35:入学準備!
「はぁもう……。どうして私がこんな目に」
そんな愚痴を言いながら、私は最低限の荷物をカバン――布製ですがスーツケースみたいな形をしています――に詰め込んでいました。
荷物と言っても大したものはありません。今私が着ているものと同じ純白のビキニが複数、そして寝間着が数着だけというなんとも貧素な内容です。私物は全て元の世界に置いて来てしまっていますからね。本当にこれだけの荷物で生きていけるのかと不安になってしまうくらいです。
「でも弱音ばっかり吐いていてはいけないんです。もっとしっかり気を持たないと。それに王立学園い行ったら何かいい出会いがあるかも知れませんし」
思わず嫌なことばかり考えてしまうのを精一杯に誤魔化し、私は自分にそう言い聞かせました。
そもおもこの見ず知らずの世界でたった数日でレーナ様と仲良くなれたのです。他の人とだってすぐに友達になれるはず。私、元々陰キャではないので友達はそれなりにいたのです。
「そもそもそこまで不安視することじゃありません。本番は来年の災厄とやらなんですから」
それまでにせっかくの異世界を堪能しておかないともったいないですし。
そう考えると途端に心の重荷が晴れていくような気がしました。物は考えようとは言いますが、考え方を少し変えるだけでここまで変化があるとは思いませんでした。時には諦めも肝心なのですね。
「よーし。こうなったら学園生活とやらを思い切り楽しんじゃいましょう」
◆◇◆◇◆◇◆◇◆
そうして荷物をまとめ終えるとすぐに、再びノックの音が響きました。
どうやらまたニニが来たようです。王国一、二を争うほどの実力者なのに私にかまけてばかりでいいのかと思わず心配になってしまいます。
「ニニ、今度はどんな用です?」
「聖女様、学園入学の準備をしていただきたく」
「それならもうやりましたよ? 荷物というほどの荷物もないですし」
「いいえ、お洋服などのことではございません。学園に編入する際は履歴書が必要ですから、それを作成しなければなりません。そういえば聖女様は異世界からいらっしゃったのでございますから、身分証などはお持ちでございませんよね?」
「ええ、まあ」
どうやらこの世界でも入学には身分証が必要なようです。不正入学を防ぐためなのだそうで、思っていたよりセキュリティが高いことに驚きました。
なんだか面倒臭いですが文句を言うわけにもいかず、私は履歴書を作らされることになりました。
と言っても大したものではありません。名前、住所、生まれた土地、身分などを言い、ニニに記入してもらうだけ。なんだか雑用係をさせてしまって申し訳ないです。
まもなく作業が終わり、それを国王様に提出すれば私もこの世界の住民として認められたのだそうです。よくよく考えてみればすでにこの世界にかなりの日数滞在していたのにまだ身分証を持っていなかったことが不思議ですけどね。
「お疲れ様でございます聖女様。後は学園についてのルールをまとめた書類をお持ちいたしましたので、お部屋でゆっくりお読みくださいまし。本来であればわたしがお教えして差し上げたいのですが、わたし、平民ですから学園に通ったことがございませんので」
「はい、わかりました。本当に何から何までありがとうございます。これからしばらくニニと一緒にいられないのは心細いですけど、私、頑張りますね」
「どうぞ頑張ってくださいませ」
そう言って静かに部屋を出て行ったニニを見送った後私は、彼女に手渡されたやたらに分厚い本――王立学園のルールブックに目を落とします。
しかし、そこにびっしりと並んだ文字らしきものが全く読めないことに気づいたのは、それからすぐのことでした。
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