82:異世界から来た聖女は普通の女の子だった ――アルデート視点――
――なんだ、どこにでもいる女の子じゃないかよ。
俺は聖女様の実態を見たような気がして、少しばかり戸惑っていた。
いや、それは正しくない。正直に言えば俺は心から――安堵していたのだと思う。
聖女が『普通』でいてくれて良かった、と。
◆◇◆◇◆◇◆◇◆
聖女を召喚したのは、他でもない俺だ。
騎士にもなれず、召喚魔法しか取り柄のない俺が『召喚の儀』を任されるのは生まれた頃からわかっていたことだった。
千の年、この世界に降りかかると言われている大きな厄災。
スピダパム王国の初代国王デリックが予言したのだと言われているが、それが一体何であるのかは誰も知らない。
初代国王デリックの予言によれば、その正体不明の厄災を止められるのは召喚した『聖女』のみだという。
だが俺が生まれるまではどうやって召喚するのかと議論され、あくまでおとぎ話に過ぎないのではないかという話まで出ていたそうだ。
まあ実際こうして俺が特殊な召喚魔法を持って生まれたので、予言は正しいのだろうと誰もが認めざるを得なかったらしい。女神様の与えてくださったお役目なのだろうと言われ、聖女を召喚することになったのだが。
召喚魔法を使えるのはおそらくこの世界でたった一人、俺だけだ。
だからと言って両親や周囲から特別な目で見られることはなかったが、それでも重大な責任を抱えていることはずっと感じており、生きづらい思いをしたものだ。
――聖女というのは一体どんな人間なんだろう?
ことあるごとに俺はそんなことばかりを考えていた。
聖女として女神様に選ばれるくらいだ、どこか異質なものを持っている人間であることには違いない。
それが良い方向に異質であればいいが、もしも聖女様がどうしようもない人間だとしたらどうするのだろうか? もしくは人間ではない凶大な魔物を召喚してしまったら手がつけられない。
何せ聖女に関する情報は『厄災からこの世を救う者』ということだけだったのだから。
不安だった。
世界の命運は俺の手にかかっているも同然だ。それを意識する度、心が重くなる。
十五歳を迎え、九九九の年になった。
そして城の大広間に呼び出され、人生でこれまで体験したほどのない緊張を覚えながらどうにか召喚できた聖女はなんと真っ裸で、だから異質な存在なのではないかと思ってしまった。
が、今目の前にしているこの少女は何だ。
相変わらず半裸ではしたない格好はしているが……それを除いてはどこにでもいそうな平凡な少女だった。
恥じらう姿も、怒って赤面するのも。
そして家に帰りたいと泣くのだって、どこからどう見ても普通の女の子にしか見えない。
だからこそ俺は安心した。
聖女に相応しいのはきっと心が清らかで何事にも動じず、博愛主義な人間なのだろう。
だが、実際聖女様――サオトメ・ヒジリと名乗る異邦人がそんな人柄ではないことは一目でわかる。せいぜい抜けているお人好し程度である。
噂にはすでに多くの人々を聖魔法で救っている超人だと聞いていたが、彼女自身から話を聞いてみれば、ただただ自分の力に翻弄されて流されているだけなのだとわかった。
その部分も俺にとっては好ましかった。俺自身もこの特異な召喚魔法に悩まされ続けていたから。
「……でもまあ、俺が一方的に同族意識を持ったところで、当然ながら聖女の方は俺を恨んでいるだろうから意味はないんだが」
勝手に異世界へ連れて来た俺を好ましく思っていないのは事実のはず。
だから仲良くなるつもりはない。元々俺があまり好かれる人間ではないことくらい自覚しているしな。
しかし、それでも力になってやれることがあるなら俺にできるだけは手を貸そうと思った。
――少なくともこの時点では、ただそれだけだった。
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