10
前回のあらすじ
主人公、ゲテモノパンを押し付けられる。
放課後。
今日は掃除当番。…なのだが、他の人がいない。どうやら帰ってしまったようだ。
何人かがこちらを窺うようにみて出て行ったけど、その人達が当番だったのだろう。まだ顔と名前が一致しないから分からない。
でもまあ…うん、これはキレていいやつですね。後で先生にチクっとこ。
「はぁ…」
思わずため息が出る。一人で掃除することへの大変さと、帰ってしまった人の気持ちが分かるような気がしてしまったからだ。
…多分だけど、僕と一緒なのが嫌だったのだろう。結構目立つことしてるからなぁー。
そんな相手と一緒に掃除するのは、やっぱり気分がいいものじゃない。
仕方ない、早く終わらせて帰ろう。帰りに少し買い物をしたいし。
それにステラのごはんを作らないといけない。
「さて…早く終わらせよ。」
…思ったよりも重労働だった。は~疲れた。
途中でサボって帰ろうかと思ったけど、自分の真面目さが裏目に出てしまった。
やりましたよ…やったんですよ!必死に!その結果綺麗になったんですよ!はぁ~満足。
ちなみに、チクるのはやめておいた。言ったら言ったで面倒そうだし、そのうち代わってもらえればいいや。
満足感を感じながら、買い物のためスーパーに寄る。
食材や調味料、それとアイス。できるだけ安いものを選んでかごに入れていく。
ステラが住み着いたせいで冷蔵庫の中がさみしいことになっていた。これからは定期的に補充しないと。…でもハーゲンも少しは買っておこう。僕のわずかな楽しみだし。
「ん?」
そうやって買い物をしていると、同じ学校の制服を着た女子生徒が目に入った。
手に持っているメモを見た後、きょろきょろと周りを見て商品を探している。…あんなゼロ距離でメモを凝視しなくても…
というか、後ろ姿に見覚えがある。
「望月さん?」
「え?……星乃君?」
思わず声をかけてしまった。制服姿という事は学校帰りに寄ったのだろうか?
…下校してから結構経ってるんだけど。それと顔が近い。どうしてこう、ガチ恋距離まで近づいてくるのだろう。
顔が熱くなるから離れてほしい。
「っ!ええっと、何か探し物ですか?」
「あっ…その…」
もじもじと恥ずかしそうにしている。僕も緊張して、思わず敬語で話してしまう。
どうしたものか…そう思っていると、手に持っているメモを見せてきた。
じゃがいも、にんじん、玉ねぎ…ふむふむ、食材的にカレーかな。望月家はヨーグルト入れる派のようだ。
「これを探しているんですか?」
「は、はい。」
「…よかったら手伝いましょうか?」
「!お願い…します…」
僕の言葉に、深々と頭を下げてくる。よっぽど困っていたようだ。
でも、どれも探すのは難しくないと思うのだけど…探し物苦手なのかな?
疑問に思いながらも、メモに書いてあるものをかごに入れていく。
…ものの数分で終わってしまった。僕は商品の入ったかごとメモを渡した。
「これで全部みたいですね。はい、どうぞ。」
「あ、ありがとう…ございます。」
「気にしないでください。それでは。」
そう言って彼女と別れる。僕も買い物が終わっていないし、早く済ませて帰らないと。
…望月さんレジにたどりつけるよね
気になって後ろを振り返ってみる。…いたよ。さっきの位置から動いてない。
最初に見た時と同じでおろおろして周りを見ている。
時折目を細めて、何かを見ようとしている。…いや、もしかして。
浮かんだ疑問を直接聞いてみることにした。
「望月さん。」
「わっ!ほ、星乃君?ど、どうしましたか?」
「あの望月さん。間違っていたらもし分けないのだけど、もしかして…眼鏡の度が合ってないんですか?」
「っ!そ、そんなことは!っす、すみません…大声出してしまって…」
「いえ…」
彼女の反応を見る限り、僕の考えはあっているようだ。
それでいつも、睨むように僕を見てたのか…教科書を見るときもゼロ距離だったし。
けどそれならなんで眼鏡を変えないんだろう?なにか事情でもあるのだろうか。
…でもそのことを聞く前に、
「えっと、とりあえず会計を済ませませんか?レジまで案内しますので。」
「…すみません。」
うつむく彼女をレジまで案内し、2人とも会計を済ませた。
ちなみに、財布からお金を出すことすら手間取っていたようなので、僕が立て替えておいた。
ここまでくると、日常生活に影響が出すぎてまずいんじゃ…
「…今日はほんとうに、ありがとうございました…」
「気にしないでください。でも、眼鏡の度が合ってないのなら、早めに変えた方がいいですよ?」
「それは…」
しまった。そう思った時にはもう遅い。僕の言葉を聞いて、顔を伏せてしまう望月さん。
…少し踏み込みすぎた。度が合ってない眼鏡を使っているのだ、きっと何か理由があるのだろう。僕の考えを押し付けるのはお門違いだ。
それに、おせっかいが過ぎるのはよくない。…また、余計なお世話だと言われてしまう。
「えっと…すみません、いろいろと言ってしまって…」
「そ、そんなことはないです!気にしていただいて…うれしかったです。」
「そ、そっか。えっと…あー…送っていきましょうか?」
「…いえ、大丈夫です。そ、それじゃあ…また明日。」
「あ、うん。また明日。」
僕に頭を下げて、帰っていった。
…大丈夫だろうか。よく見えない状態だと、帰るだけでも大変なんじゃ…
帰ろうとしても、足が止まってしまう。おせっかいだと分かっていても、どうしても気になってしまう。
不安がぬぐい切れず振り返り、彼女の方を見る。…次の瞬間、
「っ!」
僕は手に持っている荷物を放り出して走った。
そして、横断歩道を渡ろうとしている彼女に手を伸ばす。
「危ない!」
「えっ?きゃっ!」
間一髪で彼女を引き寄せると、すぐ目の前を車が走りぬけていった。
周りからも、小さな悲鳴が上がる。
それもそうだろう。あと数センチでも前にいたら、完全に引かれていた。
…危なかった。彼女は横断歩道を渡ろうとしていた。…赤信号の。
抱き寄せた彼女も、何が起こったのか理解し始めたようで青ざめている。
…もし僕が手を引かなったら…考えただけでもぞっとする。
…いや、そうじゃない。
今助かったのは本当に偶然だ。いや、それどころか今日まで無事だったのが不思議だ。
もし、ここで彼女と別れたら…この後は?信号機がある道を渡ろうとした時、同じ目に遭うんじゃないだろうか?
家にたどり着くまでに何度も…そう考えてしまって怖くなってくる。
しかもそれが、明日も明後日も続いていく。そう考えたら…
「…望月さん。」
「あ、あの…私…」
「買いに行きましょう。」
「え?」
「眼鏡買いに行きましょう。今すぐ、今日中に!」
そう彼女に告げずにいられなかった。
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