90:やっぱり違う
これが赤潮の被害だとしたら、止めようがありません。
でもだからと言ってこのまま放置しておくことも無理。そのまま私たちは浜辺に座り込み、しばらくうんうん唸っていました。
「……あのさ、ヒジリ」
しばらく続いた沈黙を破ったのはエムリオ様でした。
「なんですか?」
「キミの言ってる赤潮という可能性を考えてみたんだ。正直ボクにはその原理がよくわからないけど、海中の目に見えない何かが影響を与えて海を赤く染め上げているということだろう?
でも多分これはそうじゃないと思うんだよ。この海からはうっすらとだけど、禍々しい魔力の気配がするんだ」
「魔力の気配?」
私は首を傾げました。
意味合い的には大体わかりますが、他人の魔力なんてわかるものなんでしょうか。私なんて、自分の中のそれを感じるので精一杯なのに。
「ボクもあまり魔法には詳しくないからはっきりしたことは言えない。でも、この海からは異様な力を感じるんだ。あくまで感覚的なものでしかないが……」
うーん。エムリオ様、異世界人なのにいまいち頼りになりません。
そういえばレーナ様が『兄様は魔法が使えないから』とか何とか言っていた気がします。まあ、その分剣に特化しているのでしょうけど。
その剣の腕すらもニニに負けていると言ってましたけど。ニニ、改めて物凄いチートですね。
……と、そんなどうでもいいことはさておき。
「ただの感覚でしかない条件を踏まえて物事を決めつけるのはあまり良くないと思いますが、それを言ったら私の言ったことも一緒ですし。こうなったらぐだぐだ考えても仕方ない、行動を起こすしかなさそうですね」
言っておきますが、私は自分から危険に飛び込みに行きたいと思っているわけじゃ決してありません。
というか逃げたい。この不気味な海の前からとっとと撤退したいのが本音です。
が、この先この世界を生き抜くためにはそうも言っていられないので……仕方なく、こう言うわけです。
「自分の手で確かめてみます。ここがこうなった理由が何であるのか、を」
◆◇◆◇◆◇◆◇◆
過保護な――あなたは私の母親ですかってツッコミそうになるくらいでした――なエムリオ様をなんとか振り切り、私はもう一度浄化の魔法を海に放ってみました。
しかし結果は一度目と同じ。反動が来るのは予想がついていたのでどうにか耐えましたけど、『拒絶』されているような感じがします。
確かに、ただの赤潮だったらここまで弾き返されないような気もしてきます。というか冷静になってみれば、先ほどまでの私の考えは全部間違っていたように思えました。
でもまだ確証は掴めません。私は腹を括り、いよいよ赤い海の中に踏み込もうとしました。
が――。
「やっぱりキミには任せられない。ここはボクが引き受けさせてもらおう」
「ダメですよ、そんなの。エムリオ様はこの国の王子様なんでしょう? もしも万が一死んでしまったらどうするんです。もちろんそれは私も死ぬ可能性はありまくるってことですけど……」
「ボクはこれでも騎士なんだ。か弱い女の子を守るのも、騎士の一つの役目だろう?」
いかにも二次元イケメンが吐きそうなダサいセリフを言って、エムリオ様が率先して入って行ってしまったのです。
魚すら死に絶えた、死の海。
そこへ入ったらどうなるのでしょう? もしも即死とかだったら私、王子を見殺しにした大罪人として処刑されたりしそうで怖いんですが。
そんな私の懸念をよそに、ズンズンと赤い海の中へ行くエムリオ様。
そして異変が起きたのは、その直後のことでした――。
「――っ!?」
「ヒジリ、危ない逃げろ――!」
汚臭を放つ血のような大波が一瞬にして私たちの目の前に押し寄せ、視界を埋め尽くしていたのは。
面白い! 続きを読みたい! など思っていただけましたら、ブックマークや評価をしてくださると作者がとっても喜びます。
ご意見ご感想、お待ちしております!




