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食卓はどこですか?

スコップ猫二作目です。

前回は“スコップ”“黒猫”“扉”がお題でしたが、今回は“食卓”の一つ

試行錯誤して、食卓ネタは二つ執筆しました。まずはその一つ目です。

「ん~~! なんでこうなるのよっ!!」



 あたしは途方にくれながらも、その屋根を見つめるしか無かった。そこには大きな穴。塞ぎきれない大きな穴。


 まーぎょーさん、こないなお綺麗にぃ!


 京都出身の人なら絶対そう呟くだろう。それも興奮気味に。いやきっとそうだ。そうに違いない。

 あたしの部屋の屋根には大きな穴。1m近くの大きな穴。それが塞ぎきれずに無様なベニヤ板で中と半端に修理されている。



「あいつのせいだ……」



 これをやったのはあいつ。そう、懐かしのスコップ猫。

 知らない人のために念のために説明しておくけど、そいつはれっきとした猫だ。ただし二本足、そしてスコップを抱えた変わり種。

 誰がどう見ても変。その変な彼はあたしに『扉はどこですか?』と言う言葉を問い掛けると、あたしをその『扉』探しに借り出した。

 街中を捜し歩いた末に、それを見つけたのはなんとあたしの部屋の屋根裏だった。ちなみに北欧神話のケットシーと言う猫の妖精の話を思い出すといい。連中には王国があってそこは屋根裏なのだ。

 まぁ、あの時は神話そのままの体験にうれしかったけど、彼がその屋根裏の『扉』をスコップで『掘り開けて』立ち去ると、後に残された現実というやつに襲われた。


「んで、この穴はどーすればいいの?」



 魔法みたいに勝手に開いた穴は、また魔法の力で塞がって……はくれなかった。

 でもこんな変な話を安易に信じてくれるヤツなど居るはず無い。ダチに話したら白い視線とともに黙って精神安定剤を差し出してくれた。



「ねぇ? 受験ノイローゼ?」



 あいつのあのマジな言葉は今でも忘れない。友達でさえこうなのだ。親に至ればもっとひどい。



「で? 誰が塞ぐのかな?」



 パパはにっこり笑ってそう言った。



「うちには補修費用なんてないからね」



 ママは真っ赤な家計簿を開いて冷淡にそう言った。捻出費用は三十万。で、あたしはバイトをしている。

 今こそ言わせてくれ。



「これって絶対、あいつのせいだ」



 そんな言葉を念仏みたいに呟きながらバイトから帰る途中のある日の夜の事だ。あたしは嫌な予感に襲われた。

 あたしは目をこすった。思いきり、二度三度と。


 そこに居たのはヨロヨロしながらつるはしを背負う猫。それもまだまだ小さな子猫。白黒ぶちの日本猫だ。



「あの〜〜」


「……なによっ」


「つかぬ事お尋ねしますが『食卓』はどちらでしょう?」



 いやにバカ丁寧な猫だった。ついこちらも丁寧に答え返してしまう。



「しょ、食卓? ですか?」


「はい」


「しっ、知らないなぁ」



 あたしはかつてのスコップ猫の記憶から本能的に危険を回避した。ここで同情的になって一緒に探そうなどと考えたら絶対にまたぞろトラブルに巻き込まれる。きっとそうだ、そうに違いない。わたしは逃げる事にした。



「そうですか。ではしかたありません」



 彼はまた丁寧にペコリと頭を下げると、ヨロヨロと立ち去って行った。

 冷たい? そんなの勝手な意見よ。正直言ってあたしはホッとしたね。もう二度と現われるなとも思った。でもその思いは甘かった。



「ただいま〜」



 あたしは夜遅くにバイトを終えて帰ってくるとそのまま自分の部屋へと向かった。



「お腹すいたな〜」


「おや、そうですか? ではいっしょにどうですか?」



 自室のドアを開けたとたんその声は聞こえてきた。あたしのコタツに入っている猫が居た。黒地のホワイトソックス。その傍らには見覚えのあるあのスコップ。



「お久しぶりですね」


「そ、そうね」



 あたしは聞きたい。こいつがなんでここに居るの?



「あの聴きたいことあるんだけど」


「はい」


「どうしてここに居るの?」



 彼は黙って屋根を指し示した。するとそこにはポッカリと大きな穴。前より増して大きな穴。



「アーーーーーーーーーーっ!!」


「いやぁ、すいません」


「すいませんじゃすまないわよお!! もっと大きくなってるじゃなーい!!」



 叫んだあたしに彼はペコリと頭を下げた。



「失敗してしまいました」


「それで済むか! ばかぁーーーーっ!」


「穴が大きすぎました」


「やかましいっ!!」



 あたしは半べそで叫んだ。もう居たたまれない事極まりない。でも彼はもっと居たたまれなかったらしい。おもむろに土下座をしたのだ。



「謝って済む事とは思いませんが、そこを曲げてお願いしたいのです!」


「……なにをよっ」



 あたしは困っているやつを見過ごせないタチだ。こればっかりは自分の性格と言うヤツでどうしようもない。床に頭を摩り付けて懇願するネコを邪険にも出来ない。



「探して欲しい連中が居ます」



 彼のその言葉に思い当たるフシが有った。



「あのさ、それってひょっとして『つるはし子猫?』」


「……なんで知ってるんです?」


「あ? やっぱり?」


「はい」


「それって一匹?」


「いいえ、十三匹」



「お、お子さんかな?」


「いいえ、全員私の生徒です」


「そっかー、生徒さんかーって、えええっ!?」



 あたしは思わず吹きだした。



「あ、あなた『先生』なの?」


「はい、母国の小学校で時空転移について教えています」


「じ、時空転移?」


「はい、わたしが常々やっている様に、道具で『扉』を開けて別の世界へと移動するあの方法についてです」


「あれって学校で教える事なの?」


「えぇ、適切な方法を取らなければ、時空の彼方に飛ばされてしまう恐ろしい技術です。みんな学校で必ず覚えなければならないんです」



 彼は思いきり真顔で言った。信じるしか無かった。正直、内心、『あんなに間抜けなに?』と思ったがそれは口にしない。



「ふーん。で、なんで生徒さんたちはあなたと一緒じゃないのかな?」



 そう問えば彼は黙って頭上を指差した。



「ですから穴が大きすぎたんです。あんまりに扉となる穴が大きすぎると、次の世界へと向かう際に『収束率』が低下して転移位置がバラけてしまうんです」


「ふーん」



 なんの事か半分程度しかわからなかったが、あたしはとりあえずうなづいておいた。



「で、探す際の目印は?」


「みんな、私の様に何かしら『道具』を持っています」


「扉を開けるためのね?」



 彼は頷いた。ここまで聞いたらもう逃げられなかった。



「解ったわ、手伝いましょ」


「ほ、本当ですか?」


「ただし!」



 あたしは思いきり強く宣言した。今度ばかりは無償で動く気にはなれない。その気配を察したのだろう。珍しくも今度は彼がドもったのだ。



「な、なんでしょう?」


「あたしの両親に説明してちょうだい、これについて!」



 そう宣告すると頭上のこの巨大な穴を私は指し示した。当然の権利だ。でなければ今以上にこの穴の補修費用を捻出しなければならない。



「あ、あの……他世界の方々との接触は可能な限り…」



 そこまで言った彼だったが、あたしの目線が尋常ならざる光を湛えていたのに気づいたのだろう。



「……わかりました」



 彼は小さな声で撤回した。

 あとはもうなし崩しだった。80日間世界一周を地で行くキャラクターの出現に、パパは絶句し、ママは床を転げまわる勢いで喜ぶ始末だ。



「あの……屋根を……」


「ん〜〜? いいのよぉ! 屋根なんて一つや二つ!」



 目じりをトロトロ状態にして、ママはそう言った。

 このヤロー、あたしの時とえらい違いじゃない! このリアクションで察しの通りママはネコ好きだ。ただしネコアレルギーのパパのためにさすがに飼うのは遠慮していたのだ。ご多分に漏れず、苦笑いでパパは我慢していた。それを察してあたしはそそくさと外へと出て行く。



「そう言えば『食卓』って何なの?」



 あたしは駆け出しざまに彼に尋ねた。



「食卓って、食卓の事ですよね?」



 解ったような解らないような答。



「あぁ、それってあれです。こちらでの万一の場合の集合場所です」



 そう言って彼が指差したのはあたしの家、紛れも無くあたしの30年ローンの4LDKの家だ。



「いやぁ、こちらで土地鑑の有る場所と言えばあなたの所くらいでしたので」、そう言う問題か?


「こんなわかりやすい場所で何で解らなくなるのよ!」


「だから困ってるんですよ」、ううむそりゃそうだ。


「でも何で食卓なのよ?」


「えっ? 『扉』の下にあったあれは食卓なのではないのですか?」



 どうやら彼はあたしの部屋のコタツの事を言っているらしい。なるほど食卓だ。



「いや確かにそりゃそうなんだけどさぁ」



 あたしはぶつくさ言いながら彼と子猫探しに向かった。

 考えられる場所はおおよそ全て、彼の話だと件の収束率とかから直径200m位の範囲に広がっているはずなのだそうだ。

200m…ううーむ、微妙な距離だな。広いと言えば広いのだが、視界の届かない距離じゃない。ただ問題は住宅地のど真ん中だと言う事だ。それに似た様な家も多いし。……住宅地……食卓……200m範囲……

 あたしの脳裏をその3つのキーワードが通りすぎたとき、あたしは悪い予感に襲われた。ひょっとしてそうか? いや、ちがうかも……でも……。

 向こう隣の家を眺める。形や作りはうちと大差の無い、大抵が似たり寄ったりだ。あってはならないけど有るかもしれないその事態を警戒しつつ通りから『食卓』ある部屋「リビング」を覗き込む。



「あ、やっぱり」


 あたしはスコップ猫の首をつまんで持ち上げた。

 向う隣は人の好い老夫婦が住んでる。温和で親切な近所でも評判のお年よりだ。

 連中はそこで『食卓』を囲んでいた。



「居たよ、あんたの生徒さん」


「おや、ほんとですね」



 彼は他人事みたいに言うとそそくさと駆け出した。

 でっかい大家族用のコタツの周りには子猫たち。つるはしやらピッケルやら物騒な穴掘り道具を抱えた変な子猫たち。

 みんな仲良く並んでネコまんまの入った茶碗を抱えて食べようとしている。

 みんなそろって「いただきまーす」をしようとしたときだ。スコップ猫はいそいで飛び込んで行った。



 ★ (ΦωΦ) ★



 フタを開けて見たら心配したのがソンな位だった。

 転移ミスではぐれたのはスコップ猫だけ、あとは仲良くお隣さんちの庭にまとめて落ちてきたらしい。

 2本足でも子猫は子猫、途方にくれてる彼らをおばあさんたちが世話してくれて、一匹がはぐれた先生を探しに歩いていたと言う訳だ。

 あとはスコップ猫は平謝り、そりゃそーだ、下手したら生徒の子猫たちはどうなってたか……。

 でもとりあえず、無事は無事。

 あたしは彼らとパーティーをしようと、一人勝手に決めていた。

 








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