 その様子を見て、怖気ていると見たか、盗賊たちは声を上げて笑った。


「はっはっはあ! おいおい! ビビって震えてるぜ! 大丈夫だぜぇお嬢ちゃんたち〜。俺たちなんもしないからよお。大人しくついて来なあ」


 ここで村娘が「分かった! 行こう!」と快諾すれば怪しまれるのは当たり前。

 という事でルーキスは「なんですかアナタたち、私たちをどうするつもりですか?」と、抑揚のない声で言うと盗賊の一人を睨みつけた。


「三人ともいい顔してらあ。こりゃあ高値で売れるぜえ。特に、ちっこいのは変態が馬鹿みたいに高値を付けるからなあ。勿体ねえ、黒髪のお嬢ちゃんなんか俺が買いたいくらいだ」


「いいんじゃねえか? 一人くらい乱暴しても」


「馬鹿言え。お頭が見てるんだぞ。そんな事すりゃ商品を傷付けた馬鹿としてアレの餌だ。それだけはごめんだね」


「ちげえねぇ。仕方ねえなあ、仕事といきますか」


 盗賊たちの会話から、断片的に敵の情報を入手したルーキスたちは「やめなさいよ!」と、抵抗するフリをして捕縛された。

 目隠しをされ、手に巻かれた縄を引かれて歩いていくと、抱え上げられて何かの上に乗せられた。

 どうやら馬車か何かの荷台のようだ。


 森の中にどこかに続く道でもあるのか、ガラガラと車輪が回る音と振動を感じながらルーキスたちは大人しく盗賊たちの根城に到着するのを待っていた。

 

「しかし昨日の襲撃組はヘマしやがったなあ」


「あの村の連中、冒険者でも雇ったか。とはいえこうして攫われてちゃ世話ねえわなあ」


 随伴しているのか、盗賊たちの声を聞きながら馬車に揺られていると、しばらくして馬のいななきと共に馬車が止まった。

 その直後「来い」と言われ、ルーキスたちは縄を引かれる。


「黒髪のコイツ、なんか重くね?」


「お前がひ弱なんだよ。雑魚が」


「ああ? ぶっ殺すぞカスが」


 頭目の下に集ってはいて、一定の統率は取れているようだが、決して仲間意識が強いというわけでも無いようだ。


(お頭とやらを倒せば組織としては瓦解するかもな)


 と、予想しながら視界を奪われたまま縄を引かれて歩いていくルーキスたち。

 当初は固い土の地面を歩いていたはずが、乾いた木造の床の足音が少しばかり聞こえ、再び土の感触を足元に感じた頃、後ろからガラガラと鉄製の重量物が引きずられるような音が聞こえて来た。


 そのあとに続くガコンという何か扉のようなモノが閉じる音。

 ルーキスはその音や状況から城や砦の入り口にある跳ね橋を思い浮かべる。


(森の中に隠された城か砦か、さて、となると俺たちは地下の牢屋行きか。それとも早々に親玉とご対面か)


 ルーキスがそんな事を考えていると、人の気配を後ろに感じ、目隠しが外された。

 どうやらルーキスが最初に予想した通り、地下の牢屋に連れて行かれるようだ。

 ルーキスたちの眼前には人が一人通れる程度の地下への階段が盗賊の持つ松明に照らされていた。


「降りろ。踏み外して落ちても良いぜ? 悲鳴が聞けるからなあ。可愛い声で泣くんだろうなあお前たちはよお」


「良い趣味してんなあお前」


 盗賊の男はそう言ってルーキスの背中を強く押すが、盗賊から見て少女にしか見えないルーキスの体はピクリとも動かなかった。


「おっと今は女の子だったな」


 ぼそっと呟き、ルーキスはわざとらしく「きゃー」と棒読みで言いながら階段を降りていく。

 それに笑いそうになりながらフィリスが続き、イロハも危なげなく暗い階段を降りていった。


 松明を持って後ろからついて来た盗賊の方が転倒しそうなくらいだった。

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