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88:浄化開始

 聖魔法の活用法は主に三つ。

 治癒、光――攻撃というには微妙ですが一種の爆弾のような効果はあるようです――、そして浄化。


 この中で一番使うのが難しいのは光。そしてその次に治癒。一番簡単なのは意外にも浄化です。

 ニニ曰く「浄化は、その物質の中にある魔素……つまり魔物の毒と似たようなものを消し去る作用があるのでございます。魔素の濃度が濃ければ濃いほど大きな力が必要とはなりますが、聖女様ほどのお力があれば大抵の浄化は苦とならないでしょう」


 そんな言葉を思い出しながら、真っ赤な海を見つめる私。

 海岸にはところどころに死んだ魚が打ち上げられており、まさに『死の海』という感じでした。


 あれほど街歩きをしていたのにこの海の情報が耳に入らなかったことが不思議だったのですが、それを質問してみると「変に情報を漏らされたりすると色々不都合があるから口止めしていたんだ」と割と物騒な答えが返って来ました。

 実力行使での口止めではないと思いたいですが……。まあそれはさておき。


「ここを浄化するって……結構範囲が広いですね」


「オセアン周辺の海域が全滅だからね。なかなかに大変な仕事だとは思うが、どうか力になってほしい。もちろん、成功させてくれれば騎士団から報酬は出すつもりだよ」


「報酬のことは今はいいですから。とにかく、早速浄化してみます」


 エムリオ様を伴い、私はさらに海の方へ歩いて行きます。

 もしかすると海水に毒物が含まれているかも知れないので、用心しなければなりません。

 海に近づけば近づくほど、ベタベタとして少々血生臭い潮風が強まり、不快感が全身を襲いました。まるで動物の腐った死体のような、そんな匂いです。実際魚が死んでいるのですから間違いなく死臭なのでしょう。


「うぐっ……」


 鼻を押さえながら、そっと海の前にしゃがみ込みます。

 そしてそっと海の方へ手を差し伸べ――念じました。


 それに応えるかのようにポワッと手に灯る光。何度見ても、どういう原理かさっぱり理解できません。

 理解はできずとも感覚としてはすでにわかっていました。私は手の上に宿るその光を、糸を捩るイメージで鎖のように編んでいきました。


「……すごいね、キミの力は。さすがは女神様が遣わせてくださった聖女様だ」


「お褒めの言葉は嬉しいのですが、今は集中しているので話しかけないでください」


「わかったよ」


 隣でまじまじとこちらを見つめて来るエムリオ様の存在を、完全に脳内から排除することにします。見られていることを意識してしまうとなんだか恥ずかしいので。

 そして外界から思考を切り離した私は、ただ一心に力を注ぎました。


 私の体力をじわじわ吸い取りながら浄化の光が伸びて行き、真紅の海に届いたようです。

 そこからはあっという間でした。自分でも驚くほどのスピードで海面が光で覆い尽くされていき……。


「――?」


 私は、違和感を覚えました。

 そしてその正体を理解した時、私は「あっ」と声を上げることになります。


 浄化の光は、海面を覆っている。

 つまり、覆っているだけ(・・・・・・・)であり、少しも中身まで到達していませんでした。むしろ内側から強い力で押し返されているかのようにすら感じられるのです。


 そして――。


「きゃっ!?」


 強く編み込んでいたはずの聖魔法の鎖が弾け飛び、キラキラと輝きながら消えていきました。

 それと同時に私の体に、まるで殴られたかのような衝撃が走ったのです。



◆◇◆◇◆◇◆◇◆



「大丈夫かい!?」


「うぅ、大丈夫じゃ、ありませんけど……」


 ぐるぐると目が回り、全身が痛みます。

 たった今自分の身に何が起こったのか、しばらく理解できませんでした。が、エムリオ様がすごい勢いで駆け寄ってきていること、そして正面に赤い海ではなく青空が見えたことでわかりました。


 海の中から、なんとも言い難い『力』の反発によって浄化の光が跳ね返され、そのせいで軽々と吹っ飛ばされてしまったのだろう……と。

 ここが砂浜でなければ少なくとも腕の骨の一本や二本は折れ砕けていたくらいの威力はあったように思います。あれは一体何だったのでしょう、先ほどの『力』は――?


 こうして一度目の浄化作戦は失敗に終わり、私は砂浜に倒れ込んだまま首を捻ったのでした。

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