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236:『烈火の魔女』

 ニニがわたしに駆け寄り、「聖女様!」と何度も何度も呼びかけてくれます。

 朦朧としかける意識をギリギリのところで現実に引き戻されながら私は、底抜けに明るい魔女の声を聞き続けました。


「さすがに鈍い聖女サマもわかってくれたかな? そう、あたしは『烈火の魔女』マディー。聖女サマと王子サマの身柄をもらいにきたんだよ」


「キミのことはどうでもいい。よくもヒジリを傷つけてくれたな」


「本当はさっくりと不意打ちで終わらせるつもりだったんだけどねー。侮ってたわけじゃないけど聖女の生命力がこんなに強いって知ってたら手を変えたのに。失敗失敗!」


 前に出て、今まで聞いたことがないくらい冷たく言い放つエムリオ様に向け、「苦しめちゃったみたいでごめんね?」などと宣う少女――否、『烈火の魔女』。

 彼女は炎で形作ったのだろう剣らしきものを三本引っ提げています。


 そのうちの一本で私の背を刺したのでしょう。

 引き裂かれた内臓を治癒魔法で回復しても、刺された時の熱は引きません。食道を逆流する血で咳き込みつつ、あまりの熱さと痛みに立ち上がることが叶わず、私は『烈火の魔女』に見下ろされるままになりました。


「これで一人ずつ首を刎ねられるか、業火に炙られて死ぬか、選んでいいよ」


「どちらも断る。ボクらはこのようなところで死ぬわけにはいかないんでね。……キミがここにいるということは王城は襲撃した後ということかな?」


「それに答えてあげる義理はないよ。聖女サマはともかく、王子サマと騎士サマは多少戦えるみたいに見えるけど、火に焼かれたらそれでおしまい。つまりこの王都にいるみんなみーんな、あたしに命を握られてるんだよ」


 剣を手にした『烈火の魔女』の足元が白く染まり、かと思えば赤く燃え上がって、じわりじわりと周囲に熱が立ち込めていきます。

 それと同時にグンと気温が上昇。まるで真夏のような暑さをもたらしたその炎は、その火力は共闘していた時の比になりません。

 彼女ならその灼熱で何もかもを焼き払ってしまうことは可能なのだと認めざるを得ませんでした。


「聖女様」


 うずくまる私の耳元へ、長身を折りたたむようにして屈んだニニが囁きます。


「わたしが囮となり、魔女を引きつけます。ですのでどうぞ王太子殿下とお逃げください」


「……っ、でも」


「タレンティド公爵令嬢が昏倒なさり、聖女様も倒れた現状、戦闘可能なのはわたしと王太子殿下のみ。魔女の狙いが『王族の全員処刑』である以上、王太子殿下に近づかせるわけには参りません。

 それに、最強の女騎士などと呼ばれているわたしが傍にありながら、この体たらくなのです。聖女様を傷つけさせてしまった償いは、わたしの手で果たしたいのでございます」


 ニニが強いのは知っています。何せ、私の護衛兼お師匠様ですから。

 けれども『烈火の魔女』に対してその強さが通用するものなのか、私にはわかりません。だって今まで一度も魔女なんて存在と遭遇したことがなかったのですから。


「このままでは、『烈火の魔女』の好きにされる未来は見え透いております。そうなれば本末転倒、城でお待ちの王女殿下もお救いできません。どうか、わたしを信じてはいただけませんでしょうか」


 ニニの灰色の瞳に、まっすぐ射抜かれて。

 首を横に振ることなんてできませんでした。そもそも頭がぐらぐらするので、首を振っただけでも気絶してしまいそうなのですが。


「わかり、ました」


 喉に残った血を吐き切って、どうにかそれだけ口にします。

 それとニニが駆け出したのはほぼ同時でした。


 ちょうどエムリオ様と『烈火の魔女』のやり取りが膠着状態となり、魔女の方から実力行使に出るべく炎をたぎらせていたところであるらしく、絶好のタイミングだったようです。

 「へぇ? 無能騎士サマ、どうしたの?」と首を傾げる『烈火の魔女』がほんの少し殺気を引っ込めた間に、エムリオ様とニニの位置が入れ替わります。


「貴殿の相手は王太子殿下ではございません。我が主、聖女サオトメ・ヒジリ様の玉の肌を裂き、血を流させた滞在人たる貴殿は、わたしが処分を下します」


 あたりに溢れ出す光魔法。魔法を纏った剣が『烈火の魔女』へと振りかぶられます。


「御覚悟――!!!」

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