59:異世界観光へGO!②
見たことのない売り物の数々、競りをしているのか威勢のいい声を交わす商人たち、異国のものだろうと思える和服と洋服をごちゃ混ぜにしたような民族衣装を着た人々……。
市場には私の興味を引くもので溢れ返っており、私は目を輝かせてばかりでした。
「嬢ちゃんちょっとはしゃぎすぎだべ。おらついていけねえだ」
「御者さん、私の護衛でもあるんですからしっかり着いて来てもらわないと困りますよ。今度はあっちです!」
そうして市場の店という店を巡る中で、私が一番驚いたのは、市場の真ん中の広場で歌い踊る女性――踊り子の姿でした。
ヒラヒラした踊り子の衣装を纏う甘色の髪に紅色の瞳の彼女は、世界中を旅して歌って回っているのだそうです。周りの黒山の人だかりを見る限りかなりの人気があるようで、かくいう私もその歌声があまりにも美しすぎて一瞬で虜になってしまったのです。
「ありがとうございました!」
踊り子さんが歌い終わるなり次々と歓声が上がり、人々が握手を求めに走ります。まるでアイドルですね……だなんて思いつつ、私もこっそりその群衆に紛れ込み、握手させてもらいました。
その隣では御者さんが踊り子さんにえっちなことをしようとしています。当たり前のように踊り子さんに蹴飛ばされてましたけど。
「嬢ちゃん、随分と盛り上がっとったべなぁ」
「御者さんの方こそ護衛のお役目を忘れるくらいには楽しんでましたよね」
そんなことを言いながら歩いていると、いつの間にか市場を抜けてしまっていました。
その先にあったのは静かな緑の小道です。どこかへ続いている様子でした。
「どこへ行くんでしょう。……まさかエムリオ様の言っていた治安の悪い場所じゃないですよね?」
一瞬不安になりましたが、御者さんが「多分違うと思う」と言って首を振ってくれたので、それを信じることにします。
私は小道の奥へと進みました。
◆◇◆◇◆◇◆◇◆
「ねえねえ、遊ぼう」
「うわ、見たことない格好!」
「裸だ!」「海行くの?」「街を裸で歩いちゃいけないよ」「変な服!」「裸の女!」
裸と連呼しながら私の体に絡みついてくるのは、私より若干背が低い……中学生くらいに見える大きさの人たち。
でもこの世界で言えばきっと彼らは幼い子供なのでしょう。レーナ様より小さいのを考えれば、七、八歳なのかもしれません。
私は今そんな子供たちに抱きつかれ、ただただ困惑していました。
小道のさらに先にあったのは公園でした。
と言っても遊具があるわけではありません。それまでの小道に生えていた広葉樹とは違い、シダに似た珍しい植物が一本だけ生えた広場のようなところです。
そこに集っていたらしい子供たち――十人以上が私の姿を見るなり「誰?」と言いながら寄せ集まって来て、今こんな状況に陥っているのです。
御者さんも絡まれて身動きができない様子。誰か助けて。
「みんなでひっつかないでくださいっ。それに私、裸じゃありませんから! こら、ブラを取ったら本当の裸になりますからやめて!」
「えぇー裸じゃないのー?」
「いいから遊ぼ」
「今ルルーチェで遊んでたの」
「ルルーチェ一緒にやろう」
見知らぬ子供たちから、多分同年代だと思って遊びに誘われているようです。
せっかくの異世界観光の時間が減ってしまう、と思いましたが、もしかすると本来の目的である娯楽……もとい暇つぶしの方法を教えてもらえるかも知れません。
私はあえてその謎のルルーチェという遊びをやってみることにしました。どうせ暇ですしね。
ルルーチェは、簡単に説明すると野球のようなものでした。
しかしこれが難しいのです。だって……、
「ひぃぃ、燃えます燃えます!」
ボールとして使われていたのは火の魔石……すなわち火球だったのですから。
それをバッド代わりの棍棒で打ったり鉄製のグローブで火球を投げたりするのですが、うまくやらないと棍棒に火が燃え広がって火傷をするという危険な遊びなのです。いくらなんでも危なすぎやしないでしょうか、このゲーム。少なくとも子供がやっていいものには思えないのですが。
実際、すでに私の棍棒は先端が焼け焦げてしまっていてほとんど使い物になりません。聖魔法で治しはしましたがあちらこちらに火球が掠って火傷もできていました。
……しかも異世界人だからなのか皆力が強く、火球を投げる力が凄まじいという始末。私はあっという間にリタイアしました。
「これ、娯楽じゃなくて罰ゲームですよね……?」
「一般的な遊びだべ。田舎モンなら誰でもやるだよ」
「田舎者になりたくないです絶対」
再び子供たちがルルーチェに誘って来ましたが、もう一度など無理です。暇だからとすぐに了承してしまった私が馬鹿でしたよ、本当に。
私は笑顔で子供たちのおねだりを断ると、追い縋る子供たちを振り払って公園から逃げ出したのでした。
当然ながら世の中楽しいことばかりではないようです。
この異世界には学ばされることが多いなぁと思うばかりなのでした。
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