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31:裸事件再び!?

 喋り方が奇抜でどうにも馴染めない宮廷料理人さんですが、その腕は本人の言う通り確かでした。


 私のすぐ目の前でボワッとものすごい勢いで火を両手に灯して見せたのです。それだけでも驚きだというのに、赤や青、白に黄色とどんな色の炎でも出して見せるのですからそのすごさと言ったらありません。

 そうやって魔法で生み出した炎を薪代わりの木片に焚べ、火力をますます上げていきます。そして浴槽に聖水を溜め、熱すると……。


「熱っ!?」


 思わず叫んでしまうほど熱々なお風呂が出来上がっていました。


「すごいでしょう素晴らしいでしょう最高でしょう! このワタシの見事な炎が途中で消えるなんてことは決してありません! ワタシが常に完全に操っておりますので暴走する心配もなし! 我ながら天才ですなぁ!」


「……自画自賛は置いておくとして、これは確かになかなかね。平民が入ると聞く泥水とは大違いだわ。……よく考えればこれを広めたら王家への信頼はさらに大きくなるわね。でかしたわ料理人! これでこの国は安泰よ!」


 宮廷料理人さんも王女様もなんか思考がぶっ飛んでいますけど、そんなことはどうでもいいのです。

 とにかく大事なのはこれでやっと念願のお風呂に入れるということ! 異世界召喚後初のお風呂に胸が躍りました。


「早速入りましょう!」


「ちょ、ちょっと待ちなさいっ。先ほど貴女にきちんとついて行ってやったのだから、わたくしが一番風呂のはずでしょう」


「このお風呂にはまだ誰も入っていないんですよ? もしも聖水が人肌に合わなかったりしたら大変じゃないですか。なのでやはり、私が確認のために一番最初に入ることにしました。これは王女様を気遣ってのことです」


「絶対嘘よ! 『裸の聖女』、貴女、最高に意地の悪い奴ね! 見損なったわ!」


 ギャアギャア喚いて憤慨する王女様ですが、このお風呂の安全性が確かではないのは本当のことですから仕方ありません。まあ、一番風呂に入りたいのが本音なんですけどね。

 ともかくお先に失礼して私から入ることになりました。


 私は浴室――と言っても王城の空き部屋の一つを借りただけなのですが――に入り、白いビキニを脱ぎ捨てて、久々のお風呂へと足を踏み入れたのです。



◆◇◆◇◆◇◆◇◆



「ああ、やっぱりお風呂は癒されます〜」


 キラキラと輝く聖水の中に身を沈め、私は入浴を存分に楽しんでいました。

 この聖水が光を放っているのは、聖魔法のおかげ。元々泥などで真っ黒に濁っていた水に軽く浄化の魔法をかけただけでこんな特別な水になってしまったのですから驚きです。


 従って薬湯的な効果もあるらしく、聖女修行の後遺症が残っていた全身がスゥッと軽くなったような気がします。聖水すごい。

 しかし、紫色の入浴剤の色が聖水の輝きによってかき消されてしまうかと思いきや、きちんと入浴剤も存在を主張していて光を薄紫に染め上げていました。バスオイルの優雅な香りもあって、なんとも幻想的なお風呂です。


「これに入り続けられるなら元の世界に帰らないでもいいかも……いやいやいけませんいけません、家族をこれ以上心配させるわけにはいかないんですから」


 今頃両親や弟は、どうしているんでしょうか。

 私を必死で探してくれているかも知れないと想像し、少し胸が痛くなりました。いくら探したって私はあの世界のどこにもいないのです。

 早く戻らなければ。異世界生活に馴染んでしまって薄れかけていた決意を改め、背筋を正した、ちょうどその時でした――。


「『裸の聖女』! 遅いわよ、とっととわたくしに譲りなさい!」


「ひゃう!?」


 お風呂にずかずかと無遠慮な邪魔者(王女様)が入って来たのは。



◆◇◆◇◆◇◆◇◆



「うぅ、セクハラですぅ! 私、もうお嫁に行けません……!」


「ギャーギャーピーピーうるさいわね。侍女にだって裸を晒してたでしょうが。いい加減機嫌を直しなさいよ」


「メイドさんにだって裸は見せてません! 体は自分で拭いてましたから! 王女様、乙女心をズタズタにしておいてその物言いはひどいです! 本当にただじゃおきませんからね!」


 私は王女様へ向かって怒鳴っていました。本当なら不敬罪とやらで捕まるらしいですが、この際そんなのは知ったことじゃありません。

 すっかりのリラックスタイムを邪魔されたんです。最低ですよ……!


 王女様が突然浴室へ乱入して来て私は大混乱、その間にしげしげと裸を凝視されてしまいました。さらに、「チビなのに意外と胸が大きいじゃないの」だなんていう完全セクハラ発言までされたんです。今時ラノベでもありえないこの展開。いくら同性とはいえ許せません。

 どうして異世界に来てからずっとこんなに裸ばかり見られなきゃいけないんですか。異世界の神様は私の裸がそんなにお好きなんでしょうか。


 ショックを受けて部屋で泣き伏せる私に、王女様は謝るどころか「あのお風呂とやらはなかなか良かったわ。でかしたわね『裸の聖女』!」などと言って来ます。彼女の辞書には反省という言葉はありません。

 まるで一気に天国から地獄に落ちたかのような最悪の気分でした。


 はぁ……神様がいたら本気で恨みたいです……。




 ――こうして異世界初の入浴式は、再びの裸事件を前にして台無しにされたのでした。

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