234:ゴスロリドレスの少女
他連載が一段落ついたので五ヶ月?ぶりの更新再開です。
よろしくお願いします!!
セルの治療に一段落が着いた頃。
エムリオ様が彼女をお姫様抱っこし、そろそろ歩みを再開しようということになりました。
王城到着前に一人欠けてしまったようなものですから、不安は尽きません。
セルのおかげで少しは休ませてもらったものの私の疲労感も消えてはいませんしね。
でも進まなければならないものは進まなければならないのです。
そうして立ち上がった……その時。
背後から、混乱に呑まれる現在の王都には似合わない、可愛らしい声が聞こえてきました。
「やっほー、お姉さんたち」
「……!?」
気安い調子でしたが、私のことを『お姉さん』なんて呼ぶ人物は、仲間の中にはいません。
驚いて振り返ると、そこには一人の少女が立っていました。
ひらひらとしたレースがあしらわれた、黒のゴスロリドレスが目に飛び込んできます。
この世界に来て以来、上品なドレスはたくさん目にしてきた私ですがゴスロリドレスを見るのは初めてでした。可愛らしいですけど動くのには不向きというか、平民にしてはかなり裕福な家の子なのでしょう。
髪は鮮やかなピンクのツインテール。瞳は光り輝くルビー色。顔立ちも整っていて、まるでお人形のような美少女です。
背丈は私よりやや高いくらいなもので、この世界基準で言うとかなり小柄な方に違いありません。
こんなところで他人と出会すとは思いませんでした。逃げ遅れたのでしょうか。
王都に足を踏み入れるのは二度目ですが、その中でこのような少女と出会ったことはないはず。
おそらくこれが初対面でしょう。
「くすくす。一人気絶しちゃってるけど大丈夫? あたしが運ぶの手伝おうか?」
「あなたは……?」
「家族と逸れて、迷子になっちゃってさ。魔獣はうろついているし助けてもらえないしで困ってたんだよ」
本当に困っていたのかと疑いたくなるほど、底抜けに明るい声。
でも家族と逸れたと聞いては、無視もできません。
「それは、その、大変でしたね」
「ねえお姉さんたち、さっきの戦い見てたけどすっごく強いんでしょ。良かったらだけど人助けすると思ってあたしを連れてってくれない?」
「えっ」
「お姉さんたちにはお姉さんたちの目的があるだろうから、ここから引き返せなんて言わないよ。ただ連れてってくれればいいだけ。あたし、火魔法が使えるんだ。だからちょっとは力になれると思うんだよ」
話しながら、ぽわんと手のひらに火を生じさせる少女。
攻撃魔法にはならないであろう火力ではありましたが、火の玉を一つから二つ、三つ、四つと増やしたり変形させたりと披露して見せた彼女の魔法の手腕には驚きを禁じ得ません。
でも、火魔法が役立つかどうかは怪しいところです。
ただでさえ王城が燃えているというのですから、火に油……ではなく火に火を注ぐようなことになってしまうかも知れないですし。
エムリオ様が警戒すべきか受け入れるべきかと視線を投げかけきますが、どう応えるべきかはわかりませんでした。
だって、今から臨むのは魔女との戦いです。無関係な少女を巻き込むわけにはいかない。とはいえ、そうすれば彼女をここに置いて行くことになってしまう。
だから。
「私は聖女です。聖女の早乙女聖と申します。
不肖の身ですが結界を張ることくらいはできますので、絶対に安全とは言い切れませんが、私があなたを護りましょう」
聖女として、正しい思える判断を取ることを選びました。
「聖女様、本当によろしいのでございますか?」
「わかりません。本当なら、ニニに安全な場所に送り届けてもらいたいと思うんですけど」
「聖女様と王太子殿下のみで城に向かうのはあまりに危険でございますね。……聖女様のご判断に従わせていただきます」
エムリオ様も「仕方ないね。ヒジリはお人好しだから」とやれやれとばかりに同意してくれました。
「お姉さんたち、ありがと! 嬉しい!!」
少女はにこにこと笑いながら、私の手を取ります。
こうして、少女が私たちの一行に加わることが決定したのでした。
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