238:炎の海に染まる街② ――ニニ視点――
「御覚悟――!!!」
光魔法を剣に纏わせて、『烈火の魔女』を滅すべく斬りつけます。
見た目は聖女様と変わらぬ、年端のいかぬ少女。ですが王城を燃え上がらせるほどの魔法の使い手でございますから、簡単に防がれてしまいます。
――驚きました。
わたしは元はただの騎士の娘ですが、鍛錬を積み重ねたことで、最強の女騎士などと言われるまでになった身。手合わせではかなりお強い王太子殿下をも圧倒してしまった実績がございますのに。
魔女の強さは、底知れないものなのかも知れません。
わざわざ騙すような手を選んでまで奇襲を仕掛けてくるくらいですから、力に自信がない相手だと思っていたのですが……単に意地が悪い方だというだけだったのでございましょうか。
決して油断していたわけではございませんが、わたしは『烈火の魔女』を侮っていたと大きく反省いたしました。
魔女というのがどのような存在なのか、わたしはあまり存じません。
『魔女のカケラ』と呼ばれるものを持って生まれてしまった者は禁忌とされて追放される掟があるということくらい。彼ら彼女らに罪はありませんが、過去に大きな災厄をもたらして以来、この世に在ってはならないものとされたと聞いたことがございます。
きっと『烈火の魔女』も、そのような境遇を持つ一人なのでしょう。……どうして聖女様を狙いに来たのかは、想像もつきませんが。
ちらりと横目で見やれば、ちょうど王太子殿下に伴われて聖女様が走り出すところでした。
背中を刺されたばかりだというのに、なんとも健気な姿に、胸が痛んでしまいます。
「へぇ、敵は騎士サマに任せて逃げちゃうんだ? 弱っちいんだね、聖女って!」
だというのに『烈火の魔女』に愉しげに嘲笑われ、わたしが我を忘れて斬りかかったのも仕方のないこと。
白色の髪がちりちりと焼かれましたが、構うものですか。
ですがやはり剣は『烈火の魔女』に届く寸手で弾かれ、巨大な火の粉を浴びせられただけになりました。
「聖女様は心優しく、いざという時にはお強い御方でございます。いずれ世界を救うであろうあの方を侮辱するのは、他のどなたが許そうともわたしだけは許容して差し上げられません」
「その心優しさで簡単に罠に嵌っちゃうなんて滑稽だと思わない? くすくす」
「笑っていられるのも今のうちでございます」
護衛のわたしが聖女様をお守りしなければならなかったのに、敵に遅れをとってしまったのです。
その失態を取り返すことができる功績は『烈火の魔女』討伐のみでございます。
「まさか騎士サマがあたしを倒すつもりなんだ。すごいよ、そんなに自信があるなんて。――でもダメだよ」
ぶわりとドレスの裾が膨らみ、一気に魔力が解放されます。
それを感じ取ったわたしは『烈火の魔女』の即時制圧を試みましたが……一泊遅かったようで。
『烈火の魔女』の足元に揺らめく炎が、周囲を侵食したのは、ほんの一瞬の出来事でございました。
「――っ!!」
今までの比にならない灼熱。王都の美しい街並みが一瞬にして炎に呑まれ、視界が真っ赤に染め上げられました。
津波のように押し寄せる炎に、わたしは思わず後退りました。
咄嗟に炎の刃で背中を刺された聖女様の苦しみを思い浮かべなければ、全身が焼け焦げる感覚に小さく悲鳴を上げていたことでしょう。死を覚悟させられるほどの業火でございましたから。
どうにか堪えたものの、一秒ごとに気が狂うほどの熱を感じているのは確かなこと。
この熱から脱する前に、どうにか魔女に届かなければいけません。
彼女の纏う炎の盾を突き破る方法。思いつくのは、ただ一つでございます。
まるで騎士らしい方法ではございませんが、光魔法を込めた剣を宙高く放り投げました。
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