53:エムリオ様と学園へ
「あっ!」
ブレスレットを買ってルンルン気分でエムリオ様と並んで歩いていると、デパートのとある店舗の中に御者さんの姿を見つけました。
大勢の人に話しかけ、何やら探し物をしている様子です。……探し物はおそらく他ならぬ私で間違いないでしょう。
「御者さん!」人混みをかき分けて走りながら呼ぶと、彼は私に気づいたようでした。
それからは簡単に事情を話し、涙の再会。とは言っても御者さんが一人でボロ泣きしていただけですが。
「これでおらは死なずに済むだ……。あと一日見つかんなかったら首ちょんぱだったべ」
御者さんが心配していたのは私より自身の身の安全だったようです。
この世界の物騒さを改めて知らされたような気がしました。
◆◇◆◇◆◇◆◇◆
御者さんも見つかったことですし、これで今度こそエムリオ様とお別れです。
たった一日ほどなのに、エムリオ様には色々とご迷惑をかけ過ぎました……。アクセサリーまで買っていただいてしまって、もうなんと言っていいやらわかりません。
それでも私にできるだけの謝罪と共に感謝を伝え、デパート前に置いてあった馬車に乗り込もうとしたのですが。
「ちょっと待ってほしい」
なぜかエムリオ様に呼び止められました。
もしかして私、何かやばいことを言ってしまいましたか!? そう思い、内心でヒヤリとしたのですが、どうやらその心配とはまるで違ったようで、
「キミも王立学園に行くんでしょ? ならボクも一緒に連れて行ってくれないかな」
私が考えもしなかったそんな提案を、彼はしたのです。
この発言にはさすがに予想していず、私は固まってしまいました。
「あの……非常に言いづらいのですが、やはりエムリオ様ってストーカー気質の方なのですか? 別に私、子供じゃないので、もう大丈夫なのでついて来ていただかなくてもいいんですけど……」
「もちろんキミが心配だからもあるけど理由はそれだけじゃない。学園に着くまでの間、しておかなくてはいけない話も色々とあるんだ。それに、実はボクも王立学園に通ってるんだよ。だからどうせなら一緒に行こうと思って、ね」
「えっ。エムリオ様、学生だったのですか!?」
意外です。ニニほどではないにしろ高身長なので、てっきり立派な大人の男性かと思っていましたのに。
聞いてみると私と同じ十五歳とのことでした。今年で王立学園を卒業する三年生なのだそうです。
世間は意外にも狭いものですね。驚きです。
そんなわけでエムリオ様のストーカー疑惑は晴れましたが、それにしたって同じ馬車で行かなくてもいいでしょうに。とは思います。
御者さんだって、「王太子殿下だべかっ。聖女様と殿下を乗せるのって責任重大過ぎやしねえか?」などと言ってガタガタ震えていますし。私もエムリオ様と過ごすのは気恥ずかしいといいますか……。
しかし、この場合においても私には拒否権というものはないのでしょう。私はあくまで異世界人、分を弁えねばなりません。ですから曖昧な笑顔を作って言いました。
「そこまでおっしゃるなら……。エムリオ様とご一緒するなんて、思ってもみませんでした」
さりげなくご一緒しないでもいいですよのアピールをしたつもりなのですが、エムリオ様は一体全体どのように勘違いしたのか、「喜んでもらえて嬉しいよ」と的外れなことを言われてしまいました。
――もしかして鈍感なのでしょうか、この人は。
湧き上がった疑問を口にすることはもちろんできず、やんわり断る作戦は諦めました。仕方がないので私の席の隣に座ってもらい、これからの馬車旅を共にすることになったのです。
「ボクのことは護衛と思ってくれればいいから。気にしないでね」
「は、はい」
護衛にしては距離が近いと思います。
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