68:異世界の治安がやばすぎなので解決してあげます!①
「……しまった」
ハッと目が覚めた時にはぼんやりと窓の外が明るくなっていました。
ちょっと休もうと思っただけなのに、たっぷり七時間以上眠ってしまったようです。すでに夜明け間近です。
昨晩は晩ごはんも食べていなかったので起きた瞬間にものすごい空腹感が襲って来ました。この時間に何か食べるものがあるでしょうかと思いながら、私は昨日市場で買った魚をつまみ食いすることにしたのでした。
そのままぼんやり過ごし、朝ごはんまで待っていようと思っていたのですが、私はこの時重大なことを忘れていました。
――そう、朝早くに公園にて集合しなければならないということを。
「嬢ちゃんがのんびりしとるから、向こうから迎えに来ちまったべ!」
「えっ!」
慌てた様子の御者さんに言われた時は耳を疑ってしまったものです。
そもそも集合のことを忘れていた私も私ですが、だってまだ今は宿の朝ごはんが運ばれて来る前の朝六時――ちなみに今更ですが時間はこの世界も二十四時間制のようです――なのです。いくら何でも早すぎやしませんか。
御者さんに手を引かれて宿の外に出てみれば、そこにはずらりと並ぶ子供たちの姿。
昨日ルルーチェで一緒に遊んだ子たちです。彼らは皆私を見ると、またもや遠慮なく飛びついて来ました。
「も〜遅いよ〜」
「みんな待ってるから」
「呼んで来ないとお父さんに怒られちゃうよ」
「早くして」
「早く」「早く」
そしてそう言うが早いか、私を数人がかりで担ぎ上げ、ものすごい勢いで走り出してしまったのです。
「や、やめてください――!」
私は悲鳴を上げながら、ただ連れて行かれるがままになるしかありませんでした。
◆◇◆◇◆◇◆◇◆
そして、やって来ました公園。
やっと下ろしてもらえた私は砂ばかりの地面にへたり込んでしまいました。それを、ヒィヒィ言いながらなんとかついてくれた御者さんが立たせてくれます。
これでホッと一安心――かと思いきや、もちろんそんなはずはなく、
「「「「「「「聖女様、お待ちしておりました」」」」」」」
そう言って一斉に頭を下げる街の人たちがあっという間に私たちをぐるりと取り囲んでいました。
いや……確かに昨晩、一万人くらい集まったら怖いなーとは思いましたよ? でも、これって明らかにそれ以上ですよね。二万人? 三万人? 公園をはみ出して市場の方まで人がずらり。私、ちょっとした見せ物みたいになってませんか……?
しかもこれから私は、いちいちこの人たちのお願い事を聞かなければならないのです。こんな大勢の願いを叶えるなんて、どう考えても無理なんですけど。
どうしたものかと頭を抱えたい気持ちでいっぱいになりながら、私は曖昧な笑みを浮かべて民衆を見回したのでした。
王様ってこんな感じの気持ちなんでしょうか。もしそうだとしたら大変ですね……。
やはり聖女としての仕事はそう簡単ではないのだと改めて実感させられた瞬間でした。
◆◇◆◇◆◇◆◇◆
「つまりは、異世界の治安が悪すぎるので解決してほしいと……そういうわけですね?」
「左様」
「うーん。私にできるでしょうか」
オセアンの町内会会長みたいな人物……通称『長』と呼ばれる人に住民たちの意見を総括して言ってもらえたので助かりましたが、その内容というのがなかなかに問題があるものでした。
ここの街は漁業が盛んな活気あふれる街である一方、『ヴォラティル教』がそうであったように社会の闇も多いんだとか。最近は空き巣やら強盗事件も増えているんだそうです。
それもこれも騎士団が近年急増している魔物退治に追われており、手が回らないせいなんだとか。仕方ないことなのかも知れませんが、もう少し騎士団とやらには頑張ってほしいものです。
ともかく、
「わかりました。できるかどうかわかりませんけど、やってみます」
二、三万人に取り囲まれて、私に拒否権などあるはずがありません。
私は首を縦に振り、この街の治安改善のために奔走することになったのでした。
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