57:一人は気楽
エムリオ様がいなくなってしまって寂しい……なんてことはなく、むしろ気が休まりました。
確かに話し相手がいないのは少し残念ですけど、必要であればそれは御者さんと話をすればいいわけですし、それより何よりあのイケメン王子様が隣にいると平静さを保てなくなりそうでしたので。
一緒にいる時はなるべく考えないようにしていましたが、エムリオ様は超絶イケメンなんです。
まず、言うまでもなく顔がいい。赤髪にエメラルド色の瞳がよく似合っていて美しいのです。そしてさらに、体型も若干マッチョなのに細身で引き締まっているのが素敵で、それから話し方の柔らかさとかがもう絶妙といいますか。
私の理想を体現したような……そんな王子様。それが常に隣にいたら心臓がもちませんよ、本当に。
だから一人は気楽です。夕食を食べる時だって落ち着いていられますし、夜寝る時もエムリオ様のことを考えないで済むのですから。
「入学まで十日弱……。それまでの間、何しましょうか」
思いを馳せるのは夏季休暇が終わるまでの期間について。
正直、私はこの港町でやることが何もありません。暇中の暇なのです。
「本を読もうにもこの世界の文字が読めないんじゃ無理ですし。ゲームも漫画も何もない。あーあ、本当に娯楽が全滅です」
娯楽のない世界。そんなのってつまらな過ぎます。
その時私はふと思いました。もしかすると私の知らないだけで、何かしらの娯楽は存在するのでは? きっとそうに違いありません。文字を解しなければならないものは無理ですが、例えばボードゲーム程度であれば庶民の間で広がっているかも知れませんし。
――よし、思い立ったが吉日です。
明日はこの世界にある娯楽を探すため、オセアンの街に出て色々な人に聞いて回ったりしてみましょう。お買い物を楽しむのも悪くないかも。つまりは異世界観光ですね!
異世界召喚されてからデパートに寄ったり迷子になったりはしたものの、観光旅行は初めてです。
明日早速御者さんに言って、街へ二人でお出かけしましょう。決してデートじゃありませんよ。あくまでも御者さんは護衛です。
……そういえば私のような高貴でも何でもない人間に当たり前のように護衛がつき、それを簡単に受け入れているだなんて、私もすっかりこの世界に馴染みつつあるようです。いいことなのか悪いことなのかはよくわかりませんが。
そんなことを考える一方で、明日の異世界観光にワクワクと胸を躍らせる私。
異世界の定番と言ったら……と、異世界あるあるな種族や世界観、道具などを次々と思い浮かべ、さらに興奮してしまいます。
「聖女や魔物もいるのですから、異種族がいて当然ですよね。妖精や精霊、獣人とかにも出会えるかもです。それに、また新たな出会いがあったりして――。
もしかして武器屋とか防具屋が普通にあったりするのでしょうか? それとも回復系の薬草を売っていたり? それからそれから……」
考え出したら止まらなくなって来ました。厨二病を卒業したと思っていましたが、私の中にまだ厨二魂が残っていたようです。
ああ、どうやら今夜はなかなか寝付けそうにありません――などと思っているうちに、私はいつの間にか眠りに落ちていたのでした。
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