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扉はどこですか?

 どうも。美風です。

 一部の方にはすでに知っていただいていると思います。

 この作品は、昔、小説同人仲間で落語の三題小噺のノリで題を出し合い


『400字詰め原稿用紙11枚』


 と言う制限下で書いたものです。


 その後、いろいろとヴァージョンが増えて4作品にまで増えました。 

 今回はまずはその中から最初の作品を出したいと思います。


 あ、

 スコップ猫の本名は『スコップ猫』です。(まんまやんけ)


 ではどーぞ



「扉はドコですか?」



 彼はそう唐突にたずねてきた。あたしの足元には可愛らしい黒ネコが小さなスコップを肩にかかげて立っていた。

 ホワイトソックスって言うのかな。彼の手足は真っ白で、それが白い手袋・長靴に見えてとても可笑しかった。


 でも彼の質問の意味はさっぱりわからなかった。



「え? 扉?」


「知らないならいいです。ではさようなら」



 戸惑うあたしに簡単に見切りをつけると、彼は頭をペコリと下げ、立ち去ろうとする。だが、あたしはその2本足のネコについて何かを思い出した。


 みんなは知ってる? ケットシーって? 


 長靴を履いたネコのモデルで北欧神話に登場するネコの妖精なのだ。そしてその証拠に、彼は確かに2足歩行で歩いているのだ。あたしは感動を覚えた。だが強い違和感も感じていた。


(長靴を履いたネコなら判るけど、スコップをかついだネコって……)


 じっと彼を見つめていると、視線を感じたのか彼は振り向いて言い放つ。



「まだ何か御用でも?」


「えっ? う、うん」


「急いでいるので手短にお願いします」



 妙に礼儀正しいケットシーだった。あたしはしゃがんで、視線を彼と同じ高さに近付ける。



「あなた、ケットシーよね?」



 彼は考えた風に少し首を傾げる。いかにもネコらしい可愛い仕草だ。だが、彼はあたしの期待を裏切ってくれた。



「いいえ違います。人違いです」


「あの、人違いじゃなくて、ネコ違いじゃ…」


「そうとも言いますね」



 おもしろくない奴だ。あたしの突っ込みをことごとく無視してくれた。



「御用はそれだけですか? 私は『扉』を探さなければならないのです」


「で、その扉って何なの?」


「扉は扉ですよ?」



 そんな事もわからないの? と丸く見開いた彼の目は言いたげだった。でも、わけの判らない質問をしてきたのは元々はコイツなのだ。会話内容に感じた若干のピントのズレをあたしは素直にぶつけてみた。



「あのね? 分からないから聞いてるの。扉といっても色々あるでしょ?」



 あたしは生意気盛りの小さい子供を諭す様に彼に尋ねた。だが眼下の小さな彼はあたしの言葉に茫然とした顔で見つめ返していた。。

 彼は微動だにしない。目前で手をかざして振ってみる。大丈夫だろうか?



「あなた……」


「なに?」


「『扉』を知らないのですか?」


「馬鹿にしないでよ。知ってるわよ。ほら」



 あたしは近くの家のドアを指差した。



「あれも扉でしょ? でもあんなの色々あるじゃない」



 彼は困った風に眉をひそめた。そして小さくため息を漏らすと、



「いいえ」



 と大きく首を横を振った。



「あれは「ドア」です。私が言っているのは『扉』ですよ」



 それまでの元気の良さはどこに行ったのか。彼は寂しげにうつむくとポツリとつぶやいた。



「そうか……だから見つからなかったのか」



 彼はペタリと座り込む。そしてそれっきり何もしゃべらなくなった。

 この小さな彼に何か深い事情があるのは確かだ。



「ねぇ。どうしたの?」



 元気を無くして落ち込む小さなネコをほおっておけるほどあたしはドライじゃない。そっと彼の頭を撫でながら問い掛ける。



「あなたの言ってる『扉』って何の事なの?」



 しばらく黙り込んでいた彼だが、静かに顔をあげてくれた。



「聞いてくれますか?」



 とても悲しげな顔で彼はあたしを見上げていた。



「とりあえず、暖かいところに行こっ」



 あたしは小さな彼を抱き抱える。彼は照れ臭そうに顔を撫で回した。



 ★ (ΦωΦ) ★



 あたしはすぐ近くの自分の家に彼を連れてくると、自分の部屋のこたつに潜り込んだ。

 ネコにこたつ、これはもはや世界の常識である。彼の場合もご多分に漏れず、初めて見る代物にとまどいつつも何の抵抗もなく潜り込んでしまった。ただし、正座してこたつに入るネコと言うのもなかなかシュールである。



「『扉』についてでしたね」



 あたしは暖めたミルクを差し出しながら言う首を縦に振る。



「この世界と他の世界を繋いでいるのが『扉』なんです。そして『扉』は、その各々の世界のどこかに『埋まっている』んです」


「う、埋まってる?」



 彼はミルクを飲みつつうなずく。



「そして私はその『扉』を通じて色々な世界を旅していました。この地球と言う世界に来るまでは……」


「無いの? ひょっとして」



 彼はカップをこたつの上に置いた。



「ここの世界に来て、もうじき1年が過ぎようとしています。でもどこに行っても、何をしても見つかりません」


「でも……いままで誰にも聞かなかったの?」



 彼は困った顔をする。



「2本足で歩いているだけで恐がられますから。声など出せませんよ」



 なるほど道理だ。たしかにちょっと恐い。



「じゃ、なんであたしには声をかけたの?」


「感じたからです。あなたなら分かりそうだって」



 そう言って彼は自分の額を掻き分ける。ネコの額と言うのは本当に小さかった。



「判りますか? 小さな星が」


「……なんとか」



 本当にかすかに、白い小さな星があった。



「これが消えると私は、この世界での普通のネコになってしまいます。そして知恵と言葉を無くして生きなければならないんです」



 私は彼が急いでいる理由が納得いった。彼はもうじきニャンと啼くだけの凡人ならぬ凡ネコになろうとしているのだ。



「でもどうして?」


「私は『扉』を超えてこちらの世界に潜り込んだ『居ないはずの存在』なんです。無論それは不自然な行為です。だから『この世界にふさわしい存在』に徐々に戻りつつあるんですよ」


「……で、その星は本来のあなたであるための魔法みたいなものなのね」



 こたつに両手をつっこんで彼はうなづいた。



「普通、どんな世界に行っても、誰かしらが他の世界に移るための『扉』の事を知っているはずなんです。そしてぼくはこのスコップでその扉を掘り出します。でもここは本当にどこにも『扉』が見えません。誰も何も知りません。ひょっとしたらもうダメなのかも知れませんね」



 それっきり彼は何もしゃべろうとはしなかった。言葉も知恵も無くしてただの獣になろうとしている彼が少し可哀相に思えた。



「でも、時間が完全に無いわけじゃないんでしょ?」


「それはそうですが……」


「じゃ今からでも探そうよ。あたし手伝ったげる」



 言うが早いかあたしは彼をひったくるように抱え家を飛び出した。とりあえず『扉』が有りそうなところを彼に聞いてみる。



「そうですね…高いところ、かな?」


「どうして?」


「『扉』から別の『扉』へは、落ちる様に移動するからです。だから普通は山のてっぺんとかお城の頂き近くとかに有るんです」



 高いところと聞いて、あたしはとっさに街で一番高い観光タワーと街の外れの山の神社を思い出した。そして、掘るといえば堅い地面。とっさに山の神社を選んだ。



「ジンジャって何ですか?」



 彼のその問いに、神様と出会えるところ、願いを伝えるところ、と説明する。



「なるほど宗教施設なのですね、それはいい」



 かすかな期待に彼の喉がなる。だが、神社の石段を上り詰めたときそれも無残に打ち砕かれる。



「ありゃ?」



 この神社も昔は栄えたと言う。なんでも市の文化財に一応指定されているんだそうだ。でもこのゴミだらけの光景ではそれも信じるわけには行かない。



「つぎ行こっか?」



 気まずかった、そして彼は何も答えなかった。かすかに小さくうなづいた。



 ★ (ΦωΦ) ★



 そんな感じでわたしたちは街中を駆けずり回った。観光タワー…公園…広場…裏手のニュータウンの裏の小高い丘……おおよそ考えられそうな場所は片っ端から。

 でも『扉』はついに見つからなかった。わたしたちは思わず途方に暮れて座り込む。



「ひとつ教えてください」


「なに?」


「あなたのおっしゃっていたケットシーって何ですか?」



 あぁそう言えば、そんな事も言ったっけ。



「あぁそれ? 昔の神話に出てくるネコの妖精のことよ。2本足で歩いて人の言葉を話して……それで……!」


 あぁ、そっか。そうだった。


「あーーーーーーーっ!!」



 あたしは彼を再び抱え込むと自分の家めがけて走りだす。脳裏に閃くものがあった。




「どっ、どうしたんですか?」


「あたしわかった! 『扉』の場所が!」


「ええっ!?」



 あたしは自分の家に駆け込み、2階を目指す。そして押し入れをあさって屋根裏へと進むルートを捜し出す。



「あのね! ケットシーには秘密の王国の伝承があるのよ! 屋根裏って言う場所にね!」



 埃だらけの荷物を引っ掻き回しつつ屋根裏へと続く屋根板を開く。あたしたちはその隠された世界へと足を踏み入れた。

 そこは真っ暗で埃っぽくて何も見えない。失敗かな? 不安にそう思う中、あたしの懐から彼は飛び出していく。



「あった! あったぞ! 『扉』だ!」



 わたしには何も見えなかったが、彼は喜び勇んで小さなスコップを屋根裏の板に突き立てた。するとそこが光り輝いて見る見る間に真四角い『扉』の形になる。


 そうだ、確かに『扉』はあったのだ。ケットシーの屋根裏部屋の猫王国の逸話の中に……。

 でもそれは別れの訪れでもあった。彼は振り返り、小さな手であたしと握手をするとサヨナラを言ってくれた。



「ねぇ、またおいでよ」



 私のその言葉に彼は笑って「必ず来ます」と答える。そして扉の向こうに姿を消した。


 信じがたいが本当の話だ。だって今も、うちの屋根裏にはスコップで掘ったあとが確かに残っているのだから。



「ねぇ、これ、どーーすんの?」


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