65:たとえ一人でも立ち向かうのです
「何をおっしゃっているのですか聖女様。我々は聖女様のために……」
少々狼狽えた様子で弁解を始めるミハエロさん。
せいぜい堂々と反論すればいいのに、これでは嘘であることが丸わかりです。怪しい宗教集団の長だと自称する割には、演技力ゼロなのだなと呆れてしまいます。
「なら、私を元の世界に帰してくれますか? 無理ですよね? それどころか、私を所有物にしたい気満々なんじゃないですか?
私を弄んで、聖女だと言って祀り上げるふりをして、『女神の祭壇』? そこに閉じ込めるつもりですか?
まあ何にせよ、私の意志を尊重しないでここに連れて来ている時点で、腹黒なのは確証に近いです。そして私はさらに、こんな推理をします」
私は豪華な椅子からガバッと勢いよく立ち上がると、ミハエロさんと神官三人の方をビシッと指差しました。
「あなた方は王家と仲の悪い、または敵視されている、教会とは名ばかりのカルト集団でしょう? そして、ペストを故意的に撒き散らし、むやみやたらに金を巻き上げつつ信者を増やそうと目論む詐欺師でもあるのではないですか?
言ったでしょう、私、さっきまでネズミ退治をしていたんです。その途中でこんな話を聞いたんですよ。『怪しげな薬を売りつけてくる一団がいる』と。聞いた時にはへぇとしか思いませんでしたし、ここに来るまでは少しもこんなことは考えていなかったのですけど、今、点と点が繋がりました。
――あなた方がこのネズミを街に放ち、わざわざ詐欺行為をしていたのでは? その上で私が『奇跡』を起こしたように見せかけ、身柄を掻っ攫い、さらに信者を集める。カルト集団がやりそうな手口です。違います?」
こてん、とできるだけ可愛らしく見えるように首を傾げて見せました。
おそらくは図星だったに違いありません。神官たちがあわあわと言って騒ぎ出し、動揺を押し隠した様子のミハエロさんがさっと前に出て来て言います。
「さすがは聖女様。とても鋭くいらっしゃいますな。まさかそこまで見破られるとは考えついていなかったこちら側の失態でしょうな。お見事です」
「はい。ですが、別に私を見逃してくれるわけじゃないんですよね?」
「無論。そんなに賢くいらっしゃる聖女様を、王家の元へ帰すわけには参りませんので」
私は、はぁと大きくため息を漏らし、もう一度周囲をぐるりと見回しました。
見たところでは目の前の四人だけですが、もしかするとこの教会内には他にもやばい人たちがいるかも知れません。どちらにせよ多勢に無勢、しかも男女差と背丈の差があるが故こちらの方が圧倒的不利です。
しかし、だからと言って彼らの思い通りになってやるつもりはありません。たとえ一人でも立ち向かうのです。
……などと言いつつ、今にも足がガクガク震え出しそうなのは内緒ですが。
◆◇◆◇◆◇◆◇◆
王都の時の二の舞にならないようにはどうしたらいいか、私は考えましたが、結局いい案は浮かばず、聖魔法をドカーンとやることにしました。
我ながらなんと手札の少ないことか! しかも、今日は治癒などに魔法を使っていたので、一度失敗したら気絶は必須という危ない手札です。
しかしもう少しで襲い掛かられそうな私に猶予はありませんでした。神官のうち一人など、どこからか棍棒を持って来ていますし。
――今度こそやって見せます!
そう心に決め、男四人を睨みつけます。
この人たちは悪人。この人たちは悪人。罪悪感を少しでも減らすため、何度も何度も頭の中で同じ言葉を繰り返しました。
そうしてきちんと心の準備が整えてから私は、ニニ直伝のとっておきの呪文を呟き――、
「うぁあああああああ――!?」
悲鳴やら怒号と一緒に、教会の建物を吹き飛ばしていたのでした。
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