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前回のあらすじ
主人公、車に引かれそうになっているヒロインを救う
眼鏡を買いに行こう。
そう望月さんに告げた僕は、数少ない友人の一人に電話した。
その友人も眼鏡をかけていて、しかも結構な頻度で変えている。
「…うん、そっか。教えてくれてありがと。え?あーうん、明日ね。それじゃ。」
電話を切る。
不安そうに近くに立っている望月さんに、聞いたことを教えてあげよう。
そう思って声をかけようとした時、彼女が何かつぶやいた。
「…達…」
「え?」
「っあいえ、何でもありません。」
「そう?あっ友達が駅の近くにいい店があるって。学生証があると安くなるらしいけど…持ってる?」
「はい…」
「そっか。それじゃあそこに行こうか。」
そう言って駅へ向かった。
……さっきのやり取り、はたから見れば僕は普通に見えたかもしれない。
いやむしろ、危ない目に遭うところを救ったヒーローみたいに見えているのかも。
けど、内心は…
(ぬわあああああああああ!!!なんであんなこと言っちゃたんだぁああああああ!!!)
この通りのチキンハートだった。
彼女を助けて、眼鏡を買いに行くと告げた。そこまではまだ、彼女の心配で頭がいっぱいだった。
…けど、ぶちまけた荷物を拾っているときに我に返った。
世話焼きな自分の性分を、これほど後悔したことはない。
ぐ…でも後には引けない。言ってしまったからには、最後まで責任を持つべきだ。
それに彼女が心配なのは本心だし、放り出して帰るなんてできない。
覚悟を決め彼女を店まで連れて行った。…足震えてるよ。
結構あっさりと、眼鏡は作れた。
元々かけていたものと度が違いすぎたため、検査などあったけどそれほどかからずにできた。平日だし、空いていたのも大きい。
フレーム選びに少し時間がかかっていたけれど、最終的に店員さんが勧めたものを選んでいた。
前の古風なものと違い、薄い青色のフレームでシンプルで可愛らしい眼鏡に変わった。
「どう?ちゃんと見える?」
「は、はい。すごくはっきり見えます。ふわぁ~こんなに違うんですね…」
「…そりゃあれだけ違ってれば…」
「す、すみません…」
「い、いや謝ってほしいわけじゃないよ。しっかり見えるようになってよかったね。」
「はい…すみません…」
望月さん自身は自分の視力を0,1ぐらいはあると思っていた。…けど検査したらそれ以下。そりゃあ見えないはずだ。今までどうやって生活してたんだ?
隣には、新しい眼鏡をかけた望月さんが周りを見ては微笑んでいる。今まで見えないものが見えるようになるのが嬉しいのだろう。だからこそ不思議だった。
それほど違っている物を、なんで使いづつけているのかが分からない。
どうしてか聞いてみるべきか?でもそこまで踏み込んだら、迷惑かもしれない。
『なんでも干渉してきてほんっとウザい。はぁ?私があなたのこと好きなわけないでしょ?ずっと騙されてて馬鹿みたい!』
「…」
…過去のトラウマが僕の行動を縛る。
彼女のために行動したけれど、核心に触れるのは怖い。…きっと、今日が過ぎればまたただのクラスメイトに戻るのだろう。
でも、そうした方がお互いにいいのかもしれない。少し寂しいけれど。
「…あの…」
「っ…え、うん。ごめん、なにかな。」
「えっと、そのき、今日は本当にありがとうございます…眼鏡のことだけでなく、事故に遭いそうになったのを助けていただいて…」
「気にしないで。ほかの人だって、目の前で事故に遭いそうだったら同じ事をしてたと思うから。それに眼鏡は…僕が勝手にやったことだから。…迷惑じゃなかった?」
「そ、そんなことないです!」
彼女からは想像できない大きな声。
近くにいた店員さも驚いていた。
「ここまでしてくれたのは、星乃君が初めてで…嬉しくて…」
「そ、そっか。ならよかった。」
「はい…本当にありがとうございました。」
何度もお礼を言われ、気まずい雰囲気になる。何とか愛想笑いでごまかし店を出る。
…後ろで店員さんがにやにやしてやがる。レビューに☆1つけるぞ。
荷物を預けておいたロッカーから、荷物を出して彼女に渡した。
これ以上僕にできる事はない。
きっとコミュ力が高い人なら、この後食事したりして仲良くなっていくのだろう。
でも僕にはそれができるとは思えない。沈黙が続く居心地の悪さが嫌で、はやく帰りたかった。
だから…望月さんがこっちを見て、何か言いたそうにしているのを気づかないふりをした。
「それで全部だね、それじゃあね。」
そう言って、足早に帰路につこうとした。
そうだ、これでいい。
もう彼女が危ない目に遭う事もないし、これ以上関わると迷惑をかけてしまう。
それに、踏み込まなければ傷つかなくて済む。
…けれど、
「ま、待って…」
「…」
今にも消え入りそうな小さな声。彼女の切実そうな声に、思わず立ち止まってしまった。
振り返って彼女を見る。
「あ…あの…その…」
うつむいて、耳まで真っ赤にして何かを言おうとしている。
もうお礼は言われたし、用はないはず。それともまだ何かあるのだろうか。
「わ…わた…と、とも……」
「?とも?」
「とも……あぅ…」
わた…とも?……何を言いかけたのだろう。
わた……わたし?じゃあともは?
今もうつむいてもじもじしながら、何かを言おうとしているが声になってない。
ステラの言う、星の欠片っていうのを彼女が持っているなら、これが彼女の望みなのだろうか。
「…たっし…と……と…だち……に…」
わたしと…とだち?……!もしかして。
ようやく僕は、彼女は何を言いたいのかが分かった。
彼女が言うのを待つべき?
でも、望月さんはこれ以上声が出ないのだろう。うつむいてしまって、震えている。
【わたしと友達になってほしい。】彼女はそう言いたのかもしれない。
…けど、それが本当かどうか確信が持てない。
もし違っていたら?僕がそう思いたいだけなのでは?
このまま黙っていれば、彼女はあきらめて帰っていく。そうすれば、僕は傷つかずに済む。
明日からもまた前と同じように、お互い干渉することもなくなる。
…でも彼女は?
今こうやって、勇気を振り絞って何かを…いや、違う。
もう気づかないふりはやめよう。
彼女は僕に、友達になってほしいという願いを伝えようとしている。
それを無下にしていいのか?…いいわけない。その言葉を言うのが、どれほど大変なのか…僕にはもう分かっているはずだ。
それに、彼女の願いと同じものを…今の僕は持っている。
「その……すみません…なんでも…」
「望月さんっ!」
僕の声に驚いて顔を上げて。…緊張しすぎて声が裏返った。
そうか。友達になってほしい…そう伝えるだけで、こんなにも緊張するものなんだ。
彼女はすごい。逃げようとしていた僕よりも、ずっと勇気がある。
だから僕も、なけなしの勇気を振り絞ろう。
だって、ここで逃げたら…今までと変わらないから。
「ぼ、ぼぼぼ、僕と…友達になってくださいっ!」
手を前に差し出し、90度頭を下げる。
言った。ちゃんと言えた!かなりどもったし、あまりかっこいい姿じゃなかったかもしれないけれど、ちゃんと伝えられた。…あれ、でも返事がない。
…やっぱり、僕の思い違いだった?また一人で勝手に盛り上がって、勘違いをしてしまったのか?
そう思っていたら、僕の手を誰かが握ってきた。
「は、はい!…その、よろ…しくお願いします。」
「!う、うん!よろしくね。」
彼女の小さな手を握り合いそう伝える。
…あ、あれなんか告白したみたいな感じになってない?
そう思ったらなんだか手が熱くなって…ん?
目の前の彼女を見る。…光ってるよね。うん、発光してるね。胸元が光ってる。彗星かな?いや彗星はもっとぱーって…ってえ?!
へぇあ?!アイエエエ!ナンデ!ハッコウナンデ!まさか彼女は地球外生命体だった!?
胸元の光は、徐々に外へと出てくる。完全に外に出たそれは、虹色に光る水晶のような物体。
ふわふわと浮かんだと思ったら、僕がつけている腕輪へと吸い込まれた。
「え?ん?んーーー?」
「?どうかしましたか?」
「え、今の光見えなかった?」
「光…ですか?あの何のことでしょうか…でも、なんだかすっきりした気分です。どうしてでしょう?」
…見えてない?淡く光ってて、めちゃくちゃまぶしいってほどの明るさじゃあなかったけれど、目の前を飛んでたら見えてるはず。
それなのに見えなかった。…あっもしかして、今のが星の欠片?
それじゃあ、望月さんの願いって【友達が欲しかった】で合ってたんだ。そっか…って!
「ご、ごめん!ずっと手握ってて!」
「あっいえ!い、嫌ではなかったので…」
「え?」
「っ~~すみません帰ります!ま、また明日っ。」
「あっ!ま、また明日!」
突然あわあわし始めたと思ったら、走っていってしまった。…あれ転ばないかな。大丈夫かな?
そう思い後ろ姿を見ていたけれど、転ぶこともなくちゃんと走っていたのを見て安心した。
よかった…さて、もう暗いし僕も帰ろう。
「へへ…」
胸が温かい。さっきのやり取りを思い出しては、笑みがこぼれる。
嬉しい。高校で新しい友達ができるとは思ってなかった。
また明日…か。また明日、学校で会えるのが楽しみだ。
…明日?…明日土曜やんけ…
嬉しさから反転し、がっくりと肩を落として家へと歩きだす。
春先のまだ寒い季節なのに、それに反して僕の胸の内はとても温かった。
「ただい…ま…」
「……」
家に着き扉を開けると、玄関で幼女が床に突っ伏していた。
なぜか突き出ている右手の指先に、涙で何か書いてある。…なんかBGMが聞こえてきそうだ。
『腹減った』
ぐぅ~~~~
待ってましたと言わんばかりに、腹の虫の音が玄関に響く。
「…ごめんて。」
その日の夕飯は、少しだけ豪華にしてあげた。
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