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第107話 村長への挨拶

 白狼種の獣人族の幼い少女、ルルアを盗賊から助け、勘違いから襲いかかってきたルルアの兄、ダリルを返り討ちにして気絶させたルーキスたちは二人が暮らす村を訪れた。


 ルルアとダリルの自宅にて、台所を借りて昼食を振る舞い、ルーキスは目覚めたダリルから両親を助けるという願いを聞く。


 そして、ルーキスは昼食を食べ終えると白狼獣人兄妹を自宅に残し、フィリスとイロハを連れて村の村長宅に向かっていた。


「あの柵で囲まれた家がそうか」


「ねえルーキス。なんで村長の家に行くの?」


「挨拶だよ挨拶。デカい町じゃねえからな。村の長にしばらく世話になるって挨拶して顔を知ってもらうのさ。俺たちはよそ者だからな。何をするにしても、わだかまりは少ない方が良いだろう?」


「それって村長への挨拶だけで大丈夫なの?」


「むしろ村長にしっかり挨拶してれば村でのことなら大概は放免されるさ」


 そんな話をしながらルーキスはフィリスとイロハを伴って、ダリルから聞いた村長宅を訪れ、木の扉をノックした。


 しばらく待っていると、扉の向こうから足音が聞こえ、それに続くように何やら引きずる音が聞こえてきた。

 開く扉。

 中から現れたのは赤茶色の鱗に全身を覆われた大柄のトカゲが服を着て、二足歩行を始めたような外見と尻尾を持つ竜人族だった。

 

「おや? 知らん顔だな。我が村へようこそ。何用かな?」


「お初にお目に掛かります。私は冒険者のルーキス。後ろにいるのは同じく冒険者で、赤い髪の娘は恋人のフィリス。その隣のちっこい鬼人族はイロハといって仲間であり、娘みたいなものです。寒冷期が近いこともあってしばらく滞在したく思い、許可をいただきに参りました」


 ルーキスの言葉で照れるより、家の中から現れた体格のドッシリした竜人族の村長の姿に、後ろで驚いているフィリスとイロハ。


 そんな二人を尻目に、少しも驚く様子もなく、ルーキスは外見ではいまいち分かりにくいが、声の様子から初老くらいの村長に敬意を持って頭を下げた。

 

 その様子に竜人族の村長は逆に驚いたように目を丸くする。


「若い冒険者にしては随分と礼儀正しいじゃないかね。少し前に村を訪ねて来た若い金髪の二人は、男の方はともかく、女の方は何処の王族だと言わんばかりに随分と不遜な態度だったが」

 

 村長のその言葉に、ルーキスの脳裏に何故かよく知っているドヤ顔をしている吸血鬼の女の顔と、その様子を後ろから見て困っている男の吸血鬼の顔を思い浮かべていた。


「ああ〜。まあ色んな人がいますからねえ。あ、そうだコレ。角兎の角と薬草を混ぜて作った傷薬ですもし良ければ」


「ほう。薬の類はありがたいな、頂こう」


 ルーキスが持参した小壷に入れた傷薬を差し出すと、村長はそれを嬉しそうに受け取り「立ち話もなんだし上がっていきなさい」とルーキスたちを招いた。


 幼いイロハを連れているからか、どうにも警戒心が薄く思えて、ルーキスは苦笑すると後ろに立つ二人に振り返り「お邪魔しよう」と言って村長あとに続く。


 やや体格の大きな村長のお宅というだけあって、廊下は広く、椅子やテーブルなどの家具も人間用に比べるとやや大きい。

 

 村長はそんな椅子に座ると「座って構わないよ」と対面にある椅子を指した。


「失礼します」


「改めて、この村の長のジガンだ。よろしく。そういえば、昼前に村の者を冒険者が助けてくれたと聞いたが。そうか、君たちか」


 村の長、ジガンの言葉に答えるようにルルアを助けた経緯と、ダリルの話を伝えるとルーキスは再度「しばらくこの村に滞在することを許していただきたい」と、ジガンに頭を下げた。

 ルーキスに続き、フィリスも頭を下げ、二人が頭を下げたのを見てイロハもペコッと頭を下げた。


 そんな三人の様子にジガンは顎に手を当て自慢の鱗をガリガリ撫でる。


「ここ最近の盗賊たちの動きは活発だ。これまではどうにか撃退できていたが、それもいつまで保つか。まったく、寒冷期に備えなければいけない大事な時期に、迷惑な話だ。たいしたもてなしは出来ないが、盗賊退治をしてくれるというなら、此方としてはまたとない話。滞在は構わない。私たちを、助けてくれ」


「滞在許可ありがとうございます。出せる力、全てでもって盗賊退治にあたります」

 

 こうして村長ジガンに挨拶を終え、ルーキスたちはジガン宅を出ると「さてちょいと見て回るか」とルルアとダリルの家には戻らずに村の様子を見るべく歩き始めた。


「村をグルッと四角く木の柵で囲んでるだけか。よくもまあ保ってるな」


「寒冷期前だし、火の魔法が使えない人たちには暖房用の木材が必要だしってことかしら」


「たんに盗賊たちの出現が最近で、柵は魔物避け程度に使ってたんだろうと思うがね。まあ結界を張って敵意や殺意のある者は入れないようにしておくかね」


「野宿する時の結界ね」


「そう。アレの拡張版だ」


 言いながら、ルーキスは村の外周をグルッと回って魔法陣を刻んでいく。

 そうしていると、ふと、ルーキスは故郷を旅立つ際にも同じような事をしたなと、思い出していた。


「父さんと母さんは元気かな」


「ルーキスのご両親? どうしたの?」


「いや。ちょっと思い出しただけだ。帰ってくる時は恋人を連れて帰るって冗談言って家を出たけど、フィリスがいるから胸を張って帰ることが出来るな」


「もう。真面目にやりなさいよ真面目に」


「真面目も真面目。大真面目だが? また会ってやってくれよ。俺の両親にさ」


「え、ええまあ。それは、もちろん会うけど。じゃあ私の親にもいつか会ってよ?」


「もちろん。どうせいつかは会うんだしな」


「なによ。どうせいつかはって」


「何って。ほら結婚する前とか」


「き、気が早いのよルーキスは!」


「そうかねえ」


 からかい半分、本気半分で話しながら、ルーキスは結界発動のための魔法陣を地面や柵の柱に刻んでいく。

 そして日が暮れてきた頃にはその作業を終了。

 ルーキスは最後に刻んだ魔法陣に手をつき魔法を発動して、村を四角錐の半透明の結界で囲んだ。


「よし。コレでしばらくは盗賊どころか魔物に破れんだろ」


「ちょっと寒さも和らいだわね」


「気のせいだ気のせい。流石に気温の調整なんて出来んよ。ああでも一定以上の風速を持つ風は攻撃と認識して防ぐかも知れないから、もしかしたらちょっとはマシかもな」


 そんな話をしながらルーキスたちはダリルとルルアの自宅に向かう。

 そしてこの日の夜、盗賊たちは姿を見せることになった。

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