48:夜中にこっそりお暇します
無理です……ああ、全身がどうしようもなく震えてしまいます……誰か助けてください……!
夕食後、私とエムリオ様は同じ部屋で夜を明かすことになりました。
ベッドが一つしかないのでどちらが寝るかが大問題。もちろん、一緒に寝るのはナシです。ありえません。
私は王太子というやんごとなきお方であるエムリオ様がベッドにいた方がいいと思ったのですけど、エムリオ様自身がそれを必死で拒むのですよね。「女の子をソファで寝かせるわけにはいかないから」とのことです。でもそうなるとエムリオ様がソファで眠ることになります。それってかなり申し訳ないのですが……。
しかしやはり私に拒否権はないようで、ベッドで眠らされることになってしまいました。
「じゃあおやすみ。ボクは絶対に変なことはしないから、安心してね」
「は、はい」
そう言ってベッドに横になったはいいものの、どうしようもなく冷や汗が吹き出し、胸の鼓動が速くなってしまい、寝つけそうにもありません。
対するエムリオ様といえば五分も経たないうちに眠った様子。そりゃあ誘拐犯をあれだけとっちめたのですからお疲れでしょうが、寝るの速くないですかとツッコミたいくらいです。
そしていつまでも寝られない私は一人で勝手にヒヤヒヤしっぱなしというわけのわからない状態に陥りました。
やはり無理です。絶対に何もされないと言われても、男の人と同じ部屋だなんて。しかも私の服装、ビキニですし。
どうしてビキニのままかといえばエムリオ様の手前、寝間着に着替えられなかったから。今は彼が寝ているのだから着替えてもいいのかも知れませんが、もしむっくりと起きてしまったらと思うとそれもできません。
「はぁ。私って本当に情けないですね」
こんなことくらいでドキドキしすぎなのかも知れません。家では十代前半まで弟と一緒に寝ていたはずなのに。ここ最近、すっかり異性への耐性を失ってしまっているようです。
「このままじゃ寝られませんよね。……そうだ、御者さん」
御者さん、今頃どうしているでしょう。
きっと不安に思っていますよね。何せ彼は私の身柄をしっかり目的地まで届けるのがお仕事で、それを果たせなかった以上クビになります。
あの御者さんには非常に申し訳ないことをしました。早く戻らないといけないのに、私はこんなところで何をしているのでしょうか。
仮面を取ったエムリオ様の寝顔をチラ見します。それから少し考えて、私は決めました。
「こっそりお暇させていただきましょう」
夜中にいなくなったと知ったらエムリオ様は困るでしょうか。でも彼が聞きたがっていた聖女のお話とやらも一応はしましたし、あんなことでお礼に足りるかはわかりませんがこの宿に来た目的は果たせたはずです。
これ以上いてもお互い困ってしまうだけに決まっています。ですから私は、夜中にこっそり、帰ることにしました。
荷物らしい荷物は何も持っていないので、静かに足音を忍ばせて部屋を出るだけ。
宿主さん――エプロンドレスの女性がそうだったようです――に帰ることを告げます。私の分のお代金をエムリオ様が払うことになってしまうのだけは心苦しいですが、仕方ありません。
レーナ様の兄であるエムリオ様。もっと話したいと思いましたが長居してはいけないのです。私は頬をパン、と叩き、気を取り直して宿の外へと踏み出しました――。
それがあまりにも無謀な行いだったことに気付いたのは、それからしばらく後のことです。
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