228:出しゃばり聖女と気儘な令息
「王城が燃えてる……!?!?」
転がり込んできたエムリオ様の言葉を聞いて、私たちは驚愕せずにはいられません。
間違いなくあの魔女の仕業だとわかりました。『王都に魔物を放ったわ』と言っていたので、実行犯は魔物かも知れません。
王都への道中、ジュラー侯爵家の馬車を襲ったあのドラゴンもどきを筆頭に、火を吹く魔物はいるようですから。
今思えばあれも、魔女が私を殺すためにけしかけられたのでしょう。それに打ち勝ってしまったがために次の手段として丸ごと焼き払うことにした――この推測が正しければ、あまりにも魔女は悪質です。
「なんてこと! 王城にはレーナ殿下がいらっしゃいますのに……!」
「王城の消火、そしてレーナの安否を確認するためにも、ボクは王城に向かうつもりだ」
「こうしてはいられませんわね。エムリオ、アタクシも同行いたしますわ!」
レーナ様と親しいらしいセルは血相を変え、エムリオに頼み込んでいました。
しかし彼女は力のある騎士でも魔法使いでも何でもなく、ただの公爵令嬢。危険な場所に連れて行くのは躊躇われるのか、エムリオ様は言葉に詰まっているようです。
本当はセルを説得するべきでしょう。
安全性で言えば、ここに残っていた方がいいのは明らか。結界を張れば魔物が入ってくるようなこともなくなるはずです。
だからこれは単なる出しゃばりに過ぎません。
「――私も行きます」
「ヒジリ、でも」
「私は聖女。聖女になってしまった以上、死にかけているかも知れない王都の人たちから目を逸らして、ただ引きこもっているわけにはいかないじゃないですか。
聖魔法を使えば力になれるはずです。セルやエムリオ様をお守りすることだってできますよ」
「アタクシはヒジリに守られるほど貧弱じゃありませんわよ。でも、心強いのは確かですわ」
「……わかった。二人がそこまで言うなら」
不安そうでありながらも、エムリオ様は折れてくれました。
ナタリアさんもやれやれと肩をすくめながら、「わかりましたの」と認めてくれたようです。
これで王城行きは私、セル、エムリオ様が確定したわけですが……。
「アルデートさん、どうします?」
「そうだな。俺は王城組には入らないが、狭苦しいパーティー会場にいるつもりもない。パーティーも終わったことだし、外を散歩してくる」
なんとなくそう言われる気がしていたので、驚きはしませんでした。
「正気ですの!? 単身で赴くなど、命知らずにも程がありますわよ!」
「タレンティド公爵令嬢には言われたくない。それに俺は召喚魔法がある。いざという時は魔物でも何でも呼び出して手懐けるから大丈夫だ」
「勝手ですわね……!」
「じゃあ、俺は一足お先に行く。君たちも気をつけて行けよ」
そう言い残して、アルデートさんはエムリオ様が転がり込んできたところから出て行ってしまいました。
そして次は私たちの番です。
ナタリアさんが静かに微笑み、送り出してくれます。
「ヒジリ様、王太子殿下、タレンティド公爵令嬢。ご武運をお祈りしておりますの」
「ありがとうございます。……じゃあ、行きましょうか」
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