99:聖女様が知らない、とあるお茶会にて ――ナタリア視点――
「なんか近頃、聖女召喚の儀が行われたって聞いたんだけど本当?」
「ええ、そのようですの。しかももうじき王立学園に編入なさるとお聞きいたしましたの」
「まあっ、そうなんですか? それは初耳です。さすがナタリアは耳が早いですね」
夏季休暇も終わりに近づく頃のこと、私の屋敷で開いている小さなお茶会で、私たちはそんな噂話に花を咲かせておりました。
王立学園の学園長、ジュラー侯爵を父に持つ私、ナタリア・ジュラーは社交界でもそれなりに有名ですの。
我ながら友人は多い方だと自負しており、こうして度々お茶会を開いては友人たちを招待していますの。
この日は、友人の中でも特に親しい伯爵令嬢のアリス・ロリータ様と、従妹のジュリエラ・アンディス子爵令嬢のお二人を久々にお招きし、女子だけ語らいを楽しんでいるというわけですの。
「いいなー、ナタリアは。侯爵家以上の人だけ聖女様のご尊顔を拝めたんでしょ?」
「そうです。聖女様がどんなお方だったか、教えていただけませんか?」
お二人に詰め寄られ、私は少々考え込みました。
王宮で開かれた『召喚の儀』には王族の他に複数の公爵家と侯爵家が立ち会い、私も参加させていただきました。
ですからこの質問をされるのはわかっていたことですが……内容が内容なので思わず躊躇ってしまいましたの。
しかしアリス様もジュリエラ様も信頼のおける方ですの。このお二人にだけなら話してもいいように思いました。
「陛下にはあまり大っぴらに言わないようにと命が下っているのですが、特別にあなた方には教えて差し上げますの。このことは絶対の絶対に内密でお願いしますの」
お二人とも頷かれたので、私は言葉を続けました。
「ビューマン伯爵令息の魔法によって確かに聖女様が降臨なさいましたの。ですが、驚かないでくださいませ。現れた聖女様は、まるで幼児のように小柄なお姿。しかも……何も衣服を纏っていらっしゃらない状態でしたの」
アリス様とジュリエラ様は、思わずといった様子で息を呑んでいらっしゃいます。
それはそうでしょう、私も聖女様が降臨なさった時は目の前の光景が信じられませんでしたもの。
女神様の銅像でさえ、ごく薄いものではありますがご衣装はございます。それだというのに……。思い出すだけで全身がむず痒くなるくらいですの。
「ふーん。それって、紛い物の聖女じゃないの? だって、聖女様が裸で出てくるわけないじゃん」
「ジュリエラ様、さすがにそんなことを言ってはいけません。聖女様は異界より來て私たちを救ってくださるのですよ?」
歯に布着せぬ物言いのジュリエラ様と、彼女を宥めるアリス様。
ジュリエラ様の疑念は否定できませんの。しかし一方で、こんな噂を聞いているんですのよね。
「聖女様は現在ビューマン伯爵領の一角に滞在していらっしゃるご様子なのですが、そこで次々とご活躍なさっていると風の噂で耳にしましたの」
「活躍って?」
「蔓延していた黒死病の病を一掃したですとか、『女神の愛』を降らせたこと、他にも住民たちの要望を広く聞き入れ、力になっているなど……。もしそれが本当だとすれば物凄いことですの」
私は噂好きと有名で、各地から色々な情報を仕入れておりますの。
ただ、その全てが正しいわけではないので噂の真偽を確かめるまではただの噂でしかないのですが。それでも聖女様に関しては、少なくとも多数の噂が立つほどには優秀な方なのではないか、というのが私の現時点での見立てでした。
「ふーん。ま、確かにね。稀代の聖魔法の使い手っていうくらいなんだったら不思議ではないけど」
「そんな方が王立学園に入学して来てくださるなんて素晴らしいです。学年が違うのが悔やまれますね」
私たち三人はそれぞれ同い歳ではありますが学年は別。
アリス様とジュリエラ様は一学年下の二年生で、私だけが三年生なんですの。
父の話によればどうやら聖女様は三年生としてご入学なさるらしいので、アリス様たちにはまず接触は不可能でしょう。
つまり、こうなるわけですの。
「ナタリア、聖女様とお話ししてみてはくださいませんか」
「こっちからもお願い。ねっ、ナタリア」
なんとも人遣いの荒い……。
そう思いながら私は静かにため息を吐き、しかし個人的にも聖女様には興味があったので了承することにいたしました。
「わかりましたの。私の名にかけて、聖女様の情報を掴んで見せますの」
笑顔でそう言いながら、私はこっそり拳を握り締めたんですの。
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追記:
ほんっとうにすみません! 予約投稿日を間違えて誤投稿してしまったので、166部分を削除しました。
また明日UPします。