66:事件は無事に解決なのです
「――そんで、廃墟の中にぶっ倒れていたと」
「はい」
「いつものことながらおらの目を盗んで随分なことやらかしてくれたもんだべな、嬢ちゃん。おてんばが過ぎるとおらは思うべ。嬢ちゃんの身に何かあったらおらの首が簡単に飛んじまうってのによぉ」
「……す、すみません」
私は御者さんに詰め寄られ、肩を落としてしょげていました。
まあ、怒られても当然ですよね、これだけやらかしたら。一度だけではなく二度も連れ去られた上に事件を起こすなんて……我ながらつくづくついてないです。
私はあの後、聖魔法をぶっ放し、教会の建物を粉々にしてしまいました。
まるで爆撃を受けたかのように飛び散る教会だったものの破片を見た時はそれはそれは驚いたものです。――まさか自分にこんな力が備わっていたなんて、思いもしませんでしたから。
誘拐犯五人組の時に発揮したのとは、また別の聖魔法。
あれは『悪しきもの』を遠ざける魔法だったのですが、今回のは聖なる力で全てを吹き飛ばす――ニニ曰く『必殺技』と呼ばれるものでした。
「あれを使うと周囲に甚大な被害を及ぼすので、お命が危険に晒され、もはやどうしようもない時にのみ使用していただきたく。ですからどうか安易な使い方はなさらぬようお願い申し上げます」
――この話を聞いた時は、この魔法だけは使うまいと決心したものですが、簡単に破ってしまいました。
でもあの時は後数秒あれば棍棒で殴られてもおかしくなかったわけですし……以前に失敗した経験があるので、なるべく強力な方法を取らなければという思いもありましたので。
そのおかげで教会は全壊し神官やミハエロさんも重症を負うという結果になったそうです。
私は気絶こそしていなかったものの、かなり意識が朦朧としていた上に体力をごっそり奪われていたのでとても動ける状態ではなく、一時間ほど後に駆けつけて来てくれた御者さんたちに救助され、今に至ります。
聖魔法の白い光のおかげで私の居場所がわかったらしいです。やはり聖魔法は万能ですね。
「反省したか?」
「もちろんです。たいへんなご迷惑かけてごめんなさい。これからはもう二度と勝手に迷子になったりしません! ……でも結果的にはミハエロさんたちカルト集団を捕まえられましたしペストの原因のネズミも全て排除することができたわけですから、かなり大活躍じゃありません? 前の時と比べたらただ助けられただけのお姫様的ポジションから一気にランクアップした気がするんですが!」
「こりゃちっとも反省してねえべ」
自分の行動を振り返って思わず興奮する私に、御者さんはやれやれと言いたげに肩をすくめました。
しかしなんとか再びのお説教は回避できたようです。良かった……。
と、思っていたら。
「聖女様!」
「聖女様だわ」
「あれが聖女」
「見ろよあそこ」
「うわお、聖女様だっ」
「ありがたやありがたや……」
「聖女様!」「あれが」「裸」「違うわ水着よ」「素晴らしい」
どこからともなくそんな声が聞こえて来て、ザァーっと私たちの周囲を人が取り囲み始めました。
一体何でしょう、これは? そういえば今私は治癒院のベッド――数時間前まで黒死病患者で埋まっていましたが今はガラガラなのです――に寝かされているはずですが、まさか私のお見舞いに来たわけではないでしょうし。
一瞬ヴォラティル教とやらの信者の残りが襲って来たのではないかと思ってヒヤリとしました。しかし見たところ皆さん普通の街の人たちに見えます。
というかすごい人数です。十人、二十人、いえ、そう言っている間にもどんどん増えていきます。あっという間に五十人を超え、狭い治癒院は人でいっぱいになってしまいました。
視線だけで御者さんにこの状況の意味を問いかけましたが彼も首を傾げるばかり。さっぱりわけがわかりません。
何か始まるのだろうかとビクビクしていると、彼らは口々に言ったのです。
――この街の救世主である聖女様にどうか恩返しがしたい、と。
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