219:パーティー会場入り
パーティー会場があるのは、王城からそれほど遠くない場所にある一角の大きな宮殿でした。
すでに馬車がずらりと並んでいて、先に入場している人が大勢いるのだとわかります。今から入場しようとしている人の姿も見えました。
パーティーは学園の卒業パーティー以来ですが、あれは同い年の令嬢令息だけだったのに対し、今回は老若男女、ほとんどこの国の貴族全員が集まっているという話です。
一体どんな場所なのか、そして私は果たしてうまくやれるのか。考えれば考えるほど緊張してきてしまいます。
「私のエスコートはお父様が。そしてヒジリ様はお母様と一緒にいてくださいませ」
すっかり集まりに慣れているに違いないナタリアさんはそんな風に言いながら、優雅に馬車――宿に泊まっている間に買ったものなので装飾は貧素ですが――を降り立ちました。
まさしく淑女然としたその姿はとても美しく、周囲の目を惹きつけているようです。まさか彼女がつい一時間前まで憧れの女騎士を前に大興奮していたとは誰も思わないでしょう。
彼女の手をジュラー侯爵が取り、私は侯爵夫人に寄り添われます。
本来、こういう場は異性が誘導するべきらしいのですが、私にはお相手がいないのです。
エムリオ様を一瞬思い浮かべ、ぶんぶんと首を振りました。あの人はセルの婚約者。私がエムリオ様の横に立つ資格などないに決まっていますから。
「それはさておき……ニニは来ないんですか?」
背が高いニニなら、私をリードするのも格好がつく気がするのですが。
しかし私の考えは単純過ぎたようで。
「護衛騎士でしかないわたしが聖女様を導くなどたいへん畏れ多いことでございます。わたしは国の近衛でもありますから、衛兵として会場に行くつもりではございますが」
「へぇ、そういうものなのですね。お仕事頑張ってください」
「ありがとうございます」と頷いた彼女はすぐにどこへともなく消えていきました。
ニニは私の護衛騎士になったとはいえ、この国最強の女騎士であることに変わりありませんから、引くて数多なのは当然でしょう。
パーティー会場は貴族の多くいる戦場のような場所……とはいえ、身の危険はさすがにないと思いますから大丈夫なはずです、多分。きっと。
かつん、かつんとヒールを鳴らし、パーティー会場入りします。
回転式のドアをくぐり抜けた瞬間――そこにはまるで西洋画の中のような光景が広がっていました。
天井を飾る豪華なシャンデリア。
目に鮮やかな赤い壁、ずらりと並べられたテーブルの数々、花瓶に生けられたたくさんの薔薇の花……。そして何よりも目を引くのは、色とりどりのドレスや礼服の輝きでした。
参加者はざっと千名以上というところでしょうか。会場は広大なホールですが、それでも密度がすごいです。
どぎつい香水の匂いが鼻をくすぐり、むせ返りそうになりました。
「ヒジリ様は初めてですもの、驚かれるでしょうね。これが社交界というものでしてよ」
耳元で囁かれる侯爵夫人の言葉に、こくりと頷きを返すのがやっとです。あまりに圧倒され過ぎて。
しかし驚いてばかりもいられません。早速「ジュラー侯爵家の方々がお目見えになりましたわ」などと言って、名前も知らないご婦人方がやって来ています。
それだけではなく、ぽっちゃりとした小太りの紳士や、いかにも身分の高そうな初老の男性などの姿も見えますね。
「対応はまずわたくしがいたします。ヒジリ様は見て覚えてくださいな。こんなものは慣れですわ」
「私もお手本になりますの。これでも私、社交界では顔が広い方ですので」
「それなら私は男衆の相手をしておくことにしましょう。男には男なりのやり方がありますからな」
ジュラー侯爵家の方々の頼もしいことと言ったらありません。
その分私はしっかり見習わなくては。唇を噛んで気を引き締め、前を向きました。
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