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223:求婚されまくりなナタリアさんと、臆病な私

 ナタリアさんの姿が見えたのは、五曲目が始まろうという頃でした。


 暇に任せて……というか、私を誘ってくれるエムリオ様以外の男性を探して会場をぐるっと一周していたところ、妙な人集りを見つけて近寄ってみて、その中心がナタリアさんだと気づいたのです。


 美しい翠色のドレスを纏った彼女に、まるで付き従うかのように何人もの貴公子が彼女を取り囲んでいます。

 セルに負けず劣らずの人気っぷり。交友関係を作っておくという目的が大きいものの、年頃の男子であれば好みのタイプの令嬢と踊りたいでしょうから、派手好きはセルに、清楚好きはナタリアさんに群がるのかも知れません。


「声をかけようと思ってましたけど……これはさすがに憚られますね」


 しかもナタリアさんはただダンスの誘いをされているだけではありませんでした。

 彼女は年頃の貴族令嬢にしては珍しく、婚約者がいません。それ故に――。


 何らかの事情で婚約解消をした残り物(・・・)が群がってくるというわけです。


 一人の青年が彼女の前に進み出て、片膝をつきました。

 花を差し出し、彼が口にした言葉は距離が遠くて聞こえません。でも口の動きだけでわかります。


『結婚してはくださいませんか』


 もしも私が言われたら間違いなくドキリとしてしまうような、飾り気も何もない求婚です。

 それを受けたナタリアさんは、にっこり笑って。


 残念ながら読み取れませんでしたが、青年が踵を返したところを見るに、お断りの返事だったのでしょう。


 あれほどの美しさを持ちながら長年婚約者を作らないでいるのですから望み薄なことなんて明らかなのに、それ以降も次から次へと求婚する者が現れては玉砕されていました。

 残り物たちは諦めて次の令嬢たちに声をかけていきます。そんな中、最初にナタリアさんに求婚した青年が私の方へと歩いてきました。


「ジュラー侯爵令嬢ヒジリ様でしたか。初めまして」


「……えっと、ごきげんよう」


 すっかり壁の花になっている私に目をつけたということは、ジュラー侯爵家との強固な繋がりを求め、なんとしても婚姻関係を結びたいのかも知れません。


「お義姉様のナタリア・ジュラー侯爵令嬢もなかなか魅力的なご令嬢でしたが、貴女はそれ以上に愛らしい」


 歯の浮くような言葉を並べ立てられているものの、全て耳を素通りしていきます。

 独り者の私は、相手が誰であろうと一曲でも踊れる可能性ができたことを喜ぶべきです。この機会を逃したら本当に誰とも踊れないままパーティーが終了してしまう可能性だってできてしまうのですから。


 でも――。


「すみません、失礼します」


 こちらを狙う肉食獣のような目つきが怖くて、逃げ出してしまいました。

 彼が求めているのは私ではなく、あくまで『ジュラー侯爵家の令嬢』。歯の浮くような言葉は全て偽り。そんな相手と踊る気には、全くなれませんでした。


「はぁっ、はぁっ、はぁっ」


 ドレスでの足捌きやヒールで地面を蹴るのはなかなか難しく、何度も躓きそうになりながら駆け続けます。

 そんな自分がなんだか哀れで仕方なくて、乾いた笑みばかりが浮かぶばかりです。


 エムリオ様の前では強がっていたくせに、セルを見てもナタリアさんを見ても男性に話しかけられても惨めな気分になるのなら、誰の目のつかない場所に逃げてしまいたい。

 その一心で走り回り、やがて、見つけました。


「ここ、は……!」


 パーティー会場の片隅、ひっそりと外に突き出している一角。

 それがテラスというやつだと気づいたのは数秒凝視したあとのことです。


 ――もしかするとここなら誰もいないかも知れない。

 そう思った私は、飛び込むようにしてテラスに飛び出したのです。


 そこで懐かしい知人の一人と顔を合わせるとは、露ほども思わずに。

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