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第109話 根城が特定できないならば

 毒が含まれた霧に阻まれ、盗賊たちの根城を探すことが難しいと判断し、村に戻ったルーキスたちを村長のジガン含めて村人たちが歓迎した。


 盗賊たちの死体は森に捨てたかどこかに埋めたか、村の前には見当たらなかった。


「凄いじゃないか冒険者!」


「盗賊たちを三人だけで返り討ちとはなあ」


 帰還したルーキスたちを囲んで村人たちは称賛の声をあげるが、ルーキスはそんな村人たちに向かって「まだ終わってはいません」と言い放つと、森で起こった事を説明し始めた。


「毒の霧?」


「結界魔法の一種です。森に使い魔でもいて襲撃失敗を見て結界を発動したか、逃げた馬が根城に帰ってそれを襲撃失敗と見て追跡されないように結界を発動して仲間を殺したか。理由は色々考えられますが、仲間を見捨てる選択が出来るほどには戦力がありそうだとは言っておきます」


 もしくはそれに見合う強大な戦力を有しているか。

 有象無象がいくら集まったところで、正直言って今のルーキスたちなら迎撃は容易い。


 しかし、例えばであるが、巨大な魔物などを盗賊が飼っているとなると話は別だ。

 そしてその場合、人を攫っている理由も人身売買のためとは限らなくなる。

 魔物の餌にするために人を攫っている可能性すらあるのだ。


「また襲ってくるってことか」


「その前に、手は打ちたいですが、まあ今日はもう大丈夫だと思いますよ?」


 結界魔法が発動したというのは、盗賊に成り下がった魔法使いが把握しているはずだ。

 そして、仲間が殺されたからといって怒り、逆襲してくるような連中ならば仲間を始末することは無い。


 それ故の確信をルーキスは村人たちに言って聞かせた。

 そして、その予想は当たり、この日の夜は静かに更けていった。


 翌日。


 ルーキスたちは村長宅にて盗賊たちの根城を探す計画をたてていた。

 

「同じように盗賊が襲ってきたとして、昨日みたいに追いかけても結果は一緒」


「ならばどうするね? とりあえず昨日君たちがたどり着いた辺りを村民たちと手当たり次第に探すかね?」


「いや、毒霧の結界がありますので流石にそれは」


「ふむ〜」


 ルーキスと村長のジガンが腕を組んで唸っていると、フィリスが「毒霧があるから通れない。でも、人は攫われてるのよね」と、イロハと顔を見合わせて首を捻った。


 その言葉に、ルーキスが「お、それ良いな。それでいくか」と、言いながら自分の手のひらを、握った手でポンと叩く。


「どれでいくって?」


「攫われりゃいいんだよ俺たちが」


「わざと捕まるってこと? そりゃあ装備外して、服だけで森をうろちょろしてれば私とイロハちゃんは、まあ、か弱いから村娘と間違われて攫われるかも知れないけど。ルーキスはどうするの? 私たちだけで根城を見つけて逃げてくるの?」


「盗賊を楽々打ち倒す娘っ子をか弱いとは言わん。それに二人だけを行かせることなんてさせない。行くなら俺も一緒だ」


 そう言いながら、座っていた椅子から立ち上がり、ルーキスはある魔法を発動する。

 頭上に指先で魔法陣を描き、その魔法陣を頭からくぐるように足元まで下げる。


 すると、ルーキスの体が光に包まれた。

 そして弾けたその光の中から顔立ちと体格が変化したルーキスだった少女が現れた。


「ルーキス⁉︎」


「声がでかい。幻覚魔法の一種。変身の魔法だ。これなら警戒はされないだろ?」


「声まで女の子なのです」

 

「ほお〜。見事な練度ですなあ。私も長く生きていますが、これほどの変身魔法は見た事がない」


 ジガンの言葉にルーキスが腰に手を当て、背中辺りまで長く伸ばした黒髪を手で払った。

 

「無駄に美人なのなに?」


「素体は弄ってないぞ? 髪を伸ばして骨格と肉付きを女性っぽく見せてるだけだ。そう見せてるだけで、中身は変わってないぜ?」


「本当に?」


 言うやいなや、フィリスがルーキスの胸に手を伸ばした。

 大きく盛っていない辺り、ルーキスは大きいほうが好きだというわけでは無いらしく、それに少し嬉しくなると同時に、手に伝わってきた柔らかい感触にフィリスは困惑する。


「感触あるんだけど」


「そう錯覚してるだけ。触られてバレてちゃ意味ないからな。まあ俺には触られてる感覚はないがな」


「え? じゃあ何? ルーキスって女装するだけでこんな感じになるってこと?」


「まあそうなるな。髪を擬装して女装すればこの見た目にはなるんじゃないか? 絶対女装なんかしないが」


「いや、してるじゃない」


「これは女装じゃねえ。魔法で女に見えるようにしてるだけだ」


「一緒じゃない?」


「いいや違うね」


 こうして、ルーキスはルー子ちゃんに変身すると、計画を実行に移すため装備をダリルとルルアの家に置きに行った。

 その際に、ルーキス改めルー子の姿を見たダリルが赤面したのを見てフィリスが「これは私のだからね!」とダリルに食ってかかる。


 事情を話すとダリルは顔を青くして俯き「たぶん、初恋だった」と何やら悲しそうに呟いていた。


「よっしゃ。準備は完了。今から自分たちを人質にしよう作戦開始だ」


「可愛い女の子の声に違和感しかない」


「可愛いだろでございますですわ」


「ご、語尾が、渋滞してるのです」


「もう、馬鹿言ってないで行くわよ!」


「へいへい。それじゃあ行ってくる。ダリル、荷物頼むぜ?」


「あ、ああ。分かった」


 こうして村娘に扮したルー子たちは昨日ルルアが攫われた森へ向かうために村の門へと歩いていく。


 その最中、村人たちから「女の子たちだけで村から出るのは危ないよ?」と、何度か声を掛けられたので、ルーキスの変身魔法は完璧な効果を発揮していることが証明されたのだった。

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