50:もはやストーカー
「え、エムリオ……様?」
私に声をかけて来た不審な人物は、私の真後ろにいつの間にか立っていました。
赤黒い仮面に漆黒のマントの男性。彼はどこかで、いいえ、つい数時間前まで一緒にいた人物に他なりません。王太子エムリオ・スピダパム様です。
先ほどまでいくら後を振り返っても誰もいなかったのに。まるで透明人間が急に姿を現したかのような感覚です。転んだ上に震えて立てない私を見下ろす彼は、慌てて私に手を差し伸べました。
「大丈夫かい? ちょっと脅かすつもりが、驚きすぎて逆にボクの方がびっくりたよ」
「……。過去一の恐怖体験でしたから」
本気で幽霊に追われているかと思いましたもの。暗闇と足音というのはこんなにも恐怖心を煽るものなのですね。
それはともかくとして、私には今の状況がまるでわかりません。どうしてエムリオ様と当たり前のようにこうして言葉を交わしているのでしょうか?
◆◇◆◇◆◇◆◇◆
話を聞いてみると、ふと目覚めたら私がいなかったので、エムリオ様はあの手この手を使って私を探し出したのだそうです。
あの手この手が一体何だったかは教えてくれませんでした。物騒な手段でないことを願うばかりです。
あれだけ何時間も彷徨い歩いたいたのです。私を見つけるのは容易くはなかったでしょう。執念に近いものがあったのかと思うくらいです。
そう考えると、再び背筋が寒くなりました。
「それってもはやストーカーですよね……? 怖いんですが」
「すとーかーが何かはわからないけど、全てはキミが心配だったからだよ。聖女であるキミが失踪した、なんてことになったら困るだろう? それにレーナが悲しんじゃ困るしね」
「私がいなくなったくらいでレーナ様、悲しむでしょうか?」
そうは思わないのですが。
というより、私が聖女という要素を考慮に入れたって、勝手に出て行った私を追いかけてくるなんてやはりストーカーまがいの行動だと思います。まあ、助けられたのは事実なので文句は言えませんけど。
しかし隠れながら背後から近寄るのは反則だと思います。エムリオ様曰く驚かせたくてしばらく私のことを尾行して楽しんでいたらしいのですが、もっと普通に声をかけてくれればあそこまで怖い思いはしなかったと思うんですよ。
「やはりエムリオ様の行動は許し難いですね。白馬の王子様役失格です」
まあ、そもそもエムリオ様は白馬には乗っていないのですが。
「だからごめんってば。……それにしても一人でどうやって帰るつもりだったんだい? 道、わからないんだよね?」
「そ、それは。ですから、早くあのお宿をお暇した方がいいと思ったというか、何というか……」
「ヒジリってかなり重度なおっちょこちょいなんだね」
「悪かったですねおっちょこちょいで!」
昔からよく私は抜けているとかドジだとか言われたりしていました。まさか異世界でまで言われるとは。
少し拗ねて見せれば、エムリオ様が慌てて「ごめんごめん」と謝って来ます。一応許してあげることにしました。
「デパートの場所に戻りたいならボクが連れて行ってあげる。でも今日は遅い。だから、今は帰ろう?」
「本当ですか。なら戻ってもいいですけど……。ところでここ、どこなんです?」
「貧民街だよ。一応王都の中だけど、この国で一番治安が悪いと言ってもいい。誰にも襲われていないことが不思議なくらいな場所だ。安心したよ」
「ひっ。ここってそんな恐ろしいところだったんですか!」
どうやら私は危険な場所に飛び込んで行ってしまう体質のようです。今回は何事もなくて本当に良かった……。
ホッと胸を撫で下ろした私は、明日エムリオ様にデパートへ連れて行ってもらう約束をして、ひとまず宿へ戻ることにしたのでした。
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