79:貴族学園についての話
メイドさんたちがお茶を運んで来てくれて、私とアルデートさんは二人で向かい合い、お茶を飲み始めました。
爽やかなお茶の香りが漂っていますがリラックスはできません。だって私はすごい美男子に見つめられているんですから。
「せっかくですし、話でもしますかね。『裸の聖女』様は聞きたいことでもありますか?」
ティーカップを持ち、お茶を美味しそうに啜ってからアルデートさんが口を開きます。
私は彼の問いに「うーん」と唸ってから言いました。
「その前に一つ、いいですか?」
「何でもどうぞ」
「できればその恥ずかしい名前では呼ばないでほしいかな……って思いまして。それから、良ければですけど敬語は要りませんよ。あなたは伯爵様の息子で、私はただの女子高生。多分あなたの方が身分的には偉いと思いますから」
イケメン男子に裸って言われるのも嫌ですし、変に敬われるみたいのも居心地悪いので普通に接してほしいと思ったのです。
ふぅん、と息を吐き、菫色の瞳で私をまじまじと見つめて来るアルデートさん。聖女様だからどうたらこうたらと反論されるかと思いましたが、意外にあっさり頷いてくれました。
「じゃあお言葉に甘えて、普通に話させてもらおうか。俺もあんまりガチガチなのは好きじゃないんでね。ま、貴族として生まれた以上は社交辞令とかはある程度仕方ないんだが、君はどうやら貴族じゃなさそうだしな。
……改めてもう一度聞くが、何か俺に質問は? なければ俺の方からさせてもらうが」
「なら、お願いします」
別に聞きたいことを思いつかなかったので、私は彼に話を振ることにします。
何せ前に一度であっているとはいえ、ほぼ初対面と言ってもいい間柄ですので、何を聞いたらいいものやらわかりませんからね。
「なら、この世界に来る前のこと、それからこの世界に来てからあったことでも話してもらおうか。実はあの『召喚の儀』以降、ずっと君がどうなっているのか気になっていた。あんな風に現れたものだからひどい目に遭っているんじゃないかとかな」
「そうですね……。ちょっと長くなりますけど」
私もティーカップの中身の黄色い液体で唇を湿らせ、今までのことを話し始めました。
◆◇◆◇◆◇◆◇◆
元の世界のこと、この世界でのことなどを話しましたが、その中で一番彼が興味を持ったらしいのは王立学園についての話でした。
「君も王立学園に通うのか」
「はい。なんだか勉強が必要らしくて、夏季休暇明けから通うんだそうです。もしかしてアルデートさんも?」
「貴族の子息子女がこぞって通う機関だからな。実は俺も三年生なんだ。君が編入する先は三年生のはずだから、同期ということになるか」
「そうなんですか。もっと歳上かと思ってたのでびっくりです」
エムリオ様といいアルデートさんといい、同い歳の人との遭遇率が高過ぎる気がします。
それはともかく、同級生になるならば少しは仲良くしておかなくては。私をこの世界に呼び出したアルデートさんには恨みがないと言ったら嘘になりますけど、別に悪人ではないでしょうし。
途切れかけた話を続かせるため、私は適当な質問を口にしました。
「じゃあ、ちょっと貴族学園の内情とか気をつけた方がいいルールとかを教えてくれますか? それに勉強もおぼつかなくて……」
ちなみにこれは以前にエムリオ様にも聞いたりしたのですが、「行ってみればわかるよ」と王子様スマイルで言われ、それ以上のことについては教えてくれなかったのです。
「ああ、何か勘違いしているようだが、貴族には階級があって上級貴族と下級貴族には大きな隔たりがある。いくら同期とはいえ君と同じ授業を受けることにはならないだろう」
「えっ、そうなんですか?」
「君の身分はこの世界では王族に匹敵するだろうが、マナーとしては男爵令嬢の方がマシなレベルだろうからな。勉学も同等だろう。学園の中での君の立場はおそらくないに等しい。俺は一応生徒会の副会長でもあるし上級貴族側だから、君が入学しても大して顔を合わすこともないと思うぞ」
「――!?」
せっかく入学前に繋がりを作っておこうと思ったのに、それでは全くの無意味ということ。
確かに私、いいとこのお嬢様でも何でもないのですし、作法やら勉学に関しては普通の高校生レベルですから仕方がないとは思いますけど……アルデートさんはおろか、エムリオ様にも頼れないわけですよね。
一気に入学後が心配になって来たんですが……。大丈夫、ですよね?
面白い! 続きを読みたい! など思っていただけましたら、ブックマークや評価をしてくださると作者がとっても喜びます。
ご意見ご感想、お待ちしております!