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226/239

226:降り注ぐ声

 アルデートさんと絡み合いながら舞踏する時間は、まるで夢のようなひとときでした。


 公衆の面前で踊る恥ずかしさ、周囲から向けられる視線。そういうことを気にする暇もないほど没頭してしまったのは、それほどまでにアルデートさんのリードが上手かったからに違いありません。きっとそうです。


 私のドレスとアルデートさんの足が絡み合い、ドレスがひらめいて、顔を寄せたり横抱きにされたり。ドキドキしっぱなしでしたが、最高に楽しかったのです。


 けれどもダンスタイムは長く続かず、気づけば曲が鳴り止んでいて私たちのダンスが終わりました。終わってしまいました。


「次でラストダンスだな。どうする?」


 アルデートさんの菫色の瞳に見つめられ、私はしばし沈黙します。


 元から一曲の約束です。女性から積極的に誘うのはあまり好ましいとされていないらしいと聞くので、ここで引いておくべきなのでしょう。

 しかしどうにも踊り足りません。もう少し、もう少しでいいからこの夢心地を味わっていたいと思ってしまっていました。


 悩んだのはほんの一瞬。ここまで来ればあとは同じです。

 そう思って口を開こうとした、その瞬間。



 それが聞こえたのは、突然のことでした。



『あーあーあー、聞こえてるかなー?』


 なんと形容すべきなのでしょう。

 無邪気な子供のような、それでいて年頃の少女のようにも、若い女性のようにも思える底抜けに明るい声が降り注いできたのです。


『よし、聞こえてるみたい。じゃあ早速始めようか!』


 それは肉声ではなく、どこかから放送されている風に聞こえます。

 私は驚いて天井を見上げましたが、当然ながらスピーカーらしきものはどこにも見当たりません。


 では一体どこから……と考えたところで、さらにその声はまるで楽しいことを話すかのように続けました。


『王都にお住まいの皆々様、改めましてこんにちは! あたしは『烈火の魔女』マディーだよ! 突然だけど、王都は占拠させてもらったよ』


 それまで賑やかだったパーティー会場が静寂に包まれるほどの、衝撃的な言葉を。



◆◇◆◇◆◇◆◇◆



 魔女。王都を占領。

 わけがわからず、私は固まってしまいます。


 もしかするとこれは何かのドッキリでしょうか。パーティーの余興的な?

 だって、そうでなければおかしいではありませんか。


 王都は結構広いのです。そんな簡単に占拠できるようなものであるはずがない。

 それなのに――。

 

『逃げ道はきっちり封鎖済み! 逃げ出そうとしても無駄死にするだけだからやめといた方がいいよ!』


 逃げ道を封鎖だとか、無駄死にだとか。ドッキリにしては恐ろしい内容を次々に口にするその放送は鳴り止むことも、「冗談でした〜!」と白状する気配もなく、続いていってしまいます。

 そしてそれまで朗々と喋っていた彼女は急に調子を変え、氷のように冷たい声で告げました。


『それと、魔物を放ったわ。食い殺されたくなければ、さっさとこちらの要求を飲みなさい。

 要求は三つ。一つ、即時降伏。二つ、王族の全員処刑。そして最重要の三つ目は、聖女の首を差し出し、王城の頂上に吊るすことよ』


「聖女の、首?」


 アルデートさんが呟き、私をまじまじと見ました。

 はい、聖女とは私のことですね。そんなのは私が一番わかっています。そして声の主は私の首を、つまり死を求めていると、そういうわけでした。


 ひどいドッキリもあったものです。仮にも崇められている聖女であるところの私を望むなんて。


 考えたのは国王様? それとも国のお役人さんでしょうか。

 もしもこんな悪趣味なものを余興にしようとした人物がいるならば、狂っているとしか思えません。


 ――だからこれはきっと、ダンスパーティーの余興でも何でもなく。


『まあすぐに決められることじゃないだろうし考えるのは自由だけど、その間に王都をボロボロにぶっ壊していくから覚悟してね! ってことでお知らせはここまでだよ! バイバーイ!』


 それ以降、声は聞こえなくなります。

 それまで水を打ったように静かだった人々は悲鳴を上げたり怒鳴り合ったりを始め、パーティー会場が一気に騒がしくなりました。


 依然として状況は全くの不明のままです。

 ただ、とんでもないことが始まってしまったという確信だけがありました。

 面白い! 続きを読みたい! など思っていただけましたら、ブックマークや評価をしてくださると作者がとっても喜びます。

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