61:迷子の聖女ちゃん再び
「……さて、と」
私は周囲をぐるりと見回し、はぁと特大のため息を吐きました。
「ここは寂しい路地裏っぽい場所。いかにも物騒な感じで、おそらくエムリオ様が危険だって言っていた場所で間違いなさそうです」
もう一度、ため息。
「問題はどうして今私がこんなところにいるか、ですよね……」
私は頭を抱えながら、こうなった経緯を回想しました――。
◆◇◆◇◆◇◆◇◆
「ネズミ退治って言ってもなかなか骨が折れますねぇ」
「街中を走り回らなきゃならねえからなぁ。嬢ちゃんの言ってる『ネコ』ってやつがいたら簡単なんだろうが」
黒死病撲滅のため、ネズミ狩りを始めた私たち。
でも早速大きな障害が立ちはだかりました。それは人の手でネズミを捕まえるのはあまりに難しいこと。かと言ってこの世界に猫はいないようで、動物に頼るのも難しそうであること。……まあそもそも猫が感染源のノミをくっつけてしまったら一緒なので、あまり有効な手段でないことに変わりはありませんが。
「魔物なら聖魔法で一発で退治できるんですけどね……。聖魔法ってチートなんだかチートじゃないんだか」
「魔法ってのも万能じゃないべなぁ」
結局、治癒院の人たちと街の人に頼んで大勢でネズミを捕獲し、袋に詰めるという原始的な方法で駆除を行うことに。
集まったのは総勢二十人ほどです。よく見ると血のように赤黒いドブネズミ的なものがあちらこちらをうろちょろしていて、最初は結構順調に捕れていたのですが――。
「足速いっ! このネズミ、めちゃくちゃ足が速いです!」
「追いかけろ、追いかけてささっと捕まえるんだ」
何匹か特別に大きなネズミがおり、そいつらの動きの速いこと速いこと。
そしてそれを夢中で走って追いかけているうちに……なぜか私は路地裏にいました。いつの間にか御者さんからもはぐれてたった一人。
つまり、またもや迷子になってしまったようなのです。
「しかも人通りの極端少ない、治安が一番悪い地帯。こんなところに一人でいたらまずいですよね、絶対」
また強盗やら人攫いに絡まれてはたまったものではありません。
私は慌てて路地を走り回り、出口を探そうとします。しかし、まるで迷路のようになっているようで進めば進むほど抜け出る方法がわからなくなってしまいました。
「ああー、これって何かやばいことが起こる予感満々なんですが」
大通りとは違って道がゴミだらけなのでネズミがやたらと多く、それを捕まえられるのは良いんですけどね。すでに手にした袋に十匹くらい新たに入れてしまいましたよ。ネズミが袋にたくさん詰まっているのって、改めて考えるとかなり気持ち悪いです。ぞよぞよします。
と、そんな現実逃避はほどほどにして。
――本気でどうにかしないといけませんよね。
「御者さーん! 誰かー! 誰か、誰かいませんかー!」
大声を張り上げて呼んでみますが誰からの返答もありません。
もしかしたらエムリオ様が颯爽と駆けつけてくれるのでは……なんて淡い期待を抱いたものの、当然のようにそんな都合のいいことは起こりませんでした。
聖魔法を使ってこの路地から抜け出す方法があるかも知れない。ふとそう思いましたが、先ほど魔法を使用しすぎたせいで体力――正確には魔力と呼ばれるものですが――が枯渇気味で、いざという時のことも考えてあまり魔法を使いたくないのでその案は却下せざるを得ません。もちろんいざという時が訪れないのが一番ですけど何があるかわかりませんし。
はぁ……困りました。私って調子に乗ってしまうとすぐこうなるんですよ、ほんと。興奮しすぎて我を忘れるのは幼少期からの悪い癖なんです。
深く肩を落とし、私は力ない足取りでふらふらと路地を彷徨い始めたのでした。
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