26:王妃様の傷を癒してみせます
「母様、『裸の聖女』を連れて来たわ」
王女様に引っ張られやって来たのは王妃様のお部屋。
豪華な金銀の装飾に彩られた扉の向こうに王女様が呼びかけると、すぐに扉が開いて王妃様が出て来ました。
王妃様は相変わらずの病的な色白さで、あの魔獣に噛まれた傷が未だ治っていないことが一目でわかりました。ニニの話によると魔獣の毒はその者の生気を奪うのだそうです。だから体温も氷のように冷え込むのだとか。
こうしてまじまじと見ていると、生きているのが不思議なくらいに生気が感じられないのがわかりました。
「――レーナ。ニニに先ほど聖女様が目覚めたと聞きましたわ。お疲れの聖女様をここに連れて来るだなんていけないではないですか」
「ふ、ふん。こんなへっぽこ聖女に気遣う必要なんてないわ、母様」
「へっぽこなどと言うものではありません」
「むぅ」
出会って早速叱られた王女様は頬を膨らませてわかりやすくむくれてしまいました。こうしているとかなり幼い子供のようで可愛らしく見えます。……と、思っていたら睨まれました。怖い怖い。
「レーナは本当に仕方のない子なんですから。聖女様、娘が申し訳ございませんわ」
「は、はい。私は別に大丈夫です。一応」
まだ息切れはしていますが。
そんな私は当然のように心配されることはなく、ふくれっ面の王女様が言いました。
「『裸の聖女』。『光の騎士』に認められたんでしょう? さあ、早く母様の傷を治して差し上げなさい」
「はい。王妃様、できるかはわかりませんが私にもう一度やらせてください」
異世界召喚された翌日のあの失態を取り返そうと心に決めて、私は王妃様に頭を下げました。
王妃様は「大丈夫ですの?」と不安げでしたが、今にも死んでしまいそうな王妃様を見れば私も放っておく気にはなれません。力一杯頷いて見せました。
「わかりましたわ。聖女様の優しさに心から感謝いたします。ではどうぞわたくしのお部屋へ入っていらして」
◆◇◆◇◆◇◆◇◆
王妃様のお部屋は部屋一つで広めのリビングくらいはあると思えるほどの立派な部屋でした。今更ですが王族凄すぎます。しかも寝室と個室が別々にあるというのですからさらに贅沢ですね。あ、ちなみに今招かれているお部屋は個室の方なんだそう。寝室は国王様との相部屋らしいです。
……と、そんなことはともかく、私は早速王妃様の治療を始めることにしました。
ドレスの袖をたくし上げてもらうと、以前と変わらぬ、いいえ、もっとひどく黒ずんだ傷跡が剥き出しになります。軽く手で触れると、氷を軽く通り越しているのではないかと思えるほどに冷え切っています。
――これを今度こそ治してみせる。それが聖女としての役目です。
私は聖女認定試験――勝手にそう呼んでいます――の第二の試練の時を思い出しながら、深く深呼吸をして、聖魔法の力を高めます。
そして白い光を全身から放出しました。
「ヒール」
すると部屋中に温かな光が広がり、あっという間に満ちていきます。
王女様が「ひぃっ」と悲鳴を上げているのが聞こえましたが、これは危険な光ではないので大丈夫ですよ、と笑いかけ、さらに王妃様への癒しの力を強くします。
――前とは格段な違いを手応えとして感じました。それどころか、認定試験の時よりも魔法がより使いやすくなっている気がします。もしかすると体力切れで倒れる度に体が慣れてくるのかも知れませんね。
そして光が徐々に収まって来た頃には、先ほどまでは確かに王妃様の二の腕にあり、存在を主張していたはずの黒いアザのような魔獣の噛み跡はすっかり消えてしまっていたのでした。
「すごいですわ」
王妃様が驚いた顔でそう言いました。見ると、あれほど青白かった彼女の顔色が少し良くなったような気がします。聖魔法、確かにすごい。
「はぁ、はぁっ……。そう、ですか。ありがとう、ございます……」
いくら慣れて来たとはいえやはり魔法を行使するにはそれなりの体力がいるらしく、ますます息切れしてしまいます。
でも王妃様が笑顔を見せてくれたのでそれで良しとしましょう。これであの時のリベンジはできたはずですから。
「母様! 本当に治ったの!?」
「ええレーナ。聖女様はやはり予言の通りの素晴らしいお方でしたわ」
「……。とにかく母様の病気が治って良かったわ!」
それから王妃様と王女様は、私のことなどそっちのけで抱き合い歓喜していました。
ああ……仲の良い親娘なのですね。何はともあれ、私がお役に立てたようで本当に良かったです。
異世界で課された私への第一ミッションはこうして無事にクリアしたのでした。
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