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『裸の聖女』が世界を救うまでの物語 〜異世界召喚されてしまった少女は、早くおうちに帰りたいのです〜  作者: 柴野いずみ@『悪女エメリィ』一二三書房WEB小説大賞銀賞受賞!
第1章 お風呂に入っていたら見知らぬ世界に召喚されてしまいました

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78:アルデートさんとの再会

 ――銀髪に鮮やかな菫色の瞳。

 私より頭三つ分は上の高身長、そして程よく引き締まったすらりとした体型はまるで人形のように美しく、目を奪われずにはいられませんでした。


 絶世の美男子の登場に、私は思わず息を呑みます。

 しかし私は彼をどこかで見た覚えがありました。そう、確か……。


「あなた、召喚者の!」


 私をこの異世界へ呼び出した張本人、そして私の裸を見て笑っていたあの男性ではありませんか!

 まさかこんなところで再会を果たすとは夢にも思いませんでした。あの時の恥ずかしさ、そして腹立たしさが湧き上がって来て顔が真っ赤になるのを感じました。


「そうですよ、『裸の聖女』様。俺はビューマン伯爵家長男、アルデート・ビューマン。覚えていただき光栄です」


 わざとらしくニヤッと笑みを浮かべる銀髪美男子アルデートさん。

 そしてその意地の悪い様も絵になるのですからいやらしい……!


 そんな私の胸の内はさておき。


「アルデート。だがな、聖女様は」


「さっきまでの話全部聞いてたからいちいち説明はいい。親父の気持ちはわかるが、受け取らないっていう聖女様の意志は尊重すべきだろう? それに王族の方々と違って彼女、異世界から連れて来ただけの身分不詳の女なんだぞ」


「そう! そうなんです! 私、この世界の人たちにとっては不審者でしかないと思うのですよ。何しろ魔法陣?みたいなものの中から出て来た謎の女ですよ! もっと警戒するのが筋では!?」


 『身分不詳の女』という言われ方は少々気に食いませんが、アルデートさんの言う通り。

 普通、パスポートもなしに入国した外国人を信用できないですよね? しかしそれを聖女だのなんだのと言って簡単に許す上、勝手なことをしてもただ褒めるだけ……。ちょっとどころかかなりおかしいと思うんです。


 二人がかりで言ったおかげなのか、伯爵様は息子に弱いのかして残念そうにしながらも案外簡単に折れてくれました。

 アルデートさんグッジョブ!


 と、思っていたら。


「そういうわけで俺は少しばかり彼女と話して来る。こんな部屋にいたら初めての人間は気持ち悪いだろうからな。親父はその金を領地経営にでも当ててくれ。――じゃあ行きますよ、『裸の聖女』様」


 『そういうわけで』がどういうわけなのか知りませんが、いきなり手を差し出されました。どうやらついて来いという意味のようです。

 もしかしてこれは話に聞くエスコートというやつですか!? 叫び出しそうになるのを寸手で堪え、私は狼狽えるしかありません。だってエスコートをされるのなんて初めてなんですもの。


「ちょ、ちょっとどこに行くんです?」


 恐る恐るアルデートさんの手に自分の手を重ねながら尋ねますが、アルデートさんはただただ意味不明な笑みを浮かべるばかり。

 私は完全に状況から取り残されたまま、彼に導かれるようにして応接間を出たのでした。



◆◇◆◇◆◇◆◇◆



 距離が……距離が近いです。

 こんなイケメンと手と手を重ね合わせて寄り添っているだなんて考えるだけでドキドキしてしまいます。しかもこんな格好で。


 羞恥心と興奮に殺されそうになっている私の内心に気づいているのかいないのか、アルデートさんは慣れた手つきで私を導きます。

 そしてあっという間に大きな庭のようなところまで連れて来られていました。


「一緒にお茶でもどうです。オセアンからここまでの道のりでお疲れでしょう、『裸の聖女』様」


「お茶……。つ、つまり、ここで二人きりでお茶会しようということですか!?」


 ――二人だけのお茶会。

 もちろん彼に他意がないことはわかっています。顔見知りとさえ言えない女性とデートするはずがありません。わかっていますが……警戒してしまうのは当然というものでしょう。

 だって、アルデートさんは私をこのわけのわからない世界に呼び出した張本人なのですから。しかも私に『裸の聖女』なんていう不名誉な呼び名をつけたのは彼なわけですし。


 でも、断るのもなんか失礼ですよね。そもそも実質のところ私に選択権はないのでしょう。

 ということで私は、アルデートさんと二人でちょっとしたお茶会をすることになってしまったのです。


 まあ、あの不気味な応接間にいるよりはマシと考えておくとしましょうか。

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