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流れ星が願い事をしてきた。  作者: スルメ串 クロベ〜
17/29

15.望月春奈1

この先もずっと一人。私はそう思っていた。

子供の頃から話すのが苦手で、友達なんて一人もいなかった。

たまに誰かが話しかけようとしてくれても、人見知りもあって上手く会話できない。

そんな、話しても楽しくない私と友達になってくれる人なんていない。

だから私は物語の世界へ逃げた。そうすれば、一人の時間を寂しく過ごすこともない。

…それに、楽しそうに話す彼らを見てうらやましいと思わなくて済む。


けど、それが人見知りを加速させた。

それに、視力が落ちたせいか目つきも悪くなって、ついに私に話しかけるクラスメイトはいなくなった。

でもそれでもいい。本さえあれば一人でも大丈夫。

それに、話をしても気が合わないかもしれない。私の言葉で相手が傷つくかもしれない。

だからこれでいい。…そうやって、自分に言い訳をし続けたまま中学を卒業し、高校へと進学した。


中学卒業時、四六時中本を読み続けていたせいか、私の視力はかなり落ちていた。

そのせいでの前を見るのもすごく苦労した。

一度、親にそのことを相談しようとしたこともある。

…だけど、いざ話そうとした時、


『どうしてそこまで視力が落ちたの?』


そう聞かれると思ったら、急に怖くなった。

その時の私には嘘をつくなんて考えは全くなかった。正直に話すことだけしか頭にない。


学校で本ばかり読んでいて視力が落ちた。

もしそう伝えたら、両親はどう思うだろう。

どうして学校で本ばかり読んでいるの?友達と話したりしないの?…そう聞かれると思って、どうしても話せなかった。


だから私は、祖父の古い眼鏡を勝手に借りた。

私に合わせたものじゃないから、はっきりと見えるようになったわけじゃない。

それでも、着けないよりは見える。

それに、祖父の事は昔から好きだった。一人でいることが多い私の相手をよくしてくれたし、本を読むようになったのも、今思えば祖父の影響だったのかもしれない。

そう考えるとなんだかうれしく思えてくる。


だけど、両親に眼鏡をかけているところ見られるわけにはいかない。

だから家を出るときはつけずに、外で眼鏡をかける。そうしてごまかしすことにした。

こうすれば両親に理由を聞かれることもない。…でも、顔を見るたび罪悪感を覚えた。

けれど、これでまた本を読んで一人で過ごすことができる。


…本当にこれでいいのだろうか。

このままずっと、友人と呼べる存在ができず一人きり。そんな人生で…

どの物語の登場人物たちも、友人や仲間と呼べる人たちと楽しそうにするものばかりだ。

それを読むたび、自分にはないものと感じうらやましかった。

…そう、うらやましかった。もう自分でも分かってる。


私は、一人でこの先も生きていけるほど強くない。

せめて、だれか一人でいい。隣にいてほしかった。

一緒に笑って、泣いて、喜んで、喧嘩して…恋をして。そんな、他の人にとって当たり前の日常を、私も過ごしてみたかった。

だから、入学式前日。窓から見える満点の星空を見て、思わずそう願った。


友達が欲しいと。


創作物だったらきっと、星が願いを叶えてくれる。

…でも、私の世界じゃそうならない。

落ち込みながら、明日の準備を済ませベッドにもぐる。

その時、何か違和感を感じた。


「…?なんだか、胸が温かく…気のせい…かな。」


きっと、明日の事を考えて緊張しているのだろう。

そう思う事にして、眠りへと落ちていった。




高校生活が始まった。

新しい学校。初めて会うクラスメイト。

ここで勇気を振り絞って話しかければ、私の学校生活はきっと華やかなもになる。

…だけど私は相変わらずだった。

誰とも話すこともなく、目を合わすこともなく1日を終える。

自己紹介でも、


「望月…です。…よろしく……お願いします…」


そう小さな声で、必要最低限の事だけを話す始末だ。

担任の先生も私の声が聞こえていないかったのか、私が座ると慌てて次の人に回していた。


やっぱり…私には無理だ。

結局変わる事なんてない。私は高校でも…一人だ。

…ただ、


「えーっと…ほ、星乃…空です。……以上です。」


隣の席の男子。自己紹介で、私と同じくらいしか話せない男の子。

中性的で、最初に見た時は同性かと思ってしまった。

緊張した面持ちで、短い言葉を話す彼。思えば彼も、今日一日他の人と話していないかった。

そのせいだろうか。失礼かもしれないけど、彼にとても親近感があった。


もしかしたら、彼なら友達になってくれるかもしれない。

そんな淡い期待を持ち、放課後を待った。

彼が帰る準備をしている間。なんとか声を絞り出そうとしたけれど、結局声をかけることすらできなかった。

結局、高校でも友達が出来そうにない。

…いや、まだ初日だ。明日は頑張って声をかけてみよう。


そう思える事が、自分でも不思議だった。

でも、その通りだ。まだ始まったばかり。あきらめるのは早い。

翌日。


「名前をよぶなぁああああああああ!!」


彼が授業中に突然そう叫んだ。周りの視線が痛い。

…あれ、もしかしてこの人危ない人なのでは?友達にならない方が私の為なんじゃ…

い、いや、きっとなにか事情が…どんな?…分からない…


この時の私は、まさか彼と友人になるとは全く思ってなかった。

転機が訪れたのはその翌日。


チャイムが鳴り、先生が入ってくる。

私は引き出しからノートと教科書を取り出し広げようとした。

…だけど、教科書がどこにも見当たらない。


どうしてっ?私は軽くパニックになっていた。

鞄の中も探したけれど見つからない。そこでようやく思いだした。

昨日の夜、予習をするため自室で使った。その途中母に呼ばれ、その後遅くなったからそのまま眠ってしまった。

…その後に鞄に入れた覚えがない。


冷水をかけられたように、血の気が引いていく。

どうしよう…もし、先生に当てられたら…そう考えたら、怖くなってきた。

でもどうしたらいいか分からず、ただ俯いて、泣くのを我慢するしかできなかった。

後はもう、当てられないことを祈るしか…


「…きょ、教科書わすれたの?」

「え?」


突然の事に驚きながら、声の方を見る。

そこには、ひきつった笑みを浮かべながらも、心配そうに私を見る星乃君がいた。

私は答えることも、うなずくこともできずただ彼を見ていた。


「よ、よかったら、どうぞ。」


そんな私に、何を思ったのか自分の教科書を渡してきた。

…え?でもこれを渡したら、彼はどうやって授業を?


「え…あの…でも!」


疑問が溢れ、いつもは出ない声が出た。

けれど疑問を解決する前に、先生に注意され聞くことができなかった。

さらに彼は、教科書を忘れたのが自分だと言い、私をかばってくれた。


「えっと…というわけ…見せてもらってもよろしいでしょうか?」


他人行儀にそう尋ねてくる彼に上手く答えることができず、結局何もなかったかのように授業を受けた。

机をくっつけたことで、すぐそばに星乃君がいる気まずさを感じながら何とか授業を聞く。

こうやっていると、恋愛小説のシーンを思い出してしまう。

確か、ページをめくろうとして手が重なって…って!何余計なことを考えて…

それに、あの作品の男性はもっと男らしい人。星乃君はそれとは違うタイプ。…でもどちらかというと、星乃君の方が…ってぇ!?そうじゃない!


悶々としていると、授業の終わりを告げるチャイムが鳴る。よ、よかった…これ以上考えていたら…うぅ…

恥ずかしさを感じながら、これ以上妄想を膨らませなくていいと安堵した。

…そうだ。今は、


「あ、あの」


私をかばってくれた彼に、せめてお礼を言わないと。

そう思って声をかけようとした。けれど授業担当の先生と入れ替わるように、担任の先生が入ってきてHRを始めてしまった為タイミングを逃してしまった。

先生の話が終わるのを今か今かと待ち続け、ようやくその時が来た。


挨拶を終え、みんなが帰り支度を始める。隣を見ると、彼も同じように支度を始めていた。

…もしかして、教科書を渡したことを忘れている?

いえ。例えそうだったとしても、きちんとお礼は言いたい。

逸る気持ちからか、彼が立ち上がった瞬間。


「あの!」


そう声を上げ、思わず服を掴んでしまった。

その声に驚いたからか、少し驚いていた。

…でも、この後どうしたらいいのだろう。ひ、ひとまずお礼を言わないと!


「こ、これ!え…っとあり、がとう…その」


会話に慣れてないせいで、思った通りに言葉が出てこない。

けれど彼は、そんな私に気づかいまでして去っていった。

よかった…ちゃんとお礼は言う事が出来た。


…本当にこれだけでいいのだろうか。


いつもならこれだけでも、満足して帰路についたかもしれない。

でも今はそれで終わらせたくない。そんな気持ちが胸の中にあった。

…今なら、会話のきっかけがある。こんなチャンスがまたあるとは思えない。

これを逃したら、次はもうないかもしれない。


…待ってるだけじゃダメだ。高校生になったのだ、変わっていかないと。

そう思い立った私は、彼の後を追いかけた。

廊下を走るなんて初めてだ。でも、不思議と悪くない気分。


幸い彼には、下駄箱で会う事が出来た。

会う事はできたのだけれど…この後の事を全く考えてない。

ど、どうやって誘えば……そうだ!

この前呼んだ小説で、ヒロインが言ってたセリフ。それを借りよう。


息が上がっているせいか、心臓の鼓動がやけに早い。

…違う。これは緊張だ。誰かを誘うなんて生まれて初めてだ。

からからに乾いた口を何とか動かし、言葉を紡ぐ。


「あ、の…いいいいいっしょに…帰りませんきゃ?」


噛んだ。だめ、恥ずかしくて顔が熱い。

やっぱり、今すぐこの場を立ち去って


「え、あうん…はい。いいですよ。」


…きっと私は、夢を見ているに違いない。

だって、誰かと一緒に下校するなんて…そう思い隣を見る。


…うんいます。これ夢じゃないです。

ゆ、夢じゃないです!それはそれでどうしたらいいのでしょうか?!

学校を出て数分立ちますが、未だに会話はない。…これはかなり気まずい空気なのでは?

ちらりと隣を見る。


…気まずそうに、苦笑いを浮かべてます。

やっぱりこの空気はダメです!で、でもどうしたら…な、なにか話題…


「「あの…っ!」」


ああ被ってしまいました!!ますます気まずいです!

星乃君も気まずそうにしてます!ど、どうしたら…

お、落ち着きましょう…そ、そうです!こういう時は今日あったことを話すといいと、何かで読んだ覚えがあります。

今日あったこと………一人で本を読んでいました。


な、なにかほかの話題……そういえば、まだきちんとお礼を言えてない気がします。

帰りがけにお礼は言いましたけど、彼は急いでいたせいかなあなあになっていた気がする。

それに、もう話題なんてない。…私は少し申し訳ないと思いつつ、


「…あの、星乃さん。」


その話を切り出した。



学校から帰った後、私はずっと落ち着かなかった。

胸がどきどきして、なんだか顔が熱い。それにすぐに顔が綻んでしまう。

でもそれが嫌じゃなく、ずっと浸っていたいと思えるような心地よさがあった。

ベッドに横になって枕を抱きかかえ、今日の事を思い出す。


「…ふふ。」


また、自然と笑い声が漏れた。

…楽しかったなぁ。

彼とは帰り道が違ったため、そんなに長い時間は話していない。

それなのに、そのわずかな時間の会話だけで、私の胸は温かなもので満たされていた。


「ふふ…かわいいって………かわ!?」


沸騰しそうな頭を左右に振り、熱を逃がす。

あんな事を、男の子に言われたの生まれて初めてだからどう反応していいか分からなかった。

…でも、嫌じゃない。それどころか…また顔が熱くなってくる。


星乃空君。

私と同じで、あまり話すのが得意そうではない男の子。

話している時すごく緊張していたし、私に対して気を使っているのがすぐに分かった。

でも嫌な感じは全くなかった。

仕方なくや、可哀そうといった感じはなく、純粋な善意で話してくれたような気がする。


「…星乃君……早く会いたいな…」

「誰に会いたいの?」

「ひゃあっ!?痛っ!?」


びっくりした!仰向けになって天井を見ていたら、突然誰かの顔が目の前に見え飛び起きた。

そのせいで、その人物と額をぶつけてしまった。

痛む額を抑えながら、誰なのかを確認する。


「お、お母さん?!」

「つつ…よ、呼んでるのに返事ないからぁ。」

「ご、ごめんなさい。」


…全く聞こえなかった。ドアノックまでしたらしいのに、全く気付かなかった。

それほどまでに、今日の短い会話が私にとってかけがえのないものだったみたい。


「…それで~?誰に会いたいの?」

「~~っな、なんでもないから!」

「ええ~?春奈が誰かに会いたいなんて初めて聞いたから、お母さん気になるわ。誰なの?まさか彼氏!?」

「かっ?!そ、そそそそ…も、もぉーー!!」


母の言葉に顔が一気に熱くなる。

それをごまかすように、部屋から押し出しリビングへと向かった。

…明日もまた、星乃君と話したい。彼も…そう思っててくれているんだろうか…

もしそうだったら、すごくうれしいな…


「あらぁ~そんなにいい子なの?お母さん妬けちゃうわ~。」

「も、もぉー違うもん!」


その後食事中、母からの質問攻撃が延々と続いた。

…途中で帰ってきた父が、母の言葉を聞いてひきつった顔をしていた。


☆☆


翌日。授業が始まっても、彼が来ない。

…どうしたんでしょう。もしかして病気?それとも…!もしかして事故に…!

そう一人で内心ハラハラしていると、


「す、すみません。遅れました…」


そう言って彼が現れた。

良かった…ひとまず、病気や事故ではなかった。

でも一体どうして?


疑問には思った。けれど授業後、それを聞く前に先生に連れていかれてしまった。

その後もタイミングを逃し続け、お昼休みになってしまう。

気づいた時には彼は教室からいなくなっていた。

どうやら、別のクラスの友人と一緒に食べているらしい。

…なんでしょう。なんだかもやもやします。


そんな気持ちを感じながら、騒がしい教室で一人食事を終え読書で時間をつぶす。…彼が戻ってきていないか横目で観察しながら。

昼休みの終わりかけ、隣の席から椅子を引く音がした。

き、来た!なにか声をかけないと。


「お、おはよう…!」


必死に考えた結果、口から出たのはその言葉だった。


「お、おはよう…ございます。」


っ!よ、よかった!今日も話せた!

すごくうれしい…?なんだか彼の顔が赤くなって…って!

どうして私はこんなに顔を近づけて!?

熱くなる顔を必死にみられないようにし、平静を装いつつ授業の準備を始めた。

…しかし、


「も、望月さん?次数学だよ?それ世界史…」

「そ、そそうですね…!」


彼にはしっかりばれて、すごく恥ずかしかった…


その日は、彼が掃除当番だった為一緒に帰ることができなかった。

少し…いえ、とても寂しい。

けれど今日は私も用事があった。お母さんに買い物を頼まれている。


一度帰ってもよかったけれど、学校帰りにスーパーがあるのでそこで済ませよう。

そう思って店に入る。…そこまではよかった。


…文字がよく見えない。

棚に書かれている文字が小さく、それが何の商品か分からない。

それにメモの文字も上手く読み取れない。

…もしかして、また視力が落ちた?


確かにここ最近、祖父の眼鏡をかけていても見えない事があった。

その都度、目を細めて読み取ろうとしていたせいですごく目が疲れる事が増えた。

だからだろうか。今日みたいに、無意識に顔を近づけていたのは。


それと、もう一つ別の要因がある…この人混みだ。

夕方に来たせいか、かなり込み合っている。

あまり人が多いところは得意じゃない。だから、少し気分が悪くなってきている。

…一度外に出た方が……あれ?


出口って…どこ?


そう思った瞬間、頭が真っ白になるのが分かった。

ぼやける視界。流れるような人混み。

どうしていいか分からず、よく見えない周囲を確認しようとすることしかできなかった。


「望月さん?」

「え?」


泣きそうになったその時、背後から彼の声が聞こえた。


☆☆☆


その後、買い物から何までいろいろと迷惑をかけてしまった。

買い物中本当に申し訳ない気持ちでいっぱいで、何度も謝っていた。

その都度、気にしないでと言ってくれたけれど、本当に何度謝っても謝り切れない。

…それに、


「もしかして…眼鏡の度が合ってないんですか?」


そのことに気づかれてしまった。

別に隠していたわけではない。…ただ、知られたくはなかった。

だって、どうして視力が悪いのか。そのことに触れられたくはなかったからだ。


…理由を知られたら、きっと幻滅される。

そんなはずないと思いたい。でも、もしされたら…どうしてもそう考えてしまう。

だから、その場では曖昧なことしか答えられなかった。


どうしたらいいか分からず、彼と別れ帰路につく。

不安な気持ちからか、視線は地面へと向けられる。

ただでさえ見えづらい視界。さすがにこのままだと危ないと、何とか前を向くが気持ちは下向きだ。


…日が落ちた為か、信号がよく見えない。

横断歩道の白線を何とか見つけ、信号が変わるのを待つ。

信号の光が変わり、車が来ないのを確認し渡る。


「危ない!!」


そう聞こえたと思ったら、腕を後ろに引っ張られ誰かに抱き留められる。

そしてすぐ目の前のを、車がクラクションを鳴らしながら走り抜ける。


…今何が?そう思い、顔を上げる。

手を引いた人は…星乃君だった。いったいどうして?

そこで私の目に飛び込んできたのは、赤い光。


横断歩道の先にある信号の光。

それはつまり…今は、赤信号。渡ってはいけなかった。

そこでようやく気付いた。さっき目の前を通り抜けた車…もし彼が手を引いてくれていなかったら、私はそこにいた。

…もし星乃君がいなかったら、私は…車に轢かれて…

そう思った途端、体が震え出した。


怖い。恐怖でいっぱいで、そんな感情しか出てこない。

地面に座り込んで、泣きそうになっていると、


「…望月さん。」


彼が私の手を握りながら、こう言った。


「眼鏡を買いに行きましょう。今すぐに、今日中に。」


私はもう、頷くことしかできなかった。


☆☆☆☆


その後はすごく、スムーズに進んだ。

彼が知り合いに連絡を取り、眼鏡を作る方法を聞きお店へと向かった。

その間も、私が事故に遭わないようにずっと付き添ってくれた。

さっき車に轢かれそうになった恐怖がまだ抜けてなくて、不安しか感じていなかったけれど、お店に着くころには少し落ち着いてきた。

…それと同時に、恥ずかしさがこみあげてくる。


(お、男の子に手を握られ…それにさっき抱きっ…!)


それ以上考えるとまずいと思い、頭を振ってなんとか正気を保つ。

そうしてお店へと入る。

店員さんとの会話も、彼がしてくれた。

私は言われた通り検査をして、フレームを選んだ。


少し悩んだけれど、彼が見ていたフレームがすごく気に入りそれにした。

そうしてできた眼鏡のおかげで、これまでとは比べ物にならないほど視界はクリアになった。

今まで見えずらい眼鏡を使い続けていたのが馬鹿に思えるほどだ。


そうだ。彼にちゃんとお礼を言わないと。

ここに付き添ってくれたこともそうだし、事故に遭いそうになったのを助けてくれたのだから。

もう彼に対しては不安なんてみじんもない。

だからだろうか。お礼を言うだけのつもりが、


「ここまでしてくれたのは、星乃君が初めてで…嬉しくて…」


そんなことまで言ってしまったのは。

少し恥ずかしかった。でも、伝えられてよかったと今は思える。

…でも、それを伝えた彼が一瞬辛そうな顔をしたように見えた気がした。


会計を終え、荷物預けていた駅まで戻ってくる。

そうするとすぐに、


「それで全部だね。それじゃあ。」


と、彼が急かすように別れを切り出してきた。

確かにもう遅い時間だ。今からどこかに行こうとはならない。

…でも私には、どうしても今伝えたい事があった。


「ま、待って…」


小さな声だったと思う。

駅の喧騒で聞こえないと思った。

でも彼は立ち止まってくれた。だから、ちゃんと伝えないと。


私と、友達になってください…と。


…けれど、言葉が出てこない。

断片的な言葉は出てきても、きちんと意味のあるものにならない。


「わ…わた…と…とも…」

「?とも?」


そのせいで、私が声を出すたび不思議そうな顔をされた。

そんなことをどれだけ繰り返しただろう。

春先の冷たい風で、手足が冷たくなっていく。


けれど。それに反して、頭と心はとても熱かった。

ほんのわずかな言葉を口に出そうとするたび、その熱が増していく。

だというのに、肝心の言葉が出ない。


でも、彼は待っていてくれた。

私が言葉にならない何かを口に出し続けても、何も言わずにそこにいてくれた。

…だというのに、私の方が先に根を上げてしまった。


…無理だ。私には言えない。

そうだ、今日はもう遅い。明日でもいいじゃない。

それに迷惑をいっぱいかけたのだから、これ以上引き留めるのは迷惑になる。

そんな、自分にとって都合のいい言い訳を並べ諦めてしまった。


「…すみません…なんでも…」

「望月さんっ!」


私の言葉をかき消すように、彼が叫んだ。

驚いて顔を上げる。そこにいたのは、視線を泳がせながら何かを言おうとする姿。

まるで…さっきまでの自分のようだ。

けれど、彼は私とは違う。


「ぼ、ぼぼぼ、僕と…友達になってくださいっ!」


そう、しっかりと言葉にした。

そのひたむきな姿を見て、胸の鼓動がまた早くなる。

この気持ちは何だろう?すごく気になる。

…でも今は、


「は、はい!よろ…しくお願いします。」

「う、うん!よろしくね!」


生まれて初めて、友人ができたことがすごくうれしかった。


☆☆☆☆☆


あの後、家に帰り両親に視力の事を打ち明けた。

両親は最初驚いたが、どうやらうすうす感づいていたらしい。

けれど、言い出さない私を見てひとまず様子見をしていた。

それに、祖父の眼鏡を使っていたことも知っていたため、それで解決したと思っていたようだ。

…もっと早く打ち明けていればよかった。両親には本当に心配をかけてしまった。


次の日、私は一人外食に来ていた。

というのも、視界がよくなったため、今まで行けなかったところに行きたくなったからだ。

今までは、休日でも家にいることが多かった。

こうして遊びに行けるのも、星乃君のおかげだ。本当に感謝しきれない。


…ただ、一つだけ悔いていることがある。それは、


「どうして私は、また明日と言ってしまったんでしょうか…」


昨日の別れ際に言った言葉だ。

次の日がお休みだと気づかず、そう言ってしまった。

その事に家に帰ってカレンダーを見て気が付いた。


せめて連絡先の交換をしていればと後悔した。

いや、星乃君ならきっと気にしないでいてくれるはず。

…うん、絶対大丈夫。多分…きっと…


そんな不安を紛らわすためにも、前から気になっていた喫茶店へとやってきた。

なんでも、ここのパンケーキがすごくおいしいらしい。

店員さんにもじもじしながら人数を伝え、席へと通される。


木造でできたお店は、雰囲気もとてもよく居心地がよかった。

運ばれてきたパンケーキを食べながら、読書とコーヒーを楽しんだ。

しばらくすると、少し騒がしい人たちが入ってきた。

私は気にせず食事を進めていた。が、意図せず彼らの会話が聞こえてくる。


…どうやら、男の子が女の事友人になったらしい。

なんだろう。その話題にはすごく親近感がわく。

それに相手の容姿。ほとんどが私に当てはまっている。こんな偶然あるんだ…

ところで、なんでそのうちの一人はこっちを見ているのでしょうか。


「…ほー。ちなみに名前は?」

「望月春奈さん。」


ガチャ―ン!

自分の名前が出てきて思わず、手に持っていたカップをお皿の上に乱暴に置いてしまった。

いや、それよりも!どうして私の名前が?!私によく似た人の話のはず…

…もしかして、あそこに座っているのは…!ほ、星乃君!?


思わず声に出そうになるのを必死に抑える。

再びその席へ視線を向けると、さっきの男の子がこっちをにやにやとした笑顔で見ている。

も、もしかして…星乃君の話に出てくる女の子が私だと…バレた?


い、いやそんなはずない。

だってあの人は私と話したこともなければ、顔や容姿、ましてや名前も知らないのだから…

…あ、あれ?よく考えたら、さっき星乃君が全部言ってしまったような…

その考えを肯定するように、男の子がいたずらっ子の笑みを浮かべる。

…すごく嫌な予感がする。


「なるほどね…ふーん…で、ノゾラはその子の事どう思ってるんだ?」


な、なんですかその質問!?本人がいるかもしれないのに、どんなこと聞いてるんですか!

あっでも少しだけ聞いてみたい…でも、変な風に思われていたらどうしよう…


「どうって…んーきれいな子とは思ってるよ。」


ガチャ―ン!

手に持っていたナイフを、思わずお皿の上に落としてしまった。

き、きききききききれいな子ーーーー!!??

だ、ダメです!これ以上は心臓が持ちません!もうお店を出てお会計を…

って!またあの人こっちを見てます!それにあの笑顔!絶対にまた何かしそうな予感がします!


「へ~、それでそれで?(ニヤニヤ)」


その顔やめてください!


「なんでそんなに笑顔なの…まだあまり話したことないからさ。まあでも、おとなしくてすごく真面目な子だと思ってる。」


星乃君…!私の事そんな風に見てくれていたんですね…少しはずかしいですけど、嬉しいです。


「多分周りがちゃんと望月さんをの事を知れば、モテモテになるんじゃないかな?僕も可愛いと思ってるし。」


どんがらがっしゃーん!

ついに限界を迎え、机に顔から突っ込んだ。

kふふぢnfdnffじゃfvmkdm!!?!?!?!

も、モテ!?私が!?どうしたらそんな発想が出てくるのでしょうか?!

それとまた私の事か、可愛いって…!


「お、お客様?大丈夫ですか…?」

「…ダメそうですぅ…」

「あっはい…そうですか…えっと…ご愁傷様です。お皿下げますね。」


もーーーーー!!彼はどうしてあーもあっさりとあーいう事を言うんですかー!

私がどれだけドキドキ…恥ずかしい思いをすると思っているんですかーーー!!

もおおおおおおおおおおおお!!!!

…それと、


「ふーーーーん?(ニヤニヤ)」


…あの人は絶対に許しません…


その後彼らが店から出た後、何を思ったのか私は彼らの後をついて行った。

多分、あのロリコン?っていう人への怒りのせいだと思う。

そして、陰から星乃君を観察し続けたのだった。

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