51:デパートのお買い物やり直し
宿に戻って来た頃には明け方になっていました。来る時ほど時間がかからなかったものの、やはりそれなりに距離があったようです。
「眠いですね……。とりあえず、寝ますか」
「そうだね。ボクも寝不足気味だから。もう一度言っておくけど、変なことはしないからね?」
「わかってます。逆に変なことしたらぶっ飛ばします。自信はありませんけど……」
そんなことを言い合いながら私はベッドへ、エムリオ様はソファに横になり、二人ともあっという間に眠ってしまいました。
そして次に目を覚ました時には――。
「やばい! ちょっと寝るだけのつもりだったのに!」
昼過ぎになっていたのです。
◆◇◆◇◆◇◆◇◆
エムリオ様の案内でデパートまで戻って来た頃には随分と日が傾いていました。
つまり私はほぼ丸一日、失踪していたことになるのですよね。大慌てで私を探しているであろう御者さんのことを思うと非常に申し訳ない気持ちでいっぱいです。
早く合流しなければ。
と、その前に、エムリオ様にお別れとお礼をしなくてはなりませんね。
「エムリオ様、ここまで連れて来ていただき本当にありがとうございました。感謝しかありません」
「ボクは別に構わないよ。こういうのも騎士の仕事の一つさ。……ところでだけどキミ、何か買い物したいものがあるとか言ってなかった?」
エムリオ様に言われ、私は「そういえば」と思い出しました。そうでした、デパートで買いたいアクセサリーがあったのです。でも……。
「私、実はお金を持っていないのです。御者さんに借りるつもりなのですが」
「ならボクが買ってあげるよ。王子と言っても小遣いはあまり多くないから大したものは買ってあげられないけどね」
「えっ、悪いですよそんな!」
私はブンブンと手を振りました。色々と良くしてもらった上にアクセサリーまで買ってもらっては、頭が上がらなくなってしまいます。
しかし、馬車は元の場所に停められたままだったものの、頼りの御者さんはデパートの周りを探してもいませんでした。つまり私は今も迷子のままということ。
……結局、エムリオ様に押し切られる形で、私たちは一緒にお買い物のやり直しをすることになりました。御者さんもデパートの中にいるかも知れないからそれを探すためです、と心の中で言い訳をしながら。
◆◇◆◇◆◇◆◇◆
菓子店、パン屋、紅茶屋。
気がついたらほぼ全てと言っていいであろう店を回ってしまっていました。ニニにビキニは基本的に脱ぐなと言い付けられているため、服屋だけは必要なさそうなので寄っていませんが。
思わずはしゃいで色々と買い過ぎてしまった私は、ハッと我に返ると両手に袋という袋を抱え込んだ自分を見てギョッとしました。
「うわっ。私、こんなに……。エムリオ様に買っていただくというのに遠慮がなさすぎです!」
「別に遠慮なんてしなくていいんだよ。ここに売っている程度のものなら大した額じゃないからね。さあ、本命がまだでしょ? 一緒に行こうか」
「でも……。わかりました、よろしくお願いします」
私たちはアクセサリー店へ向かいました。
アクセサリー店には相変わらず可愛らしい小物がいっぱいです。
私は店内を見回し、再びどんなものを買うか選び直し始めます。
「以前はこのネックレスとイヤリングを買おうと思っていましたけど……このブレスレット、意外に可愛いかも知れません」
「確かに可愛いね。透明な魔石で作られているようだ」
私が手に取ったのは、透明で丸い形の石――水晶によく似ています――を紐でつなげて作った、小ぶりなブレスレット。
腕にはめてみると少しブカブカでしたが、つけられないほどではありません。透き通るような輝きを放つその石に私は目を惹かれ、次の瞬間には決断していたのです。
「これ、買います」
「キミによく似合うと思うよ」
「そうですか? あっ、そうだ、こっちに同じものがありますから、エムリオ様もどうです?」
実は同じ水晶に似た魔石とやらのブレスレットはもう一つありました。
それをエムリオ様に手渡し、はめてもらいます。ちょうどサイズがぴったりでした。
「どうしてこれをボクに?」
「せっかく私のお買い物に付き合ってくださったわけですし、一緒の思い出があった方がいいじゃないですか。……はっ。でもよく考えたらこれってお揃いということですよね!? つまり恋人同士! やばっ。す、すみません! そんなつもりはなかったのですが!」
どうせなら同じものを、と思っただけなのですが、よく考えてみればまるで恋人の会話みたいなことを言っているのではと気づき、私は慌てました。
他意はないのだと必死で伝え、すぐに却下しようと言おうとしました。が、
「……キミ、面白い子だね。いいよ、ボクもお揃いのブレスレットを買おう。聖女様と同じものを身につけるだなんて幸運なことだよ」
エムリオ様はなんだかとても嬉しそうに、そう言ったのです。
……その笑顔に思わず見惚れてしまったのは誰にも内緒の話です。
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