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32:泣き虫聖女と王女様のくだらない勝負

「大体貴女は文句が多すぎなのよ。わたくしへの敬いが足りていないわ!」


「それはそっちこそですっ! 気遣いってものができないんですか? 私、傲岸不遜な方は嫌いなんです」


「なんですって!? わたくしがお淑やかではないというのね。そうなのね! 貴女はわたくしの家庭教師じゃないのよ! そんな口ばかり利いていたら無礼討ちするわよ!?」


「じゃあ私は聖女を辞めます!」


「それは無理な相談よっ」


 裸事件のショックでまだ涙が止まらない私に、王女様が次々と罵声を浴びせて来ます。

 彼女のことを慣れれば扱いやすいなんて思った私が間違いでした。彼女は私の手に負えるような代物ではありません……。

 せめてそっとしておいてほしいのにと思いつつ私の部屋で――もちろん王女様が勝手に乗り込んで来ているのです――つまらない喧嘩をしていると、彼女がさらにこんなことを言い出しました。


「わかったわ。わたくし、今お風呂に入ってとても機嫌がいいの。だから貴女の不敬、今は全て許してやりましょう。その代わりわたくしと勝負するのよ!」


「勝負って何です……?」


「決まっているじゃない。わたくしが勝ったら『裸の聖女』、貴女はわたくしの下僕となりなさい。わたくしが負けることなどあり得ないけど、万が一そんなことがあれば、あなたの望み、何でも叶えてやるわ!」


 ――また何か始める気ですか。

 私は呆れて王女様を見ましたが、どうやら彼女は本気のようです。身長が同じくらいなので忘れそうになりますが彼女、まだ十歳なのですよね。子供相手に「馬鹿らしい」と一蹴するのもなんだか気が咎め、私は渋々頷きました。


「何でも叶えてくださるんですね?」


「……そうよ。まさかこのわたくしに勝てるとでも?」


「勝負って、どんな勝負なんです?」


 途端に王女様は黙り込んでしまいました。案の定、内容は何も考えていなかったようですね。


「ならこうしましょう。実は私の地元に、いい勝負の方法があるんです」



 ……というわけで、私と王女様は追いかけっこをすることになりました。

 小学生の頃によくやった懐かしの遊び。高校生になって追いかけっこをするなんて少し恥ずかしくもありますが、ここは異世界なので笑われる心配はありません。


「制限時間は夕食ができるまで。逃げていい場所は王城内ならどこでもとしましょう」


「……ふん。なかなかに面白そうな遊びじゃないの。では早速やらせていただくわ。その鬼とやらはわたくしで構わないよね?」


「いいえダメです。歳上のお姉さんである私の方が鬼です」


 ルールを知っているも提案したのも私ですしね。

 私がそう言うと、王女様は悔しそうにしながらも認めてくれました。


「仕方ないわね、わたくしは鬼であろうとなかろうと勝ってみせるわ。いくら貴女の世界の遊びだからと言って、わたくしに勝てるだなんて思い上がらないことね。絶対にぎゃふんと言わせてやるんだから」


 王女様はエメラルド色の瞳に敵意を漲らせ、私の方を睨んで来ます。私は涙を拭い、できるだけ不敵に見えるように笑みを浮かべました。


「そちらこそ聖女を侮らないことです。私、強いんですよ?」


 こうして、私と王女様のくだらない勝負が始まったのです。



◆◇◆◇◆◇◆◇◆



 …………そして数分後、私は、追いかけっこを選んだことを非常に後悔していました。


「ふふっ、どうよわたくしの時魔法の効果は!」


 勝ち誇った笑みを浮かべる王女様。一方の私は体を固められて動けなくされていました。

 ――時間停止。この世界で数えられるほどしかいない時魔法使いである王女様の力で、私の体は時間から切り離されて停止させられています。


 最初に『魔法は禁ずる』とでもルールを付け足しておくべきでした。まさかこんな形で動きを封じられるとは思ってもみず、こんな失態を犯してしまったのです。しかも追いかけっこが始まって五秒もせずにこの有様なのですから情けないです。

 でも文句を言うこともできません。心臓すら止まってしまっていて、この恐ろしさと言ったらありませんでした。


「さあ『裸の聖女』。さっさと降参なさい」


 ――と言われましても、声が出せないので降参すらできないんですが。


 一応制限時間は夕食までと決めていますが、それにしたってたっぷり半時間ほどあります。その間中固められ続けていてはたまったものではありません。

 私の聖魔法で対抗できるでしょうか。先ほど聖水に入ったおかげで私の魔力はかなり回復し、高まっています。今ならなんとかやれるような気がしました。


「――――」


 無言で聖魔法を念じます。

 努力のおかげで無詠唱でもある程度使えるようになっており、全身からパァッと浄化の光が溢れ出します。そしてしばらくすると私の体を覆っていた時魔法の効果が消え、動けるようになっていました。


「な、なんですって!? わたくしの時魔法が破られるだなんて……」


「はぁ、はぁ……。言ったでしょう。聖女を侮らない、ことです……」


 笑うのは今度は私の番です。

 ただし、かなり怖かったので未だに震えている上、一発の魔法だけで体力を想像以上に消耗してしまいましたが。


 フラフラになりながらも私は王女様に追いすがります。慌てて逃げ出したところを見れば、どうやら彼女の中にももう一度魔法を使うほどの力が残っていないように見えました。

 追いかけっこの再開です。


「に、逃がしませんよ……!」


「いい気にならないで! そんな千鳥足でわたくしに勝てると思っているの?」


 私の聖魔法は攻撃には向いていません。なのでただひたすらに走るのみです。

 でも確かに王女様の言う通り、聖魔法を使ってしまった私では王女様に敵いそうもありません。重たそうなドレスを着ている割には王女様の足は速いのです。これは厳しい。

 私の名誉のためにもなんとかこの追いかけっこには勝たなければならず、私は必死で思考を巡らせます。


 ――そしてふと、いい案を閃きました。

 できるかどうかわからない手ですが、やってみるしかありません。


「『裸の聖女』などわたくしの足元にも及ばないわ!」


「それはどうでしょう、ねっ」


 聖魔法は攻撃はできません。が、聖なる光で目眩しくらいはできるのです。

 ニニとの戦いの時に使った最高級の輝きの聖魔法を、私は躊躇いもなく放ちました。その瞬間視界全体が真っ白に染まります。


「わっ。す、スロー!」


 王女様が何やら私に魔法をかけて来たようですが、聖魔法をめちゃくちゃに溢れさせた今の私には効きません。

 そのまま彼女がいるであろう場所に迫り、細い腕をグッと掴みます。そして私は叫びました。


「捕まえ、ました!」


 その時間近で目にした――周囲が眩しくてはっきりは見えなかったのが残念ですが――王女様の慌てた顔はかなりの見ものでした。



◆◇◆◇◆◇◆◇◆



 かくして意外にも私の勝利という形で勝負は呆気なく幕を下ろしました。

 ……その後、またもや魔力切れを起こしてしまい、駆けつけたニニたち騎士団にお叱りを受けたのは言うまでもないことです。

 長々と王城編をやってしまいましたが、次から少しずつ話が動き出す予定です〜。


 面白い! 続きを読みたい! など思っていただけましたら、ブックマークや評価をしてくださると作者がとっても喜びます。

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