34:拒否権はない
ニニが部屋を出て行った後、私はうんうん唸りながら悩みに悩みまくりました。
王立学園への入学。なんとか公爵だか侯爵の打診と言ってましたよね。もちろん受けた方がいいのでしょうけど……。
「せっかく作ったばかりのお風呂の癒しを捨てるなんて、絶対に嫌です!」
お風呂はレーナ様が大層気に入ったようで、これから徐々に広められる予定だそうですが、まだ多くのお風呂は泥水同然とのこと。
この王城から離れればお風呂に入りたくとも泥水に浸からなければなりません。それを考えるとどうにも行く気がしませんでした。
「勉強なら家庭教師みたいな人をつけてもらえないものでしょうか……。それにここを離れることになったら」
一人きりになってしまいますもの。
レーナ様は私と同じくらいの背丈のくせに十歳と、まだ王立学園に入学する年頃ではないらしいのです。つまり私が入学してしまえば、彼女と離れ離れにならざるを得ません。
もちろんニニだってそうです。レーナ様もニニも傍にいてくれなくなってしまったら、私はこの世界で生きていける気がしませんでした。
打診してくれた公爵だか侯爵様には悪いですが、ここはとりあえずお断りしましょう。悩んだ末にそう決断し、私はその旨を伝えるべく国王様に会いに行きました。
◆◇◆◇◆◇◆◇◆
…………しかしそんな私の考えはあまりにも甘すぎたようで。
「聖女よ。悪いがそなたに拒否権はない。これは王命だ。王立学園に通い、学ぶこと。そなたには非常に申し訳ないが、これも聖女の務め。どうかわかってほしい」
国王様にそう言われ、私の意思はあっさり否定されてしまったのです。
もちろんわかっていますよ? 私が名ばかりの聖女で、意見が尊重されないことくらい。でもこれは少し酷すぎると思いました。
「なんとかならないんですか。私、ここから離れたくありません」
「光の騎士に言われたろう。学園に通う意味は、勉学だけではない。交流を持つことが大切なのだ。それにすでに、ジュラー侯爵との交渉は成立している。今すら反故にすることもできんのでな」
抗議してみたものの、どうやらもう決定事項のようです。
私は改めて実感しました。この世界での私の扱いなど、『聖女』という道具でしかないということを。
レーナ様と親しく過ごしているうちに忘れそうになっていましたが、この王国は私を勝手に呼び出した――本当のことを言ってしまえば誘拐した上に、聖女という役目を押し付けたのです。そんな人間たちに私が何を言っても無駄というものでしょう。
国王様の隣にいた王妃様がすまなさそうに私を見つめて来ますが、だからと言って何かフォローを入れてくれるわけでもなく、私は嫌でも頷くしかありませんでした。
「わかり、ました。もう決まってしまったことなら仕方ないですよね……。出発はいつですか?」
「できれば今すぐにでもだな。だがまあ多少の準備は必要であろうし、明日あたりが妥当だろう」
明日ですか……。あまりにも急すぎる話に驚きつつ、反論を許されていない私は、思わず歯を食いしばりました。
事前にわかっていたことならもっと早くに知らせてくれれば良かったのに。おそらく私を言いくるめるため伏せていたのだろうと思うと腹が立ちましたが、もはや怒っても仕方がないのです。私が何を言っても無駄なのですから。
「心配するでない。学園にはたくさんの子息子女が通っておる。すぐに友好関係を築くこともできよう」
「ごめんなさいね。異世界の平民であるあなたには厳しい日々になるかも知れないけれど、あなたの楽しい学園生活を祈っていますわ」
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