83:召喚魔法の話
「召喚魔法っていうのは俺にしか使えない特殊な魔法だが、そんな大したもんじゃない。
呼び出すことはできるが送り返すことはできない。一度魔物を使って修行したことがあるが送還することはどうしても無理だった。
……だから君には、ここでの永住か自力で帰る方法を探してもらうことになると思う」
――やっぱり、そうなんですね。
今回ばかりは心底申し訳なさそうにするアルデートさんを睨みつけながら、私は溢れ出しそうになる涙をなんとか堪えました。
なんて意地悪な人なのでしょう。色々と文句を言ってやりたいですが、イケメンに困った顔をされてしまうと破壊力抜群で怒ろうにも怒れないのです。
――ですがそもそも、元々帰る方法を自分で見つけなければならないのは最初からわかっていたこと。
砂粒ほどもない可能性に縋っていたかったのは本当ですが、落胆するほどではないはずです。私はなんとか自分にそう言い聞かせると、前を向きました。
「期待した私が馬鹿でした。この世界からおさらばする方法は、自分で見つけます」
「俺もできることなら協力するが」
「申し出はありがたいですけど、結構です。……異界の地に本人の同意もなしに連れて来てくださった方を信頼するのはやはり無理ですから」
「そうか。それが普通の反応ってもんだ。なら、それでいい。困ったことがあれば俺に頼れ」
「頼るならアルデートさんじゃなくエムリオ様にします。まああの人も正直ちょっと怖いんですけど」
そういえば、この異世界でまともな人ってほとんどいないんですよね。
レーナ様はもちろん、エムリオ様もアルデートさんも皆さん距離感がおかしかったり付き合いづらかったりする人ばかりです。一番マシなのがニニですが、彼女はスパルタ鬼師匠ですし……。
結局本当の意味で信用できるのは自分だけ。
それを改めて認識し――私は「はぁ」と言って肩を落としました。
◆◇◆◇◆◇◆◇◆
「召喚魔法ってのはここから遥か北東のカサンドル国に伝わる呪術……つまり闇魔法の変化形になる。
母さんはカサンドル出身だが、基本的にあの国は他国との交際を是としない国柄だから他国に嫁ぐことは普通まずない。だがカサンドル愛好家の親父が若い頃に密入国し、そこでたまたま出会って……俺、つまり世界初の召喚魔法使いが生まれたんだ。おそらく前例はないだろうな」
「――」
「魔法というのは大抵、長い年月をかけて何百人何千人という人々が新しい魔法を編み出し、発展していくのが普通だ。だがそういった歴史のない召喚魔法は、完全に独学になる。……もしかすると俺が知らないだけで送り返すことも、召喚の精度を上げることもできるんだろうが無理だった。
数十年魔法を極めればいいんだろうが生憎その頃には君も老婆だろうな」
「老婆になってから帰還できても意味がないので却下です。それにしても召喚魔法ってそんなに貴重なものなのですね」
アルデートさんの話が本当なのであれば、もしかすると私の聖魔法よりすごいのでは?と思えてしまいます。全然万能じゃなさそうなのが残念ですが。
でも確かに、完全に独学で何でもやろうというのは無理ですよね……。先ほどは少しきついことを言ってしまったかも知れません。
「アルデートさんもアルデートさんなりに頑張っていたんですね。ただのクズ野郎じゃなくてホッとしました」
「君、だいぶん失礼だぞ」
「ちょっとした仕返しです。いくらそんな事情があったとして、片道切符で連れて来られたことには間違いないんですから」
アルデートさんは意地悪ですけど悪人ではないのはわかっているのです。
揶揄いながらもたくさん話してくださいましたし、ありがたいとは思うのですが。
「……やっぱり、嫌いです」
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