52:お揃いのものがいいだなんて ――エムリオ視点――
聖女――ヒジリと同じブレスレットをつけたボクは、隣で顔を赤らめている彼女を見つめていた。
こうしているとまるで婚約者同士みたいに見える。
「後でロッティに怒られそうだな……」
ボクは内心ではぁとため息を吐いた。
◆◇◆◇◆◇◆◇◆
ボクがヒジリと出会ったのは偶然だ。
本来であれば召喚の儀に付き合わなければならないのだけど、スピダパム王国騎士団にも所属しているから、そちらの仕事も外せない。やむなく欠席することになった。
だから、どんな聖女が召喚されるかなんて頭の片隅くらいでしか気にしていなかったわけだが……。
「私はサオトメ・ヒジリ。これでも一応、聖女をやってます」
たまたま人身売買の犯罪集団から助け出した黒髪に黒瞳の女の子が聖女だと聞いた時は、腰が抜けそうになるほど驚いた。
しかもその女の子の格好がとても女性らしくない……初夜の時にしたってもう少しマシな服を着るだろうという格好だったからどう対応していいか迷ったものだ。しかもそれが聖女の衣装として『光の騎士』が選んだものだと聞く。ボクにはさっぱりわけがわからなかった。
騎士団詰所の談話室で簡単にボクの名前と身分を明かしたものの、もう少しゆっくりと話をする必要があったから、宿に連れ込むことにした。
別に卑しいことを考えていたわけじゃない。そもそもそんな乱暴なことをするつもりはないし、ボクが彼女にそんなことをしたら廃太子になるだろうしね。
そんなわけで聖女を連れて宿に戻り、話すうちにわかったことがいくつか。
サオトメがファミリーネームでヒジリがファーストネームであること。
聖女召喚の儀によってこことは異なる世界より渡来したのだということ。
聖女の力は強く、『光の騎士』が認めたほどだとのこと。
そしてボクの妹であるレーナと非常に親しいこと。
どれもボクにとっては驚く話ばかりだ。特にレーナと親しいのは意外だった。レーナはボクと他数人にしか甘えない、少しばかり素直ではない子だから、まさか異世界人と仲良くなるとは……。
ともかく、そんな話をして、とりあえず今日は宿に泊まって行くように言って眠って。
目覚めたらいなくなっていたからドタバタしたりはしたけど、そんな中でボクは思ってしまったんだ。
――可愛い。
それは本来であればボクが絶対に抱いてはいけない、恋心というものの芽生えの瞬間だったのかも知れない。
◆◇◆◇◆◇◆◇◆
「せっかく私のお買い物に付き合ってくださったわけですし、一緒の思い出があった方がいいじゃないですか。……はっ。でもよく考えたらこれってお揃いということですよね!? つまり恋人同士! やばっ。す、すみません! そんなつもりはなかったのですが!」
そう言って慌てる彼女に胸をくすぐられてしまった。
お揃いがいいだなんて、なんて可愛らしいんだろう。ボクと同じ十五歳と自称していたけどやはり子供なのかも知れないな、なんて思う。
もしかするとヒジリの国では普通のことなのかも知れない。だってボクのことを『殿下』ではなく当たり前のように『エムリオ様』と名前で呼んで来るし。……普通、婚約者や親友でもない身分が上の人物を名で呼ぶことは無礼にあたるのだけどね。
この娘はボクを誘惑しているんだろうか?
でも、ヒジリの態度は全然そのように感じられない。そしてボクは彼女の意図がよくわからないまま、いつの間にか勢いでブレスレットを買ってしまっていた。
しかもそれを見て、ヒジリは「素敵です」だなんて言う。その目はキラキラと輝いていて、ボクはなんだか嬉しくなった。
けれど喜んでばかりはいられない。
ふと、金髪に朱色の瞳の少女の顔が脳裏に蘇り、彼女が激怒する様が思い浮かんだ。
――アタクシ以外の女とお一人で会わないでくださいましと、いつも言っているじゃありませんの! これですからエムリオは!
「ロッティは独占欲が強い子だからなぁ。とりあえずこのブレスレットは、隠しておくのが一番らしい」
「どうしましたかエムリオ様?」
「いや、何でもない」
名目上は一応、馬車の御者が見つかるまでの間の聖女の護衛、つまりボクの立ち位置は王太子ではなく一人の聞いということだ。だから公には問題にはならない。
……傍から見て、どう考えてもデートにしか見えないことを除けば。
◆◇◆◇◆◇◆◇◆
このデパートという店は、平民向けにしてはかなり立派なものだと思う。本当は視察としてもっと詳しく見て回りたいところだけど、ヒジリがいる現状それはできないので諦める。
アクセサリー店を出てヒジリと並んで人混みの中を歩いていると、突然ヒジリが「あっ」と声を上げた。
彼女の指差す先には田舎風の男が一人。おそらく彼女の探していた人物だろう。
「御者さん!」
これでボクがヒジリの護衛をするのも終わりだ。
でもボクはまだ別れたくなかった。だから、別れを告げようとする彼女に言ったんだ。
「キミも王立学園に行くんでしょ? ならボクも一緒に連れて行ってくれないかな」
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