第108話 防衛戦からの追跡
村の長への挨拶を終え、村に結界を張ったルーキスたちが獣人兄妹の自宅に帰り、盗賊退治のための算段をたてていた時のこと。
村にカーン、カーンと警鐘の音が響いた。
その音にルーキスは「飛んで火に入る馬鹿な虫」とニヤッと笑いながらハルバードを担いで家を出る。
その後ろに、装備を整えたフィリスとイロハ、そして弓を手にダリルも続いた。
「昼間倒した連中を見つけて復讐に来たか、はたまた帰ってこないから探しに来たか」
警鐘を鳴らしている見張り台はルーキスたちがやって来た東側だった。
村の男衆が武器やら農具やらを手に駆けていく。
辿り着いた東門の前にはいつ盗賊たちが突入して来ても大丈夫なように村人が集まっているが、ルーキスとフィリス、イロハは村人たちの間をすり抜けて門の前に立つと「ダリルは待っててくれ」振り返りながら言う。
「三人だけで戦うつもりか⁉︎」
「まあ、まずは様子見かな。全滅させてアジトの位置が分からんでは仕方ない」
「大丈夫なのか?」
「こう見えて、俺たち三人はいくつかダンジョンを踏破しているし、それに」
俺たちは伝説の吸血鬼の弟子なんだぜ、とは言わず「そこそこ場数は踏んでるんでな」と言って笑うと、門を開いて外に出た。
フィリスとイロハが出るのを待ち、ルーキスは門に二重に結界を張ると、松明片手に馬に跨りこちらに向かってくる列に目をやる。
「夜襲に松明とは。阿呆め」
「どうするの? ここで待ち伏せる?」
「そうだな。ちょいと待つか」
「隠れますか?」
「必要ないと思うがね」
村の門を背にハルバードを担いで話していると、馬の足音と、いくつかの魔法を発動する際に起こる発光現象が確認出来た。
馬上の魔法を使える盗賊が火の魔法を放ったのだ。
それとほぼ同時に複数の風切り音も聞こえてきた。
馬上弓にて矢を放ったのであろう。
しかし、見張り台を狙った火球や、適当に放たれた矢は全てルーキスの結界でかき消されてしまった。
「うーん。張ってて良かった結界魔法」
「なんだテメェら! 村に雇われた冒険者か⁉︎」
先手を打ったつもりが、出鼻を挫かれ、馬で突撃するはずだった盗賊たちはルーキスたちの手前で馬を止めた。
「そういうお前さんらは最近この辺りを荒らしてる盗賊たちか。人攫いまでやってるそうじゃないか。儲かってるかい?」
「舐めた口を聞きやがるガキだ。おいテメェら! やっちまえ!」
先頭の馬に跨るガタイの良い傷まみれの男が声を上げ、仲間たちと共に馬から飛び降りようとした、そんな時だった。
ルーキスたちは、馬から盗賊たちが降りるのを待たずに駆け出すと、体勢を整える前にまずは先頭の男をルーキスがハルバードで串刺しに、その後ろに並ぶ二人の内の一人をフィリスが剣で斬裂き、イロハがガントレットで盗賊の頭蓋を粉砕した。
「敵の前で無防備を晒すか。騎士や冒険者崩れってわけじゃないらしいな」
「どうするのルーキス。予想以上に弱いんだけど」
「全滅させてはダメなのですよね」
初動の奇襲失敗。
それにつけて予想外な冒険者三人の戦力に盗賊たちは早々に戦意を失う。
馬から降りたは良いが、早々に三人の仲間を殺されて、逃げようと馬に跨ろうとするが、ルーキスが地面に手を付き魔法を発動、岩の杭を馬の眼前に出現させると、直後にフィリスが手をかざして複数の炎弾を発射。
馬を混乱させると、イロハが一番先頭にいた馬の尻を叩いた。
これにより盗賊たちより先に馬たちが逃走。
足を失った盗賊たちは破れかぶれで襲い掛かってくる者と、逃げ出す者に別れた。
「あ! 待て!」
「良い。逃げた奴はあと、まずはコイツらだ」
ルーキスたちを取り囲む六人の盗賊たち。
あとの数名は尻尾を巻いて逃げ出したが、その内の一人にルーキスは指をさして、その指先から魔力を圧縮した熱線を射出、逃げる盗賊の一人のふくらはぎを抉った。
「くそ! クソが!」
血を流し、転倒する盗賊の一人が汗と涙を流しながら血相を変えてジタバタと逃げていくのを冷めた目で見送ると、ルーキスは自分たちを囲む盗賊たちを睨みつける。
「この中で、人を殺したことがない奴はいるか?」
「何言ってんだこのガキ。俺たちは泣く子も黙る」
「ああいや、分かった。そういうのはいらん。フィリス、イロハ」
「了〜解」
「ヤっちゃうのです」
ルーキスたちを囲んだ盗賊たちは、一斉に襲い掛かったが、クラティアに修行を強制されたルーキスたちがそこらの盗賊に遅れを取るはずもなく。
三人はあっという間に盗賊たちを討伐すると「さて、ここからは追撃戦だ」と言ってハルバードに付着した血や油を殺した盗賊の衣服で拭った。
「二人とも眠くないか?」
「大丈夫よ」
「わたしも、平気なのです」
「では行こうか。ゆっくりな」
「死体はどうするの?」
「村の人らがやりたいようにやるさ」
そう言って、ルーキスは空中に作った水の玉をすくって顔を洗うと、戦闘前に傷を与えた盗賊の血を追って歩き始めた。
灯りを使って追跡がバレては元も子もないので、先頭のルーキスは目に魔力を集中させて魔法を発動。
月明かりや星の明かりを集めて視界を確保して進み、フィリスとイロハはルーキスの魔力のあとに続いた。
しばらく進み、血の跡が森の中に入っていったので、ルーキスたちも村から続く道から森に入る。
怪我をしている割には随分と逃げたものだなと、ルーキスが思いながら歩いていると、前方に松明の光を見つけた。
「おいやめろ! やめてくれ!」
「うるせえ! 怪我人なんて足手まといなんだよ!」
仲間割れをしている盗賊たちだった。
どうやらルーキスが負傷させた盗賊を別の盗賊が殺そうとしているらしい。
そして、命乞いをしていた盗賊は仲間に首を刺されて死亡。
ガサガサと藪を掻き分けながら他の盗賊たちは森の奥へと消えていった。
「ルーキス。どうするの? 走る?」
「大丈夫だ。見えてる、このまま追うとしよう」
しかし、この先でルーキスたちは盗賊たちを見失う。
いや、見失うというよりは、仲間を殺して逃げた盗賊たち全てが死体で見つかったのだ。
「仲間割れ?」
「魔物に襲われた感じじゃないし、仲間割れみたいだが、剣を抜いていない。魔法か呪いか?」
そんな事を考えていると、ルーキスたちを不可解な霧が囲んでいく。
その直後、耳に装着しているドライアドから貰ったイヤーカフがキーンと甲高い音を鳴らした。
「げ。毒かよ。いったん退こう。毒は面倒だ」
「なんなのよもう」
来た道を全速力で走り抜けるルーキスたち。
霧が追ってくるなどという事は無かったので、戻ろうとするが、盗賊たちが死亡していた場所まで行くと再び霧が発生したので、ルーキスたちは一度撤退。
その日は村に戻る事にした。




