95:魔物の肉は意外と美味しい?
ファンタジー世界では、結構な確率で魔物肉などを食べますよね。
オークなどならまだいいと思うんです。一応豚ですし、理解できなくはありません。人語を解する化け物の肉だなんて私は絶対に嫌ですけど……。
しかしピラニアもどきの魔物を食べるなんて、大丈夫かと思わずにはいられませんでした。
地球にいるピラニアなら食用になることもあるのは知っていますが、あくまでここは異世界。どんな毒を体内に持っているかわかったものじゃありません。食中毒だって充分に考えられます。というか、つい先ほどまで真っ赤で澱んでいた海に生息していた魔物など御免被りたいものです。
なのにエムリオ様に「絶対に美味しいから!」とゴリ押しされ、私のささやかな抵抗も虚しく海辺の料理屋へ連れて来られてしまったのでした。しかも魔物肉専門の店だといいます。
「実はここ数日ずっとここに通っていてね。料理の味は悪くないから安心するといいよ」
「えっ、今まで魔物の肉を食べてたんですか? ドス黒い何かが体内に溜まってたりしません?」
仮にも次の王ともあろう人が、不用心過ぎます。そんなのだからすぐ暗殺されたりするんですよね、ファンタジー世界の王様は。
……などと思っているうちに、気づけば店の豪華客席に座らされていました。しかもエムリオ様と向かい合うようにして。
「これがキミの言っていた『でーと』なのかな」
そして不意をついてエムリオ様から発せられた衝撃発言。
私は思わずビクッと全身を震わせてしまいました。
「そんなわけないじゃないですか。こんな色気のないデートがあったらびっくりですね。ははは……」
二人で海に行って、遊んで、店で一緒に料理を食べる。このシチュエーションだけならどう考えてもデートですよ、確かに。
ただ実際は魔物退治に誘われ、否応なく危険な目に遭わされて、海を泳いでもまた魔物退治で、その後食べたくもない魔物肉を食べさせられようとしている――どうしてもこれをデートと思うことはさすがにもうできなくなっていました。
こんな危険過ぎるデート、他にあったら教えてほしいくらいです。吊り橋効果で仲が深まったりするようなこともあるかも知れませんが私たちに限ってそれはありません。多分。おそらくは。絶対だと思いたい。
「たとえ『でーと』でなかったとしても、二人きりで食事をするのはいいものだね。楽しいよ」
「楽しんでいらっしゃるようで何よりですね。ところでメニュー表はどこにあるんです?」
「ああ、もう注文してあるんだ、もうすぐだよ。……ほら来た」
エムリオ様の声と同時にお店の奥のドアが開き、そこからずんぐりむっくりの熊のような男の人が出て来ました。
料理人さんなのでしょうか。彼は両手に皿を乗せており、こちらに来るなり私たちの目の前のテーブルにどん、と皿を置きました。
「小型魔物のフライです」
真っ赤なピラニアもどきがフライになり、皿の上に横たわっているその姿を見ても食欲はそそられません。
しかし出されてしまった以上断るわけにもいかず、私は渋々食べ始めたのです。
◆◇◆◇◆◇◆◇◆
まあ、結論から言えばそれなりに美味しかったです、ピラニアもどき肉。
フライ以外にもスープだったり塩焼きだったり色々なメニューが出されました。色は全て奇抜で、食べられるのか心配になるようなものばかりでしたが味も匂いも悪い方ではありません。むしろいい。
そしておまけに健康にもいいようなのです。
「魔物肉は体にいいんだよ。食べれば食べるほど魔力が強くなるからね。実際、疲れが取れたんじゃないかい?」
「……あ、確かに。死ぬほど疲れてましたけど、ついさっきよりは少し軽くなった気がします」
「それなら良かった」
でもやはり魔物肉を食べるのは、異邦人の私には刺激が強過ぎたのか後で苦しくなりました。胸焼けがするんです。
魔物肉は意外と美味しいです。美味しいですが、よほど切迫した状況の時以外は食べないようにしたいと思いました。
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