07:聖女の役割
私は、あの後しばらくしてから広間から出て、あてがわれた部屋へ行きました。
あれ以上男どもの色欲に飢えた獣の如き視線を耐えるのは嫌でしたので……。それにしても、ファンタジー世界の貴族連中があんなに生々しいとは考えてもいませんでした。夢も何もありゃしませんね。
私は部屋で、使用人らしき女性に説明を受けました。
聖女がどのような仕事であるのか、や、最終的にはどうなると予言されているのか、とかです。
聖女は主に、ヒーラー的な役割です。
RPGなどでいうと補助的要素が強いですが、この世界ではそうではないらしいです。
普通の回復より力の大きい『超回復』とでも呼ぶべき力が扱えるんだとか。これは「後日、ゆっくり」と意味深に言われました。
ともかく、聖女の特別な力を使って、悪を滅ぼすのです。
現時点では悪が何かは全くもってわかっていない様子。ボンクラすぎ……いえいえ何でもないです。
「時が来ればきっとわかるであろうと国王陛下はおっしゃっておりました。聖女様はその日のためにお心構えなどをしていればよろしいのです」
「でも私、魔法の使い方など全然わかりません。だって私の世界には魔法はなかったんです」
「そうでしょうとも。そこら辺もきちんと手配しておりますので、また後日」
『後日』にすっごく嫌な予感がするのですけど……。ひとまずそれは置いておくとして。
敵がわからず、従って勇者パーティーのようなチームを組むのかどうかすら怪しいまま、私はあやふやな立ち位置に立たされることになりそうです。
「とにかく聖女様の最大の役割は、女神様に祈ること。天に世界の平和を祈ればきっと届きます」
かなり抽象的なことを言われてしまい、困惑します。
確かに巫女さんとかは祈ってますけど……あれって完全に専門職ですよ。
本当の巫女さんとかを召喚するならともかく、信仰心がほとんどゼロの私に言われましても難しすぎ……はっきり言って無理というものです。
全く、どうして私が選ばれたんだろう? 神は私を苦しめたい理由でもあるのでしょうか……。
◆◇◆◇◆◇◆◇◆
ひとまずは薄い下着を着て、私は休むことになりました。
どうやら、まだ日暮れではないらしいのですが、なんだか休んでいろと王様に言われたそうです。
私はただただぼぅっと時間を過ごしました。
あまりにも色々なことが起こりすぎて許容量オーバーです。今一体何が起きているのやら、うまく理解できていません。
そうしているうちに、やがて夕食が運ばれてきました。
「どうぞ」と言い残して使用人の女性は部屋を立ち去ってしまいます。
料理は決して悪いものではない――むしろ、最高級レストラン並みでしたが、私はちっとも食欲が湧きません。
だって私、数時間前に夕食を食べたばかりでした。
今夜の夕食は私が得意なチャーハン。習い事から帰って来た弟がお腹を空かせてパクパク食べてくれて、私も一緒に食卓を囲む。
それが普通だったはずなんです。なのにそれが急に崩されて、私はここで一人。弟に料理を作ってあげることもできなければ一緒に食べることも、そして顔を合わせることさえも許されないのです。
家族の顔が思い浮かびました。私たちのために一生懸命働いてくれている父と母の姿が。
いつも大変なのに私たちが眠ってしまう前には必ず戻って、「おやすみ」の挨拶をしてくれるのです。
早乙女家は、今の時代ギスギスした家庭が多い中で、とても居心地のいい温かな家庭でした。あの家が、先ほどまでそこにいたはずのあの家が、今はとても懐かしく思えました。
「帰りたい、です。こんな、こんなのって。ひどいっ……」
理不尽を嘆いても仕方がないのはわかっているはずなのに、この不運をどうしても認めることができなくて。
ポツリと、私の頬を一滴の涙が伝っていきました。
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