237:炎の海に染まる街①
ニニの全力の一斬り。
それを、炎で形作った盾によって受け止めた『烈火の魔女』を横目に見ていると、エムリオ様がぎゅっと私の腕を掴んできました。
「ヒジリ、立てる?」
「……なんとか」
「ニニから話は聞いた。王城を目指そう。ボクがおぶっていくからさ」
「両腕は埋まってるからごめんね」と、セルをお姫様抱っこしたままの彼に優しく微笑まれます。
全てを預けたくなるようなイケメンぶり。ですが――。
「えっ、いえっ、お気遣いいただかなくても結構です……!」
エムリオ様と密着した状態になるなんて、とてもじゃありませんが正気を保てる気がしません。
こんな非常時に何を言っているんだという話とはいえ、二次元から飛び出してきたような美形ですよ?? 誰が何も思わずにいられるでしょう。
だから、ぐらぐらする頭とふらつく足のままでも、私は私の力で進むことにしたのです。
エムリオ様にはひどく心配されたものの、四の五の言っている時間はありません。
「今だ」
「行きましょう!」
息を揃えて走り出す私とエムリオ様。
背後でニニと攻防を繰り広げる『烈火の魔女』の声が届きました。
「へぇ、敵は騎士サマに任せて逃げちゃうんだ? 弱っちいんだね、聖女って!」
……どうせ私は弱っちいです。うっかり敵を信用して、背中を刺される馬鹿でもあります。
だからこそ魔女の言葉に答えを返したりはしませんでした。返事をしたら、ニニに任せた意味が、彼女を残して行こうと決めた決意が、揺らいでしまう気がしましたから。
◆◇◆◇◆◇◆◇◆
しばらく走りましたが、『烈火の魔女』はニニに足止めされて追いついてくる気配はありません。
『烈火の魔女』がいないということは王城は比較的安全でしょうし、これで安心……と思いたいところですが、そうもいかないようでした。
だって。
城から燃え移ったのであろう分と、先ほど魔女が放出していた火炎。
それらが合わさり、どこまでも広がって、王都の業火で染め上げていました。その様相はまさに炎の海です。
しかも火の手は刻一刻と増し、立ち並ぶ建物の屋根がボロボロと剥がれ落ち始めました。
「エムリオ様、街が……!」
「逃げ遅れた人がいないことを祈るしかない。――もしも魔女との戦いが終わったら、復興にどれだけの歳月を要するだろうね」
「この戦いが終わったら〜的なのは死亡フラグなのでやめてください!!」
その間も王都の崩壊は止まず、頭を抱えてひたすら駆け抜けることになりました。
先ほどの自分の治療でかなりの聖魔法を使ってしまったらしく、せっかく回復した分が消え失せたので、結界を張る力すら温存しなければならないというハードモードです。
ニニが『烈火の魔女』を討伐してくれれば魔女討伐分の魔力は必要なくなるのですが、最強の騎士とはいえ、都を落とそうとしている魔女に単身で敵うものなのかがわからない以上、迂闊な油断もできませんしね。
でも、そもそも王都襲撃を受けたのは私が王都を訪れたからでしょうから、文句を言う資格なんてあるわけもないのでした。
本当に、どうして次から次へとこのようなことに巻き込まれなければいけないのか。
私はただ家に帰りたい――ただそれだけなのに。
「やっぱり、魔女の鼻っ柱は私の手で折りたいかも知れません」
被害を被った王都の方々の怒りと、私自身の降りかかる理不尽に対する怒りを乗せて殴ってやりたいものです。
あんなに可愛らしい見た目の少女だからと言って手加減したりはしません。
もちろん、それもこれもレーナ様や王城に取り残されているであろう人々を助け出してからの話ですが。
目前に迫る城門までの道のりが、やけに長く感じられます。私は倒れそうになりながらも必死で足を動かし続けました。
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