84:また学園で
「長話しすぎたな。わざわざオセアンから呼びつけたのに大したことができず申し訳ない。
ちょっと押し付けがましい親父だがあれでも感謝してるのは本当だ。もちろん俺も。ありがとう」
「えっと。その、こちらこそです」
おもむろに席を立ったアルデートさんに釣られ、私もティーカップを置きました。
確かに少し話し込み過ぎた気がします。その割には得られた情報が少ない気もしますが、私にしては頑張った方です。
後のことはアルデートさんの言っていたように王立学園に入ってから聞けばいいので、おそらくは問題ないでしょう。……まあ、貴族社会が恐ろしいと知らされてしまった現状、それがうまくできる自信はゼロですが。
ともかく。
「アルデートさんと話せて良かったですよ」
「さっきまで怒っていたのによく言うよ。……俺も君と言葉を交わせたことを光栄に思っている。そんな機会はまたとないだろうからな」
そんな風に少し会話してから、私たちはビューマン伯爵家の玄関へと向かいます。
玄関では伯爵様が私たちを待ち構えていて、「息子との話はどうでしたか?」と言いながら、ちゃっかり金貨を渡して来ようとしてきました。
そんなに伯爵様は私に大金を持たせたいのでしょうか……? まあ私は現状金なしですし、お金を持っていて損はないんですけど、変な貴族のしがらみに巻き込まれるのは嫌なので、改めて丁重に断っておくとします。
「今日はお招きいただきありがとうございました。お話を聞かせてもらっただけで充分ですから」
本当はお金もちょこっと欲しいという本音は内緒です。
伯爵様は「聖女様はなんとお心が広い」などと言って感激し、アルデートさんはそれに苦笑していました。
悔しいですが今ばかりはアルデートさんに同意です。
このままでは羞恥心に死んでしまいそうです。こんな時は早く帰るに限ります。
「じゃあ私お暇しますね」
「ああ、そうしてくれ。……また学園で」
手を振るアルデートさんと、「今度は妻のいる時にまたいらしてください」とか言いながら深く頭を下げる伯爵様。
多分ここに来ることはもうないと思いますし、学園でもアルデートさんと会えるかは怪しいものですけど……細かいことにはこの際ツッコミを入れないことにします。
「はい。では、また学園で!」
◆◇◆◇◆◇◆◇◆
……この時の私はまだ知らなかったのです。
学園でアルデートさんとの仲を深めることも、そして再びこの屋敷へ足を踏み入れることになるのも――。
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