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転生したベテラン冒険者はセカンドライフを謳歌する  作者: リズ
第一章 転生と出会い、そして始まり
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第9話 新人への洗礼

 食事を済ませ、食器の回収に来たウェイトレスにルーキスが代金を払おうとしたが、フィリスがそれを制して「恩返しさせてよ」と代金を渡した。


 いつの間にやら食堂のテーブルはほぼ満員。

 今日の依頼の反省会をしているパーティや、依頼を達成したのであろう、祝杯を上げて騒いでいる冒険者達が散見される。


「ご馳走さま。いやあギルドの食事も美味いな。昔はヒデェもんだったが」


 ルーキスの最後の言葉は周囲の冒険者達の笑い声にかき消され、フィリスの耳には届かなかった。


 そんなフィリスが楽しげに周囲を見渡すルーキスから視線を逸らし、顔を赤くする。


 そこに「あ! フィリスちゃん! 良かった。ここにいた」と、声を上げながら少年が二人、気不味そうに顔をしかめながらルーキスとフィリスが座っているテーブルにやって来た。


 ルーキスがゴブリンの気を引いたと見るや、尻尾を巻いて逃げ出したフィリスの仲間の二人だった。

 片方は細くて背の高い、もう片方はふくよかで背は低め、そんな二人がフィリスに「ごめんねフィリスちゃん」と言いながら頭を下げる。


「仲間内の話に割り込むわけにもいかんし。俺は席を外そうかね」


「ごめん。ちょっとロビーで待っててくれる?」


「もう十分助けた礼はしてもらったはずだけどな。まあ分かった、またあとで」


 フィリスの表情は先程までの楽しげな物とは違い、不機嫌極まりないと言いたげな表情で二人を睨んでいる。


 パーティの問題はパーティで解決しなければ意味はない。

 そう考えてルーキスは椅子から腰を上げると、バックパックを担ぎ上げ、三人をそこに残してギルドの出入り口目指して歩き出した。


 歩き出したのだが、そんなルーキスの足元に明らかにわざと進路を塞ぐように足を出してきた男がいた。


 体格の良い男だ。


 筋骨隆々、鉄の鎧を身にまとい、無精髭を生やした中年男性。

 顔や露出している腕には大きな古傷が蛇が巻き付くように刻まれている。


「オメェさん、見ねえ顔だなあ。新人か?」


 傷まみれの中年冒険者が睨みをきかせ、しかし口元にはいやらしい笑みを浮かべる。

 その中年冒険者の仲間だろう。

 同じテーブルに座っている数人の冒険者が「おい、またやるのか?」「飽きないねえお前も」などと言いながらニヤニヤ笑っていた。


 そんな中年冒険者に、ルーキスはニコッと人当たりの良い顔で微笑む。


「今日から冒険者になりました。先輩がた、これからよろしく」


 愛想笑いを浮かべて中年冒険者の足を避け、ルーキスはロビーに行こうとするが、中年冒険者は曲げていた足をわざわざ伸ばしてその進路を妨害する。


 その様子に、ルーキスは遥か昔、前世で冒険者だった頃に見た新人いびりをしていた冒険者達の事を思い出して微笑みを浮かべた。


「いつの時代でも居るもんだなあ。どうしようもない阿呆というのは」


 呟いたその言葉は食堂の喧騒にかき消されたが、ルーキスの微笑みは中年冒険者からはっきり見えていた。

 そうなれば新人をイジって遊ぼうと考えている中年冒険者は気に食わない。


「なにニヤニヤしてんだテメェ」


 と、お決まりの台詞を椅子に座ったまま言い放ち、拳をテーブルに叩き付けた。


「いや、その足蹴ったら良いのか、踏んだら良いのか、悩んじゃってね」


 久々に感じる喧嘩の気配。

 前世では実績と年齢を積み重ねていく事で遂には挑んでくる者がいなくなり、退屈を感じたこともある晩年の自分。

 それも転生した今となっては関係ない。


 ルーキスの言葉はルーキスの予想通り中年冒険者を激怒させ、生意気を言った自分を″指導″するべく勢いよく立ち上がった。


 ルーキスよりは頭二つ分は優に巨大な男性が、額に青筋を浮かべている。


「ここじゃあ止められるかも知れねえからよ。表にでろや坊や」


「暇なのオッサン? 遊びたいなら一人で行けよ」


「ほ〜。良い度胸してんなあ坊や。吠え面かかせてやるよ」


「どうぞ、ご自由に」


 ルーキスの挑発に乗った中年冒険者が、人目もはばからず、男の仲間が「おい流石にやめとけよ」と言う言葉も聞かずにその太い腕の先に備えられた大きな拳を握り込んでルーキスに目掛けて放った。


 ルーキスから見れば遅い拳だ。

 避ける事も受ける事も容易く出来るだろうが、ルーキスはあえてそれをせず、それどころか常時発動している身体強化魔法や防壁魔法を全て解除した上で、その拳を額で受けた。


「悪くない。冒険者はやっぱりこれくらい血気盛んじゃないとなあ。でもなあ」


 額が切れ、眉間から垂れてきた自分の血を舐め、ルーキスは腰を少し落とすと、お返しとばかりに男性のがら空きの腹部に拳を固めて打ち込む。

 身体強化を解除して、それでもなおルーキスの拳の重さは男性の拳撃の威力を遥かに凌駕していた。

 

「拳撃ってのはこう打つもんだぜ坊や」


 ルーキスが拳を引くと、男は白目をむき、腹部を抑えてその場に膝を付いて、しまいには床に突っ伏してしまう。

  

 静まり返る食堂内の冒険者達。

 しかし、次の瞬間にはその静寂は引いた波が押し返してくるように喝采へと変わっていった。


「やるじゃねえか少年!」


「お〜! 新人が勝ったか⁉︎ やるじゃねえの!」


 などという言葉と共に拍手やら木のコップをテーブルに打ち付ける音やらが響いてくる。


 そんな光景を見ながら、ルーキスは前世で見た似た光景を思い出していた。


(時代は変われど、人は変わらんなあ)


 ため息を吐き、肩をすくめると、倒れた中年冒険者に手を翳し、回復魔法を掛け、苦笑いを浮かてロビーへ向かおうとするルーキスの肩を後ろからやって来た何者かが掴んだ。


「ちょっと! 何やってんの⁉︎」

 

「ああ、ちょっと喧嘩の大安売りしてたから、安く買った」


「もう馬鹿! 大怪我したらどうすんのよ! 出るわよ、ついて来て!」


 慌てた様子で言ってきたのはパーティの少年二人を一喝し、テーブルに置き去りにしてやって来たフィリスだった。

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