221:ダンスパーティーの幕開けを飾るのは
楽しい時間というのは本当にあっという間に過ぎるものです。
セデルー公爵領でのミランダさんがどう過ごしていたか、反対に私が侯爵家の養女になってからの話。他にも様々な雑談を交わすうち、すっかりテーブルの皿は全て空になってしまっていました。
「は〜食べた食べた。ごちそうさまでした。美味しかったですね」
コルセットがきつくて満腹まで食べられませんでしたがそれでも充分満足できるほどの美味。さすが王家のパーティーだけあります。
令嬢らしい所作を忘れてお腹をさする私に、ミランダさんがわずかに微笑みながら言いました。
「ヒジリ嬢と一緒にお食事できて良かったです。
それでは私はこのあたりで失礼いたします。ヒジリ嬢、またお会いしましょう」
本当はもう少し話していたいところですが、ミランダさんは私と違って暇なはずがないのです。交友関係も圧倒的に多いでしょう。
「さよなら。ミランダさんのおかげですっごく楽しい食事になりました!」
ミランダさんがいなければ、きっと私は一人きりだったに違いありません。
知り合いと言って思い当たるのは、ミランダさんの他はナタリアさんのご友人か、モンデラグ男爵令嬢のエマさんくらいなもの。しかしそれも大勢の貴族に紛れて姿さえ見えないのですから。
「そろそろナタリアさんでも探しに行きますかね」
歩き去るミランダさんの背中を見つめながら呟き、私も別方向へ向かおうとした――ちょうどその時のことでした。
高らかなファンファーレがパーティー会場に鳴り響いたのは。
「国王陛下及び王妃陛下、王太子殿下、タレンティド公爵令嬢のご入場!」
入り口側の大扉の向こうから真っ先に現れたのは国王夫妻。そしてその後ろにエムリオ様とセルがいました。
きっと食事はパーティーの前、王城などでもっと豪華なものを食べてきたのでしょう。てっきりもうパーティー会場のどこかにいるものだと思っていたのですが、王族とその婚約者は特別ということなのですね。
貴族たちが一斉に跪き、慌てて私もそれに倣って膝を折りました。
「皆の者、今宵はこの場へ集ってくれたこと、誠に感謝する。これよりダンスパーティーを開始する」
国王陛下の宣言。
それがなされるとすぐに貴族たちは立ち上がり、それぞれのパートナーの手を取ってテーブルを離れ始めてしまいます。
「えっと、えっと、ナタリアさんは……」
ナタリアさんと侯爵夫人、侯爵様の姿を探しますが、人が多過ぎてわかりません。
そうこうしている間に私はなすすべなく人の波に呑まれていってしまったのでした。
「ロッティ、ボクの愛しの花。一緒に踊ってくれるかい?」
「ええ、もちろんですわエムリオ」
侯爵夫人から聞いた話によると、ダンスパーティーというものは王族が真っ先に踊る決まりになっているそう。
ダンスパーティーの幕開けを飾る一曲目を踊ることになったのはエムリオ様とセルの二人です。
それから始まったのは、優雅という以外の言葉が見つからないダンス。
翻る度に宝石の輝きを放つドレスが眩しく、目を奪われます。
二次元から飛び出してきたかのような美男美女。あの婚約破棄騒動で一度破局になりかけたことを知らなければ――いや、知っている私であってもお似合いだと思わずにはいられません。
「私には絶対、あのレベルのダンスは真似できないですね……」
今や私も同じ令嬢なのに、レベルが違い過ぎます。経験年数が全く違うのですから当然の話ですが。
まだまだ私なんて及第点ギリギリなんだなと思い知らされます。
セルたちの傍、国王様と王妃様も踊り始めました。
二組がくるくると回りながら幻想的なまでに美しく舞踏する王族たち。
私はそれを少しばかりうっとりした気分で眺めていたのでした。
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