05:太古の大予言
「今回そなたが召喚された理由、それは太古の大予言にある。
かつてのスピダパムの王、つまり我の祖先である初代国王デリックは、夢にこの世の女神が現れて予言を託されたという。
そしてその言葉によると、こうだ。
『千の年、魔の手が世を脅かさん。それ阻止したくば九九九の年、聖女を召喚せよ』
ちょうど今が九九九の年なのだ。翌年来る災厄が何であるのかまでは我らに知る由もないが、世界の破滅を防ぐためにも聖女召喚は必須であった。そして神に、運命に選ばれたのがそなたというわけだ。そなたには悪いがどうか役目を全うしてほしい。異世界からの来訪者ではあるが、褒美なら何でもやろう」
王の言葉に私は、ごくりと唾を呑みました。
過去の大予言とか、世界の破滅とか、運命とか。
そんな大それた話を次々に聞かされて、少し……いえ、とんでもなく驚いてしまったのです。
仮にこの世界に魔王のような悪者がいるとしたら、私は正義の名の下に戦わされる羽目になるのでしょうか?
私は昔よくやっていたRPG系のテレビゲームを思い出しました。
勇者と武闘家と戦士と魔法使い、そして聖女?でしたっけ。その五人グループで悪の大魔王を倒し世界を救うのだったはずです。
「……そんなのは絶対の絶対に嫌です」
ボソリと呟きました。口の中だけで消えてしまうような小さな声ですが、そこに込めた意志と力は尋常じゃないものでした。
もちろん、これが何かのゲームだというのであれば全然ウェルカムです。でもこれは現実。だとしたら、私は嫌でした。
だって帰らなくてはいけないというのに。こんな見知らぬ世界で、何の関係もない人々のために尽くす? 馬鹿げているにも程があるじゃないですか。ゲームと違って現実は死んだら終わりなのです。わけのわからないことで死ぬなんて考えるだけでもおぞましいことでした。
それに過去の大予言かどんなものなのかは知りませんが、これはれっきとした誘拐行為ではないでしょうか?
人を勝手に呼び出して、そして帰れないシステムだなんていうのは。
「――謹んで、お断りします」
私ははっきり、そう言いました。
集まっていた方々――王族貴族であろう皆さんが、びっくり仰天しています。
そんなに驚くことですか? 私がすんなり受け入れるとでも思っていたんでしょうけど。
「なぜだ。選ばれし聖女よ」
「私は誰かに選ばれた覚えなどありません。その女神とやらと言葉を交わしたことすらなく、どんな姿なのかもわからない私が選ばれるはずがないでしょう? それに残してきた家族がいます。今まで存在も知らなかったこんな異世界を救う義理なんてありません。私は早く帰って、テスト勉強しながら弟の面倒を見なくちゃいけないんです」
「てすと……とは?」
眉を顰める国王に構わず、捲し立ててやります。
「早速裸を晒されて、ひどい辱めを受けて。これで快く聖女などになろうと思う人間がいるとでもお考えですか? あなたたちは私の体を目で犯したと、そういう自覚はないのですね?」
一同の顔が蒼白になった気がしました。
私は先ほどの裸騒動に対して、かなり、それはそれは腹を立てているのです。大体、裸体などというものは恋人――もっとも恋人はまだいませんが――や家族の前で晒すものであり、決して名前も知らない大勢の男女に見られていいはずがないではありませんか。
「ですのでお断りさせていただきます。過去の大予言が正しかったとしても、あなたたちは召喚する相手を間違えたんですよ、きっと。ですから帰らせてください。お願いです。帰らせて……」
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