16
前回のあらすじ
星乃君、ゲーセンで女の子を助けようと頑張る。
「それじゃあ、行ってくるね。ご飯は」
「分かっておる。気を付けての~。」
「少しは家事とか…はぁ…無理か…」
せんべいをかじりながらテレビを見ているステラに、留守番を頼んで学校へと向かう。
リクオは朝練のため、今日は先に登校しているようだ。
久々に静かに登校できる。…なんか、今までいろいろありすぎて物足りない気が…
いやいや、気のせいだ気のせい。何もないに越したことはない。
土曜日。3人で出かけた時だって色々あって、大変だったじゃないか。
だから日曜日はずっと家にいて家事をしてたし、後はステラと一緒にゲームをしただけだ。
うんうん。こういう何気ない日常が、いずれ大事だったんだって事が多いらしいし。これでいいはず。
その後本当に何もなく学校についた。…物足りなくなんてないし。ないし!
教室へ入る時は挨拶をしようとするが、死にかけの虫みたいな声しか出ない。
他の人は普通にあいさつしながら入ってくるからすごいと思う。僕もいずれ出来るようになりたいものだ。
そう思いつつ席に着く。すると、
「お、おはよう…ございます。星乃君。」
「!おはよう、望月さん。」
隣から、控えめな声であいさつをしてくれた。すぐにあいさつを返す。
ああ~、挨拶しあうってこんなにいいものなんだなぁ。うれしすぎて、涙ちょちょぎれそう。
「あ、あの、星乃君。…先日はありがとうございました。」
「先日?…あっ眼鏡のこと?気にしないで。僕が勝手にやったことだから。」
「いえ、そんな。すごくうれしかったです。私のためにいろいろしてくださって…それに…と、友達になってもらいましたし…」
「それこそ、僕の方がお礼したいくらいだよ。」
「そ、そんな…大袈裟ですよ…あ、あの…れ、れれん…さきこう…ん。」
スマホを握りしめて何かを言おうとしている望月さん。けど、恥ずかしがっているのか最後まで言葉にならない。
僕はちらりと、彼女のスマホの画面を見る。…会話アプリ、linkの画面が出ている。
…なるほど、なにがしたのかは分かった。ここはまた、僕の男気を見せるっきゃないね!
「…えっと、その…よ、よかったら…なんだけど…連絡先のこうきゃんをしみゃひぇんかっ!?」
大事なとこで噛んだよ。もはや何語かわからない。
「ひゃ、ひゃい!こ、ここここちらこそ…不束者ですが…お願いしまひゅ!」
彼女噛んだよ。それに、その言い方だと結婚の挨拶みたいだよ。
いや、あえて指摘しないのが大人の対応ってものだ。…僕はもっと噛んでたし、誰だって失敗はあるもんだ。
お互い恥ずかしさで何も言えずにいると、周りからの笑い声が聞こえてきた。…はっず!
望月さんも恥ずかしいのか、耳まで真っ赤になっている。
まずい!このままだと、はずかしさといたたまれなさと心強さでトラウマになってしまうかもしれない!…心強さは関係ないな。
それよりも!こ、ここは僕がフォローしなくては!
「え、えーっと…あっそうだ!ねえ、望月さん知ってる?この近所においしい喫茶店が」
「ふぇ!?なななななななななななんですか!?わたわわわわたしは、何も聞いてませんが!?」
「いやそんなきょどらなくても…」
喫茶店の話題を振ったら、バイブレーションみたいに震えだした。は、速すぎて分身してる。ワニム無双転生を…
んーまあ、学生の間で噂になってるみたいだし、望月さんも知ってるよね。
…は!これはもしかして、一緒に行きませんか?…って誘うべきだったのか?
絶対そうだったよぉ…友達として、どこかに遊びに誘えるチャンスだった。
まあでも、周りの声が聞こえなくなったみたいだし、フォローは上手くいったのかな。
…それにしても、やっぱりかわいいな。
赤面しながら、あわあわしている姿はとても愛らしい。
それを見てるとなんだかドキドキする。これはもしかして……母性?
うん、多分そうだ。望月さんの相手をしていると、いろいろしてあげたくなるし、怪我しないかハラハラする。…これどっちかというと、孫に接するおじいちゃんなんじゃ…
「はぁ…はぁ…す、すみません取り乱して…」
「気にしなくていいよ。よかったら飴食べる?落ち着くよ。」
「あ、ありがとうございます。」
カバンから飴を取り出し、彼女に渡す。その時、教室後ろ側の扉から誰かが入ってきた。
その姿を見て、僕は固まった。体の一部分は縮こまったけれど。
このクラスで誰よりも小さい身長。乱れた赤い髪に、眠そうな瞳。
間違いない、ゲームセンターで絡まれてた子だ。…小学生じゃなかったんだ。
てくてくと、小さな歩幅で望月さんの前の席まで歩き席に着く。
そっか、前の席の子だったんだ。どおりで見たことがあったはずだ。
「…星乃君?」
「ん?なに?望月さん。」
「いえ…星乃君が別の女を見て…いえ、なんでもありません。」
「…なんかいま変な言葉が聞こえたような…」
「気のせいですよ。」
「そっか…気のせいかー。」
「そうですよ。うふふふふ…」
心なしか、目に光がない気がするんですが。
…あれ、もしかして望月さんってヤンから始まって、デレで終わるやつなのでは?カバンに包丁とか入ってないよね?あの女に毒されちゃったんだ~とか言わないよね?CD出てないよね?
いや!きっと気のせいだろう。うん、漫画の読みすぎかな。反省しなくては。
「ん?」
なんか右腕があったかい。それになんかまぶしいような……いや…まさかね。
視線を右腕に落とすと、そこには光り輝き熱を放つ腕輪が。
…まじか。
さっきまで光ってなかったのに、今光ったってことはついさっき教室に入ってきた人だ。
扉の方を見たが、HR直前で入ってくる人はいない。
というか…うん、もう一人しかいない。
ちらりと、視線を前に向ける。机に突っ伏した小さな体が、上下に揺れている。寝るの早!
…どうやら次は、この子みたいだ。はぁ…また、頑張らないといけないのかぁ…
「…どこ見てるんですか?どうして私を見てくれないんですか?」
…その前に、隣のヤンデレさんを何とかしなくては。
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