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06:判定

「女神に選ばれておらぬから嫌と申すか。……ならば、聖女の資格を試すが良い」


 私の「お断りします」の一言に場が騒然となる中で、王は一人だけ動じていませんでした。


「…………聖女の資格って何ですか?」


「聖女の資格とは、聖魔法の有無で測る。聖魔法はとても希少なものであるからしてそれすなわち聖女の証となる。もしも結果、聖魔法の素質が見つからねばそなたは聖女ではない。逆に素質が見られれば、聖女となってもらう」


 私は慌てて反論しました。「それじゃあ私の意志もへったくれもないじゃないですか」


 感染症で、陽性だったら無症状でも入院させるみたいなそんな話を聞かされてはたまったものではありません。

 でも王は「これは決まりなのだ」と言いました。


「そもそも聖女でなかった場合、私はどうなるというのです? 家に帰らせてくれるならそれでいいのですが、きっとそうではないですよね? そんな条件で受けられるはずがありません」


「いや。もしもそなたが聖女と無関係なのであれば、我々が全力で手段を講じ、元の世界へ帰すことを約束しよう」


 ………………よし。

 ウダウダ言っていても仕方がありません。少しでも帰れる可能性があるのならやりましょう。やるしかないです。

 私に魔法なんかが使えるはずがない。これだけは自信を持って言えます。

 だって私は、現代日本の平凡すぎる女子高生。魔法なんぞが使えたら大騒ぎになっているはずですからね。


 そう思って私は、判定を受けました。



◆◇◆◇◆◇◆◇◆



 判定を行うのは、専門の人のようです。

 先ほどのアルデートという青年は、召喚魔法のみ担当らしいです。判定士さんが彼のようなイケメン貴公子だったら良かったんですけど、生憎腰の曲がった白髪のおじいさんでした。


 どうやら鑑定というのは胸に触らないとできないことなのだそうです。こんな老人に無遠慮に胸をベタベタ撫で回されるのは嫌ですが、我慢するしかありませんでした。


「では、行くぞい」


 老人の手が私の柔らかな胸に押し当てられます。

 思わず、今にも悲鳴を上げそうになるのを必死で我慢します。そんな私の胸の中をぬるぬるした何かが駆け巡りました。

 うう、気持ち悪い……。吐いてしまいそうでした。


 でもこれも帰るため。帰るためなら何でもすると決めた以上はやらなければならないと強固な意志で最後まで踏ん張り――。


 そして結果は、「反応ありですな」


「ふぇ?」


 正直、何かの聞き間違いではないだろうかと思いました。

 だってだって、そうでしょう? 今まで実在など信じていなかった魔法とやらが、私の体の中にあるというのですから。

 そんなはずがありません。何かの間違い。そんなはずがないに決まっているのです。そうでなくては、そうでなくては……。


 震えながら、それを隠しつつにっこり笑顔を作って「何の冗談ですか?」と言った私に、おじいさんは無情にも首を振りました。


「本物の聖魔法の輝きが見える。これは本物の聖女の印じゃな」


 その時、皆が「うおう」とか「本物……」とかを口々に言い、どよめきました。

 じんわりと、しかし確かに私の心に失望が広がっていきます。


 誰かこれを嘘と、夢と、幻と言ってはくれないのでしょうか。

 私は先ほど、危うい賭けに乗ってしまいました。すっかり自分の思い込みを過信して、その結果がこれです。もう私に言い訳の余地も逃げ道も残されてはいませんでした。


「――よってそなたを聖女と認める。異論はなかろうな?」


 きっとこの城から逃げ出したとして、元の世界に帰る方法はないのでしょう。

 ここが異世界であるということは色々なことを考えて間違いないわけですから。


「ごめん、なさい……」


 残して来た弟のことを思いました。

 彼は、突然消えてしまった私をどう思うのでしょう。母は、父は、私を探そうと必死になるのでしょうか。

 せめて一言ここにいるのだと伝えられればまだしも、その手段はないのです。私は一生行方不明のままで残された家族はどんな気持ちになるのか。


 でもそれを考えて何になるというのでしょう。私はもうすでに、最初から負けているのです。

 私は、大人しくこの状況に呑まれる他、ないのでした。

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